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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【クリーブランド編】
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六話

「【我を守る七人の護衛】のクールタイムは?」

「……一日」

「お前、最初から俺を守るために使おうとしてたんじゃないか?」

「ええ、イッキにだけは――」

「どりゃ!」


 両手で彼女の頬を両側から押さえた。


「な、なにしゅるの」

「それでお前が怪我してたら意味ないだろ。俺の心配してくれんのは嬉しいけど、お前が傷つくのは俺もイヤなんだ」

「イッキ……」

「いいか? その盾は俺にも使うしお前にも使う。同時に攻撃されたら自分を優先しろ。いいな」


 鼻を鳴らし、戦ってる二人の方向へと視線を向けた。重心を下げ「行くぞ」と小さく言った。


「了解」


 アリシャの一言を聞き、俺は大地を踏みしめて一気に加速した。


 きっと俺の攻撃は通用しない。拳なんか振りかぶったもんなら、手首掴まれてへし折られるんじゃないだろうか。だから、俺は俺ができることをする。


 夢とドンが離れた隙に側部に回りこむ。でも攻撃はしない。俺がこの位置にいるということがなによりも大事なのだ。


 コートのヤツがこちらを向いた。真っ黒なマスクで鼻から下を覆っているので顔はわからない。が、ヤツの目は血走り爛々としていた。眼光は鋭く、喉元にナイフを突きつけられたような気分になる。


 そう、俺という戦力外通告も甚だしい男へと視線を向けたのだ。


 それもそのはず。身体からキラキラと光を垂れ流し、魔導力だけは限界まで絞り出してる。強力な魔導力、当たる当たらないは別としてもこちらを無視することなんてできないはずだ。俺みたいなヤツの攻撃だって、魔導力を思いっきり乗せた拳だ。当たったらかすり傷じゃ済まない。


 音もなく、アリシャが反対側で蹴りを放った。


 コートのヤツが右腕で防いだ。しかしそれでは遅い。骨が折れるような音がして、ヤツは遠くへと吹っ飛んでいった。幸いにも建物には当たらなかったが土煙が高く上がる。


「やったか……?」

「いえ、まだよ」


 土煙が晴れていく。が、魔導力の反応はあるけれどヤツの姿はどこにもなかった。


「やられたな」


 ドンが左腕を抑えたままそう言った。


「お前それどうしたんだよ」

「さっきの奴にやられた。一撃一撃があまりにも重い。あれは軍人でも手こずるぞ」


 夢の方を見ると、彼女もまたあちらこちらに切り傷を追っている。


「大丈夫か夢」

「問題ない。ちょっと痛いけど学校を休む程度でもないわ」


 少しだけ違和感がある。ドンが殴打、夢が切傷。どちらが多いではなく、打撃と斬撃の攻撃を人を見て判断して使っているような感じだ。


「なあドン、アイツはなにもんなんだ? もしかして連続猟奇事件に関係が?」

「まだわからん。ただ、新しく死体があがった。その近くにいたのがアイツなんだが、見つけたのと同時に逃げていったんだ。追ってきたらお前たちがいた。まあ大した怪我がなくてよかった」

「そっちもな。それにしても見回りって大変なんだな。アイツが犯人かどうかは別にしても、犯人かもしれない人間を追わなきゃいけないなんてさ」

「こっちも一応給料をもらっているものでな」

「給料よりも、お前は身体が動くタイプだろ。冷静沈着みたいなスタンスのくせに、いざとなったら身体が先に動いちまう」

「よく知ってるじゃないか」

「付き合い自体は三年目だけど、俺ら結構いろんなことしてるだろ。不良に絡まれた女の子助けて、その不良グループに囲まれたことだて覚えてるぞ。深いって有名な川で溺れてる子供だって無理矢理助けた」

「お前だって俺と同じような行動をしたから、女の子も子供も助かったんだろう。お前も俺と同類だ」

「まあそうなりますよね」


 ははっと、二人して乾いた笑い声を上げた。


「そこで思い出話をしてる場合じゃないでしょ? 生徒会長に報告しないと」


 夢が割って入り、話の方向を元に戻す。


「そうだな。イッキもアリシャも怪我がなかったことだ。俺たちは一度学校に行くが、お前たちはこのまま家に帰れよ」

「あいよ、気を付けてな」

「こっちのセリフだ」


 俺が拳を出すと、ドンは自分の拳を当ててきた。


 傷ついた二人をそのままにしておくのはどうかと思ったが、あの様子ならば問題なさそうだ。


 二人の背中が見えなくなると、アリシャがジャージの袖をクイッと引っ張った。


「どうした?」

「怪我ない?」

「いや、それはこっちのセリフだから。腹大丈夫かよ」

「問題ない」


 そう言われると触りたくなる。


 体ごとアリシャを向いて、ごく自然な動作で腹に触った。


「いつっ……」

「ほら見ろ、嘘じゃねーか。魔導術で防御してても、少しでも反応が遅れればもろにダメージに繋がる。相手も強かったし仕方ないわな」


 くるりと背を向け、彼女の目の前でしゃがみこんだ。


「ほら、乗れよ」

「おんぶ、してくれるの?」

「ああそうだよ。ちょっと汗臭いかもしれんけど我慢しろ」

「でも私も汗臭い……」

「別に気にしないから早くしてくれ。誰かに見つかったら恥ずかしいだろ」

「見つかったら見つかったでいい」

「いいから!」

「うん」


 肩に触れられた。戸惑っているのか一度手を引く。が、その後で体重を預けてきた。


「よいしょっと」


 よろけながらも立ち上がる。重い。そりゃ人間なんだし、どんだけ細くて軽かろうが重いものは重い。予想よりは軽かった、ってところだろうか。


「重くない?」

「人間なんだから重くて当たり前。でも軽いよ、問題ない」


 一歩、また一歩と前に出た。すると、アリシャが俺の首筋に顔を擦り付けてくる。こそばゆいなんてレベルじゃないが、なんというか嫌な気はしないし彼女もわざとやってるわけじゃなさそうだ。たぶんだけど。


 風が吹くと少しだけ肌寒い。運動の後だからなのだろう、夏がもうそこまで迫っているのだ。


 彼女の体温を感じながら家に向かった。女には縁がないと思っていた俺がこんなことになるだなんて、一週間前の俺だったら想像もできなかっただろう。しかし、俺はまだ彼女のことを異性として見ていいのかどうかわからない。


 別に女慣れしてないからとかそういうわけじゃない。断じて。ただ、今は彼女の好意に甘えているだけのような、そんな気がしてしまったのだ。


 まだこのままでいいだろう。この関係のまま、少しずつ理解していけばいい。


 この気持ちが彼女に届けばいいなと、そんなことを思いながらも住宅街を歩き続けた。


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