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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【エレメンタルセブン編】
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六話〈クロスオーバー:安瀬神理人〉

 理人がキッチンからリビングに行くと、テレビは緊急ニュースの真っ最中だった。


「おいおいおい、どうなってんだよこれ」


 つけていたテレビから流れてきたのは、駅がテロ集団に占拠されたというニュースだった。しかもそれは一騎とアリシャが住むアパートの最寄り駅。テロ集団の目的はいまだにわからないと言う。


「どうかしたの?」


 今度はエプロン姿の聖蘭がキッチンから出てくる。エプロンで濡れた手を拭きながら、理人の大声に対して首をかしげている。


「テロだってよ。しかも、イッキが向かうはずの駅だ」

「今の時間だと駅にいてもおかしくないわね」


 理人はPDを取り出し、急いでイッキに電話をかけた。


『おかけになったアドレスは、現在電波の届かないところにあるか電源が入っていません』


 そのアナウンスに顔をしかめる。


「ダメだ、繋がらない」

「アリシャの方もダメみたい」


 そう言いながら、聖蘭はまた別のアドレスをタップした。


 理人もまた、次は龍灯へと電話をかける。


『もしもし』

「おお、お前は無事なんだな」

『無事、というのはどういうことだ?』

「イッキたちが向かうはずの駅がテロ集団に襲撃された。イッキとアリシャが人質になってるかもしれない」

『俺の家は一騎たちとは逆だから被害はないが、そうか。もう少しでお前に家につく。そこで話をしよう』

「わかった、待ってる」


 そこで通話を切り上げた。


「夢も無事みたい。一本早い電車に乗ったって言ってた」


 もう一度テレビに目を向けた。どうやら駅全体に電波妨害と導術妨害がされているらしい。


「ほぼ確定かもな」

「二人同時に繋がらないのはおかしい。大昔は地下鉄では電波が入らないというのもあったらしいけど、今日電波障害なんてそうそう起きないし」

「ホント、アイツらはなにか憑いてんじゃねーのか? こんな短期間に大きな問題に巻き込まれるとか……」

「そういう星の下に生まれたのかもね」


 二人の間に数秒間の静寂がやってきた。が、それはチャイムによってすぐに掻き消えた。


「夢と龍灯、どっちかはわからないけど迎えに行ってもらえる? 私はお父さんに連絡してみるから」

「了解」


 大きな家であるため、リビングから玄関に行くのにも少し時間がいる。


 長い廊下を歩き玄関へ。ドアを開くと、そこには二人の男女が立っていた。


「おお、二人同時だったか」

「うむ、そこでバッタリ会った」

「まあいいや、とりあえず入れよ」

「それじゃあ失礼しよう」


 二人を招き入れると「おじゃましまーす」という夢の声と「お邪魔します」という龍灯の声が重なった。


 三人で連れてリビングに戻ると、ちょうど聖蘭がPDの通信を終わらせるところだった。


「どうだった、聖蘭」

「どうもこうもない。電話自体はかかるけど、忙しいのか出てくれない」

「あの職業じゃ、このテロ騒ぎで電話どころじゃないんだろうよ」

「それでイッキとアリシャがあの駅にいるって本当?」


 兄妹の会話に夢が割り込む。龍灯もまた「うんうん」と頷いていた。


「二人とも電話が繋がらない。しかもニュースじゃ占拠された駅に電波妨害ときたもんだ。間違いなく、アイツらはあの駅にいる」

「しかし、いたとしても俺たちができることなんてないだろう。警察や軍部が動くのを待つしかない」

「でもよ、それで殺されちまったらどうすんだよ」

「だからってただの学生が首を突っ込んでいい問題じゃないだろ。特にお前と聖蘭は安瀬神の姓を持って生まれた。そのことをよく考えた方がいい」

「逆にだ、学生だからできることもあると思わねーか?」

「思わん。リスクが高すぎる。お前が介入して、それが原因で人質が殺されたらどう責任を取るつもりなんだ。お前も本当はわかっているんだろう?」


 ぐしゃぐしゃと、理人は自分の頭を乱暴に掻いた。


 わかってはいるけれど、なにもできない自分がイヤなのだ。なにかできたかもしれない、動けば変わったかもしれない。そんな自己中心的で高慢な気持ちが理解を阻害する。心の奥底ではわかってはいるのだ。自分は強いけれど、それでもただの学生でしかないのだと。学生でしかないが、間違いなく軍人よりも強い自信もある。だからこそ悩み、苦しむ。


「でも――」


 その時、夢が口を開いた。


「でもさ、見に行くくらいなら野次馬で済むんじゃないかな?」


 夢以外の三人は薄っすらと口を開けたまま止まっていた。


「わ、私なんかおかしいこと言ったかな」


 フフッと、聖蘭が笑う。


「いや、いいんじゃないか? 夢らしくて私は嫌いじゃないぞ」

「そう言ってもらえるとありがたいかな……」

「行くのはいいが、理人の面倒は聖蘭が見てくれなければ困る。俺では止められない」

「いいよ、その辺はわかってるから」

「俺が珍獣かなんかみたいじゃねーか」

「実際珍獣みたいなもんでしょ? 手綱を持つ私の気持ちも考えて欲しいわ」


 聖蘭はため息を吐きながらエプロンを脱いだ。黒いノンスリーブネックタートルとスキニーデニムは彼女がよくする服装だった。


「さ、行きましょう」


 用意はしなくていいのか、と理人は思う。が、化粧はしないしこの格好で出かけることも多い。そのため、これ以上は言うまいと言葉を飲み込んだ。


 安瀬神兄妹を先頭に、四人は玄関に向かった。今あの場所がどうなっているのかなどの情報収集も忘れて。

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