プロローグ
「ここが俺の新しい現実…」
天谷翔は目の前の光景に唖然とする。
今、俺の目の前には無限に広がる草原、そこでは、モンスターが陸を歩き、空を飛ぶ。そんな、妄想はしていたが、期待はしていなかった非現実的な状況に直面していた
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月曜日、俺にとってそれは、最悪な1週間の始まりを知らせる1日だ。程度の差こそあるが、俺に限らず、学生時代を過ごしてきた人なら誰でも一度は勉強したくない、学校に行きたくない。そう思った事があるはずだ。
ぶっちゃけ俺は、勉強には苦労していないし、運度神経も割と良い方だ。
だが、それでも積極的に学校へ行きたいとは思わなかった。
その原因はいじめだ。俺はクラスメイトからいじめを受けていてた。
いじめられていた原因は、俺の家族にある。俺の家族構成は、父、母、兄、俺、妹の5人家族だが、父は政治家、母は売れっ子マンガ家、兄は国立大学の医学部に在籍していて将来有望、妹はテニスで全日本選手権の最年少優勝記録を大きく塗り替えた。マスコミは、そんな家族を奇跡の家族。と報道したが、俺だけは違った。俺は、さっきも説明したが、勉強が出来ないわけでも、運動が出来ないわけでも無く、総合的な能力ではむしろ、家族の中で1番だった。だが、中途半端な俺と違って、俺以外の家族はそれぞれ、ひとつの物事に対して、圧倒的なまでの才能を持っていた。
そんな俺は、クラスメイトや、家族にさえ見下され、学校にも家にも居場所がなかった。
しかしそれは、1ヶ月ほど前の話だ。
俺以外の家族は、旅行中の事故で全員死んだ。
なぜ俺だけが無事だったのかというと、事故った時に、知らない声がどこからか聞こえてきて、
「あなたにはやるべき事があります。よって、今あなたに死なれるのは困ります。なので、私が助けてあげましょう。」
その声が聞こえた後、おれは気を失い、気がつくと奇跡的に俺だけが助かっていた。
なんて事では当然なく、ただ単に置いていかれました。
俺は家族から、旅行の日程どころか、その旅行に行くという事すら知らされていなかった。
ただ、いつも通りに家に帰るとそこは無人で、テーブルの上に、「旅行に行ってきます。ご飯は適当に食べて下さい。」と書かれたメモだけが置かれていた。
あの時は流石に絶望したよ。実の息子を放って5日も家に帰って来ないとかどうよ?冷蔵庫に何も無いんだけど、金は?ご飯はどうやって作れば良いんだよ?とひとりで考え込んでいた。
まあ、お陰で助かったわけだし、良いんだけどね…
中学生の頃なら、どうすれば良いのか決断に困っていたはずだが、今は、これで家でゆっくり過ごせる。俺はそんな余裕な考えが出来るぐらいには強くなっていた。
俺には、家族が残してくれた(俺の為ではない)貯金や、交通事故による保険金等により、暫くは働かなくても生きていけるぐらいのまとまったお金が手に入った。
それでも自分の部屋に引きこもらなかったのは、高校ぐらいは卒業しないと後々面倒な事になりそうだ。と思っていたからだ。
朝食を食べながら、朝のニュース番組を見る。それが毎日の日課だ。今日の注目記事を確認すると、近くのコンビニで強盗が出た。とか、有名人が亡くなったとか、どうでも良い記事が延々と流れていた。
支度を終えた俺は、学校へ向かった。
教室の前に立つと、教室の中は、騒がしい程に賑やかだ。俺はため息をひとつ吐き、扉を開ける。すると、あれほどまでに賑やかだった教室は静まり返り、感じるのはゴミを見るような視線、聞こえてくるのは舌打ちだけだった。
息が詰まりそうなこの静寂を打ち破ったのは
ひとりの女子生徒だった。
「おはよー、翔。今日も時間ギリギリじゃない。どうせ、また夜中までゲームしてたんでしょ。」
そう声を掛けてきたのは川崎雫。透明感のある白い肌、艶やかな黒髪を腰辺りまで伸ばしていて、顔はもちろん、スタイルも良く、学校のアイドル的存在だ。そして、俺の幼なじみでもある。
「おはよう…」
俺は返事を返して席に着く。
「翔、今度の週末暇?暇だったらちょっと付き合って欲しいんだけど…」
「…行けたら行く。」
俺は、雫の誘いをやんわりと断る。
幼なじみだからか、雫は何かとひとりでいる俺を気にかけてくる。雫は、俺の事を心配してくれる数少ない内のひとりだ。
しかし、雫は気付いていないが、これがいじめを悪化させている原因のひとつでもある。雫は、校内外に関わらず人気が高い。校内では、ほぼ毎日のように告白を受けている(毎回断っている)。校外では、ナンパはもちろん、モデルのスカウトまでされている。要するにモテるのだ。ただでさえ嫌われている俺が、雫と仲良くしているのは許せないのだろう。
その証拠に、さっきまでの視線が、殺意のこもった視線に変わった。この視線をどう回避しようかと考えていた時、
「川崎さん。天谷君が困ってるよ。」
「そうだよ雫、そんな奴ほっといて私達と遊ぼうよ。それと天谷、あんたは雫に気を使わせて、恥ずかしく無いの?」
「…」
3人の生徒が、俺が困っているのを察してくれたのか、単に俺が雫と話しているのが気に食わなかったのか、俺達の会話に混ざってきてくれた。
俺を助けてくれた?男子生徒は、石川隼人。成績優秀、スポーツ万能、180cmはある高い身長と、甘いルックスで女子生徒から圧倒的な人気を誇る、リア充街道まっしぐらなイケメンだ。
次に、石川の言葉に賛同しながら、さらりと俺をそんな奴呼ばわりしてくれた女子生徒が山岸玲奈だ。彼女は雫の親友で、俺の事を心底嫌っている。
最後に、無言でこちらを見つめている男子生徒が、高村伊織。常に無口で、表情が読めない謎の多い生徒だ。
「そんなこと無い。私は翔の事…」
雫が何かを言いかけた時にちょうど授業開始のチャイムが鳴る。
チャイムが鳴り終わり、雫の話しの続きを聞こうとしたが、雫は、やっぱり何でも無い。と言って自分の席に着く。
俺も席に着き、授業の準備をする。途中、何度か雫がこちらを見つめていたが、俺と目が合うとすぐ逸らし、前を向く。
俺、何かしたかな?すみれにまで嫌われたらこの学校に味方いないんだけど…
なんだかんだで昼休みになり、周りでは、幾つかのグループに分かれ、それぞれ楽しそうに時間を過ごしている。
俺はいつも通り栄養補給用のゼリーを飲み干した。
なぜ、普通に弁当を食べないかというと、これもいじめに関係している。俺は中学にはいった辺りからいじめを受けている。中学生の最初の頃は、靴を隠されたり、黒板にどう見ても似てない俺の似顔絵を描いたりと、やはり小学生の思考が抜けきっていないのか、幼稚なイタズラレベルの嫌がらせをされた。
そしてその中には、俺の給食をワザとこぼしにくる奴もいた。それが地味に面倒で、効果的だった。その頃の先生は(今もそうだが)、巻き込まれるのを恐れて、いじめを黙認するような人だったから、俺は自分で食べ物を持ってくることにした。
そこで出会ったのが栄養補給用のゼリー飲料だ。そのゼリーには、一食分の栄養が含まれていて、いい感じに腹も膨れるし、何よりわずか10秒たらずで飲み干せるという優れものだった。それから、毎日のように飲み続け、今にいたる。少々説明が長くなってしまったが、要するに、ゼリー飲料は最強!ということだ。
俺がゼリーの偉大さを噛みしめていると、
「翔、一緒にご飯食べよ。ってまたそれ?たまにはちゃんとしたものも食べた方が良いよ。私の弁当少し分けてあげるよ。」
雫が、可愛らしいクマの弁当箱を持ったまま俺の向かいの席に座る。
食べて食べて、と俺に弁当を差し出すすみれだが、彼女は気付いていない。その後ろから恐ろしいほどの殺気を放出しているクラスメイトの存在に。もちろんそれらの殺気は俺に向けられている訳で、言葉にせずとも、その弁当を食ったら殺す。と言っているのがひしひしと感じられる。
しかし雫は、手料理の感想を聞こうと、俺をじっと見つめている。
「ごめん。今お腹空いていないんだ…」
「そっか…じゃあ仕方ないね…」
見るからに落ち込んでいる雫に申し訳ないが、俺にはまだ人生でやり残している事がたくさんあるので、断る事にした。
それを見て、石川達が近づいてくる。
「川崎さん、良かったら僕たちと一緒に食べないかい?」
爽やかな笑顔を見せながら雫を誘う。
「う、うん。」
その後は雫と話す事はなかった。
放課後になり、家に帰ると早速自分の部屋に閉じこもり、ゲームを始める準備をした。
目の前には、人ひとりが入れるぐらいの楕円形の機会がある。
これは、VRの世界、つまり仮想世界を体験するための機械、「コクーン」だ。
VR技術が広く普及したこの時代、日本では、国民の約10人に1人がVRMMOにはまっていた。中でも人気なのが、Freedom・Life・Online≪フリーダム・ライフ・オンライン≫
通称FLO(日本のゲーム制作会社が作った物で、共通語は日本語)。このVRMMOは2ヵ月程前にリリースされたもので、基本的にラスボスを撃破する事が最終目標だが、その名の通り、攻略するもよし、友達とパーティーをするのもよし、仮想スポーツをするのもよし、釣りやドライブ等の趣味を楽しむもよし、とにかく何でもありのこの世界。五感全てが、現実に極限まで近いレベルに調整されており、既存のVRMMOゲームの中では、現実に限りなく近いと言われている。
俺もFLOのプレイヤーで、毎日の様にログインしている。
いつもの様にFLOにログインした俺は、広場でプレイヤーが集まっているのに気が付いた。
「なにかあったのか?」
俺は近くに居たプレイヤーに説明を求めた。
「ああ、何故かログアウトが出来ないんだ。」
詳しい話を聞くと、用事の為、ログアウトをしようとしたプレイヤーのコマンドから、ログアウト画面が消えていた。FLOはまだ、リリースされて日が浅い為、何かのバグかと思い、運営側に問い合わせようとしたが、その画面も消えていた。他の人も試したようだが、皆ログアウトが出来ず、外部との連絡も取れないらしい。一応俺も試してみたが、結果は同じだった。
皆が一様に不安がっていると、空から急に声が聞こえた。
「ヤッホー、皆のアイドル、アリスちゃんだよー」
やけにテンションの高い声が広場一帯に響き渡った。
はじめまして、針ねずみです。量は3000文字前後を予定しています。学生なので、不定期な投稿になります。また、文章力も拙く、勢いで書いている部分もあるので、矛盾が発生する可能性もあります。もし発見した場合は、感想などで、教えてくれたらありがたいです。ダメ出しやバッシング等の感想やアドバイスも募集しています。もちろん、ここはよく出来てる。等のお褒めの言葉も募集しています。ではでは、「俺リア」シリーズをよろしくお願いします。