作った感情
中学校からボクシングを始めたのは、なめられたくない、という理由からだった。
それまで特にこれといったスポーツをしてこなかった俺は、ボクシングというものをナメていた。
ナメていたと言っても、練習が想像以上に厳しくてついていけなかったと言うわけではない。
では何が? 俺は、殴るのが打つのが血を見るのが辛かった。
俺には、ボクシングの才能があった だからこそ練習はすればするだけ身についた。
それは、卓越したスポーツマンとしては喜ばしいことであり、誰もが求めるところでもある。
だが俺にとって...俺に力がつくことは悲惨なことでしかなかった。
ボクシングという競技の性質上、相手も自分も、それなりに痛めつけられる覚悟を持って戦うものではあるが、俺は一方的に殴るだけ 相手のパンチが当たることなんて稀でしかなかった。
辛すぎたでもそれでも、辞めたいとは何故か思わなかった なぜかは今となってもわからない。
ある日、オーストラリアの選抜選手と試合をすることになった。
彼は、選抜なだけあって強かった 強かったと言っても底の知れた強さだった
油断した。 ボディーに1発大きく入ってしまった。
久しぶりにモロに食らい思考がフリーズする。
相手に猶予を与えてしまった。
相手は、殺気を放ちパンチを繰り出してくる。
傷めつけるのは嫌だが、痛めつけられるのはもっと嫌だ。
『殺られるぐらいなら先に殺ってやる』
自分でも何が何だか分からないくらいに本気を出した。
左フック 右ストレート みぞおちを狙った左ボディーブロー 最後に右アッパー
気づいた時には、相手は倒れ動かなくなっていた。
そのまま意識が戻らず病院に搬送されたが
脳挫傷で死亡した。
試合の中であったとはいえ、人を殺したという罪悪感から俺は精神病に陥りそうになった。
そして苦しさから開放されたいがために自ら感情を断った。
しばらくの後、感情を捨て人間らしさを失った俺を、普通の人間の様に普通に生活ができるように救ってくれた心理カウンセラーが現れた。
救ったという言い方はある意味あっているが、間違ってもいる 正しくは、壊した。
そう心理カウンセラーの先生は、俺の心を壊すことによって、人格を書き換えることによって絶望から救ってくれた。
カウンセラーとは思えない...洗脳のようなものだったと思う
今はもう何を話したか、断片的にしか思い出せない。
罪悪感に押しつぶされ感情と思考が空白になった俺は、先生が言った言葉を淡々と平然と飲み込んでいた。
ただそれだけの事だったが、その時の俺には先生の言葉を受け入れ縋るしか道はなかった。
そして俺は、なくなった感情の上に感情を作り上げた。
偽物の朝陽緋秀という人格を作り上げた。
『人間』として人と人に間に、生きるために....
______でももう要らない 無駄な感情はいらない
異能を得た
人間として生きる意味はなくなった。
これからは自分の目的のために、自分自身の為に生きよう
(そういえば、能力の検証をしなければいけないんだったな)
-----さて【殺るか】
感想 アドバイス
よろしければお願いします