夜の女王 第三話
「さっむ…」
冷たい海風が吹く船上に私たち五人はいた。私、紅さん、暁月さん、涙ちゃん、そして何故だか紅さんのお姉様である茜さんだ。
紅さんよりも薄い青色の瞳、唇には真っ赤なルージュ。フワフワの栗色の髪をなびかせた茜さんに涙ちゃんは少しだけ腰が引けてるみたいだ。さっきから私の後ろに隠れている。今日の涙ちゃんは水色のシャツワンピに暖かそうな白いモコモコのコートを重ねていた。うん、かわいい。
もちろん、茜さんは今日も綺麗だ。お世辞ではなく。黒のタートルネックのニットワンピに、足元はファーがついたブーツ。少し高めのヒールだ。そして、毛皮のコートを着ていた。
「そんな薄着で来るからだ、ボケ」
そう言った紅さんは、マスタード色のシャツに黒のフード付きカーディガンを重ね、その上に紺のダッフルコートを着ていた。下はカーキ色の細身のパンツ。
「ごめんね、厚着してきてって言えば良かったよ」
そう言う暁月さんは、白黒のボーダーニットに、濃いグレーのサルエルジーンズ。その上から黒のチェスターコートを着ている。そして、首にはスヌードをしていた。
こう見ると、暖かそうな他の四人に比べて私は薄着だった。薄着といっても、ワインレッド色のパーカーにデニムのジャケットを羽織っている。下はショートパンツにタイツ。ただ、マフラーは巻いてこなかったし、ショートカットの首筋はスースーしていて寒い。耳元で揺れるピアスが冷たい。…っていうか、この人たち何でこんなにオシャレなの?
「だって、まさか日本海沖に来るなんて思ってもみなかったもん。紅さんのバーカ」
雪はまだ降らねども暦の上ではもう初冬だ。地元は雪国だから冬の寒さは身に染みて知っている。今日、新幹線に乗ってから目的地を知ったのでは対策のしようもなかった。ほんと、あり得ない。
「誰がバカだ。しばかれてーのか」
「こら、紅。口悪い。さっさとそのコート脱ぎなさいよ」
横から突如、ローキックが入った。紅さんに。
確認しておくがここは船の上だ。そして、見渡す限りの日本海の荒波が広がっていた。
「あっぶねー…姉貴!何すんだよ!!」
「なに、この私に口答えするの?さっさと脱ぎなさいよ」
紅さんは一つ舌打ちを打つと、私にコートを投げてよこした。ありがたくそれを受け取って着るとほんのりと体温が残っていた。
「さすがは茜さんだ」
ゆるーく暁月さんが笑った。その後ろで涙ちゃんも苦笑いしていた。
「あー、さみーなー。玻瑠のバカヤロー」
「はいはい、すいませんね。そーいえば、茜さん。茜さんはどうしてここに?」
「ふふ、それはね…」
「あっ、見えました!あれが蓮湧島です!」
この島と波宮家には、ある秘密があるのよ…、そう言った茜さんの言葉は涙ちゃんの声と海風に攫われていった。だから、誰の耳にも届く事はなかったのだ。
どんよりと曇った空の下、見えた島は鬱蒼と森に囲まれていた。
こんな感じで早く投稿出来るように頑張ります!次は間隔空きそうですが…。
昨日は雪が降りました。積もってはいませんが、嫌ですね。