表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【フロッグノウ編】〈ビューポイント:安瀬神理人〉
PR
49/114

最終話

 白い男は右手を前に出す。聖蘭の左腕に触れ、男の手と聖蘭の腕の間に白い光が現れた。温かく、それが回復系の魔導術であることはわかった。が、回復速度が尋常ではなく、光が現れてから五秒ほどで完治してしまった。


 今度は両手を前に出し、後ろを向けとジェスチャーされた。


 痛む身体で背を向けた。木にしがみつくような、少しだけ屈辱的な格好だった。


 これもまた回復系の魔導術で癒やしてもらった。背骨にもヒビくらい入っていただろう。肋骨も何本か折れていた。それを全て、数秒で治癒させたのだ。


「アンタ、誰?」


 振り向いて、そう言った。


 男は白いヘルメットの上から「シー」っと人差し指を立てた。聖蘭を抱き上げて立ち上がる。俗にいうお姫様だっこというやつだった。


「な、なにするの!」


 咄嗟のことだったので抵抗できなかった。疲れているのか上手く力が入らない。


 そんな聖蘭を無視するように、男は森の中を駆けていく。自分で走るよりも数倍速い。


 木を避けながら、一撃で魔獣を倒しながら、彼は走り抜けた。そして、ある場所で聖蘭は下ろされた。


 二百メートルくらい先だろうか、紫色の虎、自分たちが逃げ回っていた魔獣のところだ。魔獣は横たわり、その周囲を赤服が囲んでいる。


「勝った、のか」


 トンっと背中を押された。振り返ると、白い男はもういなかった。


「助けてくれたのか。一体何者なんだ……」


 首を横に振った。あれが誰かを知るのは後でいい。助けられた、助けてもらった、命がある。これだけあれば今は十分だと思った。


 歩く。しだいに早歩きになった。


「せ、セイラン!」


 驚いた様子のミゲルが叫ぶ。周囲の赤服に口を抑えられていた。


「遅れて申し訳ない」

「申し訳ないって、あの老兵はどうしたんだ?!」

「どうだろう、死んだか生きてるかはわからない。でも、ある人に助けてもらった」

「ある人って誰だい?」

「わからない。ヘルメットみたいなのを被ってたから。でも白い人、とだけは言える」

「白い……人?」


 ミゲルは眉根を寄せ、首をかしげて見せた。


 彼の仕草ももっともだ。聖蘭本人にさえ「白い男に助けられた」としか言えず、客観的に聞いたら理解しがたいものだとわかっているからだ。


「とにかく私は生きてる。任務を遂行しよう」


 周囲の赤服は、ややあってから頷いた。


 間違いなく自分は井の中の蛙だ。そして海に出て、生き残った。助けられただけだが、間違いなく生き残ったのだ。


 これはモラトリアムなのだ。大海に順応するために与えられた猶予にすぎない。


 仲間からでも敵からでもいい。盗める技術や覚えられることはすべて覚えろ。自分の心に、身体に言い聞かせた。


 白い男がもう一度助けてくれる保証はないのだ。自分で順応し、進化していく他に道はない。


 聖蘭は上空を見上げた。


 虫はまだ飛んでいる。あれがいつ襲ってくるかもわからない。けれど、襲ってきた時には必ず撃退してみせよう。もう一度紫色の魔獣がきたら叩き潰してみせよう。


 これからが勝負だと、頬を両手で叩いた。


 彼女はまた一つ進化した。自分がどれだけ強くなれるかはわからないが、学習能力だけはピカイチだった。


 赤服と共に魔獣の元を離れていく。任務は、まだ終わっていないのだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ