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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【クリーブランド編】
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五話

 夢は風紀委員、ドンは生徒会役員。そのため、今日の放課後には見回りをするらしい。仕方なくアリシャと帰路を歩いていると、彼女は「どうしたの?」と顔を覗き込んできた。俺は「なんでもないさ」と言って、たわいない話で場を濁した。


 帰ってすぐに着替えた。俺は中等部時代のジャージ、アリシャはピンク色のワンピース。ワンピースが部屋着か、なんかこれはこれでいいな。


 それから夕食を食べ、それから一時間ほど勉強した。


 テレビを見たりもした。いちいち手を握りたがるのは彼女のクセなのだろうか。


 ニュースでは猟奇殺人が取り上げられていた。このご時世、すぐに片付く事件もかなり多い。導術という便利アイテムがあるからだ。それなのに犯人が捕まらない。警察が無能というよりも、犯人がなにかをしている、もしくは複数犯で上手くアリバイや証拠の調整をしているのかもしれない、と専門家は語っていた。


 ふと、隣に座るアリシャを見た。


 アリシャという少女がどれだけすごいのか、俺はここ数日でよく理解した。風呂を沸かし、ご飯を作り、洗濯をし、勉強を教えてくれる。それでいて頭が良く、戦闘もきっと俺より強い。


 しかし彼女には欠点がある。時折お腹を撫でて「よーしよし、あと二年もすれば立派な赤ちゃんですよー」と言うのだ。彼女の頭の中ではものすごい計画が組まれているに違いない。小さな歯車ががっちりハマっているのではないかとさえ考えてしまう。愛おしそうに腹を撫でるので狂気じみているのがまたヤバイ。そして俺の貞操も危ない。


 どうしてだろう。美人に言い寄られているのにこうなってしまう。追われると逃げたくなるのだろうか。


 さすがにちょっと怖くなった俺は、気分転換にランニングをすることにした。


「どこか行く?」


 立ち上がった俺を見て、アリシャはいつもと同じ表情で言う。


「ちょっと走ってくる。先に風呂入ってていいぞ」

「先にお風呂……運動してきた後で更に私と運動を……?」

「なんでそうなるの? すごいね、キミホントすごいよ。感服だよ」

「冗談。私も一緒に行く」


 スッと立ち上がった彼女はガバッとスカートを持ち上げたかと思うとサッと着替えた。たくさんの擬音語が脳裏をよぎったがまさにそんな感じだった。


 着替えたのは青いジャージ。俺のジャージも青いのでちょっと恥ずかしい。


「よし、行こう」

「おーけー、俺はゆっくり走るから置いてってもいいぞ」


 俺がそう言うと、彼女はゆっくりと首を左右に振った。


「一緒に走る」

「はいよ」


 PDと鍵、小銭入れと学生証を持った。一応PDにも学生証はインストールされているが、万が一ということもある。その万が一は不明だが、備えあれば憂いなんちゃらだ。


 玄関を出て、とりあえず住宅街に向かった。


 二回息を吸って二回息を吐く。繰り返し、繰り返す。時刻は九時を過ぎているためか、住宅街には人がいない。ここまでで約三キロ程度。まだまだ余裕がある。


 住宅街にはアパートやマンション、一軒家が所狭しと立ち並ぶ。特に高層マンションの周りにはジョギングなどに使えるよう、整備された道路が造られている。


 その道路を走っていると、遠くでガチャンという音がした。


「イッキ」


 アリシャが脚を止めた。


「どうした? 今の音か?」

「音もそうだけど、妙な魔法力が近くに漂ってる」

「魔法力? 全然感じないんだがっておい! どこ行くんだよ!」


 マンションやアパートが立ち並ぶ方向へと走っていくアリシャ。急いで追いかけるが元々の身体能力が違うせいか追いつける気がしない。


 たくさんある部屋からはこうこうと明かりが漏れている。が、彼女の異様な反応が嫌な予感を生む。俺の胸の中で、黒い予感が徐々に大きくなっていった。


 月は雲に隠れてしまった。部屋から漏れる明かりと、ポツポツと点在する街灯だけが世界を照らす。


 マンションの敷地内、街灯の前で彼女が立ち止まった。よし、これで追いつけると思ったその時、何者かがアリシャに攻撃をしかけた。遠目なので詳細はわからないが、黒いハットに黒いコートを羽織っている。この時季にコートを着ているというだけでも怪しさしかない。


 コートの人物が左ハイキックを打つ。いきなりの攻撃だが、彼女はしっかりと反応し応戦していた。


 単純な肉弾戦ならば五分。決してアリシャが弱いわけではない。俺の視点からだが動きはとても素早く的確だ。つまり、相手がそれだけ手練ということになる。


 幾度か攻撃を仕掛け、相手の攻撃を何度か避ける。その繰り返しをしていく中ですぐに均衡は崩れた。


 コートの人物の掌底でアリシャが吹き飛んだ。


 俺は魔導術で脚部を強化。同時に風属性の魔導術を使って一歩の速度を上げる。アリシャが飛んで行く方向へと、カーブを描くように接近し、なんとか彼女を受け止めることができた。


「あり、がとう」

「どういたしまし、て!」


 アリシャを受け止めた直後に障壁を展開。コートの奴が突進してくるのを防いだ。


 が、拳で二発殴られて壊されてしまった。それは俺とコイツの力量差を示すには充分すぎる光景だった。


 早く、そして力強い。コートのヤツは身体の線が細く、一見すると攻撃力も低く見える。物理的でなく、魔導術という概念が介入すると、その考えは一瞬にして消し飛んでしまうわけだが。


 拳で障壁を破壊し、勢いを利用して回し蹴りを放つ。俺は動くこともできず、コートのヤツの回し蹴りを見ていることしかできなかった。


「「はあ!」」


 女性の声と男性の声が聞こえた。


 その瞬間、俺の前に二枚の障壁が重なって出現した。そして視界に飛び込んできたのは俺の友人二人。


「夢! ドン!」


 コートのヤツは障壁に攻撃を加えたあと、すぐに飛び退いて体勢を整えた。夢とドンは隙を与えず攻撃を仕掛ける。


「大丈夫かアリシャ」


 彼女は「うん、心配しないで」と言ったあとで「イヤ、やっぱり心配して欲しい」なんて言いながら頬を染めた。


「今はそういうのいらないから! とりあえず立ってくれ。アイツらもいつまでもつかわからん」

「わかった、加勢する。イッキは前に出て攻撃を引きつけてもらえる?」

「俺? 俺がか?」

「大丈夫、旦那様には指一本振れさせない」

「ダンナじゃねーよ。でも、なんか自信ありそうだな」

「【我を守る七人の護衛】なら遠隔操作できるから、イッキは攻撃を避ける必要がなくなる」


 そうだ、コイツは盾を出す祠導術が使えるじゃないか。そう思って、すぐにある結論にたどり着いた。コイツだからこそやりそうで、コイツだからこそ本当にやりかねない。

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