表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/11

出会いと空間転移2

 そうこうしているうちに、私達は何度目かの曲がり角に差し掛かった。今回は今までとは違い、先にあったのは先の見えない直線の道ではなく、白のペンキで塗られた上から大量の落書きが施された扉だった。


 赤で描かれた絵描き歌のコックさんらしき、アヒル顔の生物。青で描かれたイルカらしき、うねった三日月型の丸。黄色で描かれたヒマワリらしき、種の回りに横長の花びらが五枚ついたモノ。画力がセンスのカケラもない幼稚園児並なので、かなり悲惨な状態だった。それでも正体が何かわかった辺り自分は結構凄いかもと思ってしまう。



「ん……あれ?」



 あまりの落書きっぷりにそちらへ注意が逸れてしまったが、よく見ると扉のドアノブに何かが吊されていた。正体を確かめるために距離を縮めていくと、それはどうやらマスコットのようだ。マスコットは合わせて二つあり、それぞれボールチェーンでハートとスペードが繋がっている。両方共フェルトの間に綿を詰め込んだ、お手製の物っぽい。



「なんでこんな物が?」


「さあ」



 お互いに顔を見合わせては首を傾げるばかり。



「……入ってみればわかるよね」


「……多分」



 私も直人も正直乗り気ではなかったが、ここまでの道のりは全て一方通行。道を間違える要素はどこにもない。それはつまり、ここを通るほか道は残されてないというわけで。


 怪しいと思う気持ちを必死に押さえ込む。


 直人が恐る恐るノブを回し引いてみると、ギギっと古めかしい音をたてて扉は開いた。中に広がっていたのは、一メートル先も見通せないほどの深い闇。ただでさえ良い気分とは言い難かったのに、更に不安が降り募ってきた。



「こんな場所でもたもたしてたって仕方ないな。俺が先に行く」


「ちょっ……待って!」



 決心を固めるや早々に直人は扉の奥に行ってしまった。慌ててその手を掴もうとしたが、虚しく空を切る。



「あーもう。置いてかないでよ」



 こんな場所に一人残されるのだけは勘弁して欲しい。私は慌てて直人の後を追った。


 私の体が室内に完全に入り切った時、後ろの方でバタンと扉の閉まる音がした。途端にただでさえ暗い部屋が更に闇を深くする。もちろん私がやったわけじゃない。ここが室内という時点で風の仕業とも考えられない。



「ちょっと直人、どこにいるの?」



 視力がなんの役にも立たず私は彼を呼んだ。部屋は予想以上に小さいらしく、声がやたらと反響する。それでも直人の返事はなかった。これで聞こえてないというのはおかしい。



「ねえ、なお……っ!?」



 私が直人を捜そうと数歩進んだ瞬間、額をぶつけた。声はくぐもり僅かな悲鳴が漏れる。思わず押さえた額から手を離し前方に伸ばしてみると、手の平が冷たくて固い物に当たった。


 ――壁?いや……。



「ドア……?」



 手を段々と下に這わせていくと、ドアノブらしきでっぱりに指先が触れた。


 ――直人の奴、私を置いて先にドアの奥へ行っちゃったのかな?


 だとしたら、かなり薄情な奴だ。でもこれだけ狭い室内、ドアの開け閉めの音が私の耳に届かないのはおかしくないだろうか。一抹の不安を抱きながら私はドアノブを捻った。先程とは違い今度は静かにドアは開く。


 ――あれ、ピアノの……音?


 いつの間にか届く軽やかな音に私は驚愕した。CDやMDのような機械音ではない。これはきっと生演奏だ。



「え…あれ…?」



 気がつくと、私は何処かの家の廊下に立っていた。さっきまでの暗闇は嘘のように消え去り、窓の外から差し込む太陽の光で室内は明るく照らされている。振り返っても私がたった今出てきたドアはどこにもなかった。あるのはワックスのかけられた艶やかなフローリングの床に、染み一つない真っ白な壁。所々に置かれた腰の高さほどの棚。その上を飾るのは花瓶に挿された色とりどりの花達。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ