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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【クリーブランド編】
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十二話〈クロスオーバー:天崎龍灯〉

 旗の近くに到達すると、両サイドから攻めているはずの協力者はまだいない。


 それもそのはず、正面を突っ切ってきたのだ。


 敵の三人の十傑は、こちらの十傑が相手をしている。そして残った二人の十傑は理人と爽夜。ならば脅威はない。


 そう思っていた。


「なに、これ……」


 夢がそうつぶやいた。


 旗を囲うようにして生徒たちが固まっている。それ自体は問題ではない。問題なのは、百五十人あまりの生徒、そのほとんどが敵陣を占領していることだった。


「最初から理人がいればなんとかなる。きっと灰村はそう思っていたんだろうな」

「十傑がいなくたって、この数を三人で相手にするのは流石にキツイわよ?」


 十傑と一般生徒の差は、学生と軍人ほどの差がある。しかし、一般生徒同士ならば、成績の上下はあってもそこまでの差にはならない。龍灯も夢も一般生徒の中では強い方だが、一人で何十人も相手にできるほどの力はない。


 先にきた聖蘭が果敢にも戦っている。一人で、この大群を相手に。


 ダメージを最小限にしようとしているのか、倒れた生徒たちが復活し、何度も聖蘭に挑む姿が見られる。


 安瀬神聖蘭は強い。理人と並び、百年に一度の逸材、神童、天才と誉れ高い。しかし彼女はまだ学生で、大量の敵と戦うという経験が皆無だった。そのため力加減が上手くできていない。特に本来の目的が旗の奪取であるため、意識が若干別の指向性を持っていることもまた原因の一つだろう。


 夢の額から一筋の汗が流れた。それを見た龍灯もまた少しずつ焦り始める。


 想定外と言えば嘘になる。が、ここまで露骨な作戦に出ると思わなかったのも事実だ。


 一度深呼吸をし、夢の肩を叩いた。

「おいユメ、構えろ」

「ど、どういうこと?」


 夢と目が合うと顎で聖蘭を差した。


「全員を倒す必要はない。本来ならば聖蘭の役目だがお前が旗を取りに行け。安瀬神が道を作ってくれている。残りは俺がなんとかしよう」

「でもリュウの祠徒って人払いができるような能力はないでしょ?」

「確かに祠導術は魔導術に比べて制限が少ないものが多い。しかし魔導術が祠導術に劣っているわけじゃないからな。さあ行くぞ」


 一つ頷く。自分がやるのだと、先頭になって生徒の中へと突っ込んでいく。


 龍灯の祠徒もそうだが、夢の祠徒も「模擬戦」には向かない。完全なる実践、つまり人を傷つけることを想定した戦闘ならば功績を残せるかもしれない。だがこの訓練でそれをしてしまうと教師たちの心証にも関わる。なによりもまだ学生で、力加減を事細かに行えるほどの技量が備わっていないのだ。


 聖蘭が道を拓く。先頭を走る龍灯がその道を整理する。そして、人がいなくなった道を夢が駆け抜けた。


 聖蘭は強い。たいだいの生徒は彼女の前では無力だ。しかし彼女も万能ではない。その撃ち漏らしをさばくのが龍灯の役目だった。


 それもまた、完璧にはいかない。


 夢の行く手を障壁が阻んだ。幾重にも連なる、多数の生徒が作り上げた分厚い障壁だった。龍灯も夢の手伝いをしようとするが、紅組の生徒がそれを許してはくれない。


 何度も何度も攻撃をして、夢は強引に障壁を壊している。が、一枚二枚ではないので一向に前に進めない。


 でも、一騎が誰のために理人と対峙しているのか。どうして生徒のために頭を下げたのか。自分がそう思うように、きっと彼女もそう思っている。


「くじけるな!」


 思わず大声を上げていた。


 龍灯の声を聞き、夢はハッとしたように目を見開く。


「私が、やるんだ……!」


 表情はいつもどおり、楽観的だが非常に強気に眉毛を上げる。


 彼女がどんな気持ちなのか、詳細は龍灯にもわからない。けれど、彼女はただただ障壁を砕き続けていた。

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