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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【クリーブランド編】
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七話

 魔導術を使うには第一世界に接続し、魔法力を自身に供給することで使用可能になる。


 祠導術の場合、数年前までは第一世界以外の異世界に接続し、その世界に住む人間の魂の一部を借りる。が、ここ数年で第一世界の住人からも魂を借りられるようになった。


 祠徒を召喚するのも才能の一つで、人によって召喚できる人数が違う。運否天賦とはよく言ったものだ。その召喚も政府に申請してから行うか、もしくは召喚後に政府に申請して個人情報登録しなくてはならない。


 魔導術を構成するにはいくつかの順序が必要になる。魔導系統は攻撃系、防御系、補助系、治癒系に分かれる。その魔導術の大まかな行動範囲。


 指向成型は増減型、分解型、解析型、照射型など、その魔導術が及ぼす具体的な行動。


 命令規式は自然式、生物式、物質式などの対象。


 属性分類は火属性、水属性などの分類だ。


 一つの魔導術でいくつもの魔導系統、指向成型などを含む場合もある。術式が複雑になるので学生が使うことは少ない。


 学生の身分では簡単な術式、自身の身体を強化する、空気の壁を作り出す、炎や水などを物質のように扱うなどが基本となる。だからこそ、その優劣イコール魔導術の成績にもなっていた。


 俺から見てアリシャは基礎ができている。それだけでなく、学生よりもずっと高度な魔導術を使えている。夢もドンもそうだが、そんな彼女たちが束になっても殺人犯には敵わなかった。つまりそれは、一般生徒では足元にも及ばないということにもなる。


 夢とドンの話によると、昨日のコート野郎が猟奇殺人の犯人だという方向で学校側が動くらしい。昨日もまた死体が上がった。俺たちがいた、あの住宅街だった。広範囲で指名手配もされるみたいだが、顔を見た者がいないのでかなり難しいとのこと。あれだけ至近距離で顔を見た俺でさえ、あの目に釘付けにされてしまった。被害者は全員死亡。警察も軍部も学校も手をこまねいている状況だった。


 紅白戦を明日に控え、俺はドンにある告白をした。アリシャと夢がいない状況はあまりなく、二人がトイレに行った今しかないと思った。


「なるほど、あの男と勝負か」


 弁当をしまったドンが、腕を組んでそう言った。


「ああ、だからお前にも協力して欲しい。実は夢にも見られちまってな、隠し通したかったんだが……」

「いつかはバレることだ。アリシャには言ったのか?」

「いや、アイツに言うつもりはない。できれば知らないまま終わって欲しいからな」

「お前はそれでいいのか? 彼女ならば絶対に受け止めてくれるだろうに」

「受け止めちゃうだろ、アイツなら。アイツはなにかと俺を守りたがる。真実を知ったら、どういう行動に出るかわかったもんじゃない」

「しかしお前がちゃんと引き止めれば暴走することはないだろう?」

「確かにそうなんだが……」

「なんの話?」


 顔を覗きこまれ「うおおおおおおおおおおおお!」と言いながら椅子からひっくり返った。


「さ、さあなんの話だろうな」

「灰村爽夜とイッキが戦うって話?」


 もう一度「うおおおおおおおおおおおおお!」と言いそうになった。


「おい夢! お前言ったのか!」


 ハンカチで手を拭いている夢が、小さく舌を出して笑っていた。


 俺が今までしてきたことを全てぶち壊していく、それが俺の幼なじみ奇岩島夢という女だ。


 額に手を当てため息をついた。


「大丈夫。大丈夫だよ、私にも関係あることでしょ? 一緒にがんばろ」

「おまえ……」

「一緒にがんばろ、子作り」

「ちげーんだよなー、会話の流れが咬み合ってないんだよなー」

「まあ落ち着けイッキ。とりあえず俺と夢とアリシャは当然協力する。しかし四人だけではなにもできないぞ。奇数組と偶数組、ひと組三十人、ひとチームで百五十人だ。そのうちの四人があがいたって意味はない」

「それにこっちもあっちも十傑を中心に戦術を組んでくる。当然灰村くんが指揮をとるだろうし、灰村くんは人気もあるし信頼も厚い。表の顔だけはいい人だから」


 そう言ってから、夢がため息をついた。


「こっちの奇数組が、俺の喚起で動いてくれるとは思えない。でも頼み込むしかないんだよ。最悪は土下座でもなんでもしてやる。特に十傑には助けてもらわないとどうしようもない」

「そうだな、聖蘭くらいは手伝ってくれるかもしれないが、他がどうなるやら……」


 クイッと、ドンがメガネを直す。


「爽夜は間違いなく理人をメインで使ってくる。倒せないにしろ時間稼ぎは必要だ。しかも少数で、聖蘭を使わずに」

「なにかあてでもあるのか?」

「ある、とは言い切れない。でもなんとかできると思う」

「妙な自信だがここでは言えない、と」

「明日、みんなの前でちゃんと言う。作戦も考えとく」

「そうか、ならば信じておこう」

「じゃあ私も」

「夢は乗っかっただけじゃねーか。なんだか微妙な気分だな……」

「私も信じてるから」

「あ、ありがとう。腕を抱き込まないで、顔を近付けないで」


 アリシャの両肩を掴んで距離を取った。


 その時、横目で夢の顔が見えた。一瞬だけだが、すごく寂しそうな、物悲しそうな表情の後で我に返ったように笑う。そんな夢を見て、不安な気持ちがこみ上げてきてしまう。


 彼女を、彼女たちを守るために、今はその表情は忘れよう。


 俺には策がある。これがハマるかどうかはわからないが、爽夜の出鼻を挫くことくらいはできると信じたい。


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