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底辺術師の生存証明《サブシステンス》  作者: 絢野悠
【クリーブランド編】
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プロローグ

「俺たちの目の前に現れるなんて不憫だねぇ」


 身長百九十を超える長身。筋肉隆々ではあるが無駄な肉はついておらず「戦士」という言葉がピッタリハマる青年が言った。前髪だけをワックスで持ち上げている。短髪だが、銀色の髪の毛はとても目立つ。少々堀の深い顔立ちと相俟って、チャラチャラとした印象を周囲に与える。


「そういうことは倒してから言った方がいい。というよりも、早く倒して行かないと遅刻する」


 黒く長い髪の毛をなびかた少女が十手を抜いた。目は大きく、鼻梁が通り、顎が細い小顔。スタイルはといえば女子としては平均的よりも少し低めな身長で、凹凸は少なくスラっとした体型。大男と並ぶと更に小さく見えてしまう。髪の毛は飾り物などなく、腰まである髪の毛がサラサラと風に揺れていた。


 二人が対峙するのはガルムと呼ばれる四足の魔獣。数年前より様々な異世界で現れるようになった魔獣の一種だった。身体は大きく、大の大人二人分以上はあるだろう。これでも小さな部類だ。


 二人はカバンを地面に落とした。カバンが地面に落ちる前に、男はハンマーを構えて猪突猛進と言わんばかりに突っ込んでいった。


 ハンマーの間合いギリギリで獲物を回すが、知っていたかのようにガルムに回避されてしまう。


「そんなんだから――」


 ガルムが避けた方向には、すでに少女が先回りしていた。


「避けられるのよ」


 十手を振り上げ、ガルムの身体を打ち上げる。自分の三倍以上はあろうかという巨体を、彼女は片手で打ち上げたのだ。


「お前のこと――」


 追従するのは男のハンマー。


「信じてるからだよ!」


 強風のような音がした。男が振ったハンマーが風を叩いた音だった。


 ガルムの腹部にぶち当たり、骨の砕ける音が空に舞う。当然のように、男の腕にもその感触があった。


 数十メートル吹き飛んだ。地面に落ち、息絶える。たった二回の攻撃で、魔獣の巨体が動かなくなった。


 少女はスカートの埃を右手で払った。


「さて行くわよ理人(りひと)、五分のタイムロスだわ」


 腕時計を見て少女が言った。


「わかってるさ聖蘭(せいらん)。さあ行こう」


 ため息をつきながら男が言った。


「カバンはアナタに任せるわ」

「おいおいマジかよ……」


 と、言いながらも男は二つのカバンを持った。なぜならば、少女が先に走りだしてしまったから。これも兄の仕事だと、もう一度ため息をついた。


 少女の名は安瀬神(あぜがみ)聖蘭、男の名は安瀬神理人。大柄な男と少女だが、これでも二人は紛うことなき二卵性双生児。双子だった。


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