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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【ロンリーウォー編】
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二話

「それにしても、可哀想だよな」

「アリシャさんのこと? まあ、どうしようもないことってあるよな」

「それでもよ、スーベリアットじゃあ普通の生活してたんだろ? それなのにいきなりドルバレスにつれてこられたり、今度は「お前が犠牲にならなきゃ世界が終わるぞ」って、そりゃねーよってなるだろ」

「確かにな。俺たちよりも若い、しかも女の子に世界を託すってどうなんだろうな」

「恋人もいて、これから楽しい時期だっただろうに」

「しかもその恋人がアリシャさんを追ってドルバレスに来たって話しじゃん」

「そうじゃなきゃ俺達がこうやって見回ってることもないだろ。その恋人は一度世界を救ってるんだ。アリシャさんに近づけさせたら、たぶん攫って逃げるだろうよ」

「なんつーか、応援してやりたい気持ちもあるんだけどな。それをさせてやるわけにもいかない」

「世知辛いなあ」

「ホントだよ。おい、お前も会話に入って来いよ」

「俺は、いいよ。特に、興味もない」


 二人が饒舌に会話する中で、一人だけ無口の男がいた。三人いるのに実際会話をしているのは二人だけという状況だった。


 アリシャの恋人って、俺のことだろうな。


 情報収集のつもりだったが、こういう話を聞いてしまうと倒しづらくなる。聞かなきゃよかったと若干後悔した。


 三人の兵士はそのままに、俺は川の中を泳ぎ続けた。


 アリシャを追うことに代わりはないが、彼女に追いつくタイミングを考えなきゃいけない。


 できれば兵士が少ない状況で、できるだけアリシャの近くから飛び出せるような形で。


 しかし、俺の中には明確な答えがない。


 アリシャに会ってどうしたいのか。どうするのが正解なのか。


 正直なところ、それがわからないままアリシャに会ってどうなるというのだろう。もう一度会いたいだけというわけではない。けれど彼女を攫って逃げたいのかというわけでもない。


 自分の気持ちもわからないまま、俺は泳ぎ続けた。


 兵士がいなさそうなところで一度川を出た。


 マップで兵士の位置とアリシャの位置を確認。距離的にはあまり離れていない。兵士の集団も近くにはいない。


 気持ちの整理という意味も込めて、変身を解いてから木陰に腰を下ろした。


 このまま時が止まってくれればいいという気持ちが半分。速く追いつかなければという気持ちが半分。それ以外にも、雑音にも似た微妙な感情が入り混じっていた。


 体育座りのまま頭を抱えた。


 勢いだけで来てしまったことを少しだけ後悔していた。ちゃんとどうするかを考えるべきだったのだ。明確な意志がないままだから、こうやっていつまでも悩んでしまう。


「頭を抱えている時間なんてあるのか?」


 不意打ちだった。


 顔を上げ、即座に変身して距離を取った。


 声がしたのは上の方だったと、視線を木の上部へと向ける。


「いい反応だ。新品のプエルタもちゃんと使えてるようね」


 木の上から、一人の女性が降りてきた。


「アルマ……」

「私が来た、ということに関して驚いてるみたいだな」


 確かに、この前までは仲間だった。けれどケイトは言った。キミは独りなんだと。仲間などいないのだと。それならば、今この場において、アルマが味方か敵かなど考えるまでもない。


「当然だ。お前は俺を止めに来たんだろ?」

「ちゃんとわかってるのね。それならば話は早い。レアリダー、起動」


 一瞬だけ光に包まれて、彼女がルナレアリダーに変身した。そして、手のひらを上に向けてこっちに差し出してくる。閉じた指を二回起こし「来いよ」と挑発してきた。


「こっちは新型だぜ?」

「それはイッキの能力に合わせた進化だ。純粋な超強化による進化ではない。アナタにプエルタの使い方を教えたのは私よ。それに私はプエルタの開発にも関わっている。アナタが私に勝てる要素があると?」

「勝てる要素があるかないかなんて、この際ぶっちゃけどうだっていいだろ」

「言っている意味がわからないわ。ここで足を止めるつもりなの?」

「足を止めるわけにはいかない。だから、俺はやるしかないんだよ。できるかできないかなんて問題じゃない」


 左足をすり足で前に出し、上体を前に傾けた。


 水の音がうるさい。風も吹いてきた。長期戦は必至だが、長期戦になってしまったらアルマ以外の兵士まで来てしまう。ただでさえ大きな魔導力がぶつかり合うのだ、気づかれるのも時間の問題だろう。


 短く息を吐く。


 トンっと、軽い音をさせてアルマへと駆け出した。


 アルマとは数えるほどしか模擬戦をしていない。それに彼女が戦っているところを注視したわけではないので、どういう戦い方が正しいのかはわからない。わからないけどやるしかない。


 突っ込んでみて、確かに速度が上がっていると実感できた。当てるつもり半分で拳を振るう。避けられても追えるように、アルマの体捌きにも気を配っておく。


 しかし、俺の考えなどお見通しと言わんばかりに、彼女は俺の拳を受け止めた。


 さも当たり前のように、片手で受け止められてしまった。


「わかってないな。今まではそれでよかったのかもしれない。でもそれはプエルタの力があったからだ。アナタも私もプエルタを持っているのならば、今まで持っていたアドバンテージはゼロになる」

「んなことはわかってんだよ」


 ステルスで姿を消す。左手の手刀でアルマの手を跳ね除けた。


 退くのか押すのか。答えは一つしかない。


 プエルタに搭載されているステルス機能。たぶん、プエルタ同士のぶつかり合いも想定されているはずだ。つまりステルス機能を無効にする、もしくはステルス下であっても相手を捉えるたも機能がついてるはずだ。


 ただ一瞬だけでいい。相手の試行回数を増やせればいいのだ。


 ここは突っ込む。先手を取って、一発でいいから攻撃を当てるのだ。


 側部は背後に回り込むだけの時間はない。最速で、かつ有効な攻撃を真正面から与える。狙うのは腹でも顔でもない。


 魔導力を一点集中。


「ここだああああああああああああ!」

「それが浅はかだと言うのよ!」


 狙うは右足。攻撃力よりも機動力を奪うのが正解だ。


 が、アルマの右太ももへの拳が直撃するのと同時に、俺の顔面にアルマの拳がめり込んだ。


 視界が狭まり宙を舞う。グルグルと回転する身体を風属性の魔導力で元に戻す。斜め上に打ち上げられたため、体勢を立て直すのが難しい。それでもなんとか地面に着地することができた。


 痛い。けれど痛み分けな部分はある。その証拠に彼女は追って来なかった。右足へのダメージがちゃんと通っているということだ。

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