とある死にたがりの話
「恥の多い人生を送ってきました」
少年は自分の人生を振り返り、そして決めました。
「死ぬ為に、死ぬ物を探しに行こう」
少年は、歩き出しました。
少年はまず、首をつるものを探しました。
すると、蛇を見つけました。
「君で首をつらせて貰えないかい?」
そう言うと蛇はつーんと顔を逸らしました。
「お断りだね。君の体重を支える頃には俺は千切れて死んでしまうよ。
君が死ぬ為に死ぬなんてごめんだね!」
少年は諦めて歩き出しました。
少年は次に、毒を探しました。
すると、スズメバチを見つけました。
「君の針で僕を刺して殺してくれないかい?」
そう言うとハチは少年の周りと飛びました。
「私の針は内臓と繋がっていましてよ。
貴方を刺したら私も死んでしまいますわ!」
少年は諦めて歩き出しました。
少年は次に、水を探しました。
すると、とても大きな川を見つけました。
「君の中で溺れ死んでもいいかい?」
そう言うと川は波を緩めて言いました。
「この川下には村がある。君の死体から出た物を村人が飲む事になる。
それ以前に汚れてしまう、とても迷惑だよぉ」
少年は諦めて歩き出しました。
少年は歩きました、死に方を、死に場所を求めて。
誰にも迷惑がかからず、誰にも泣かれず、誰も苦しまず。
一人で死ねる所で、一人で死ねる方法を探して。
少年は、人殺しと出会いました。
少年は泣きながら、人殺しに縋りました。
「殺してくれ!」
「どうして?」
人殺しは静かに聞きました。
「今まで、幸せな事なんてなかった!生きてても何も無い!
才もなく、力もない、他人に迷惑しかかけられない!
僕は最低な人間なんだ!」
少年は、泣きながら、叫びました。
人殺しは目を閉じて、静かに言いました。
「でも、君は生きているじゃないか。
旅は危険がいっぱいあるんだ。
僕みたいな人殺しもいる。人を食う生物もいる。自然に殺される事だってある。
でも君は生きている、どうして?」
そう言うと、人殺しは優しく笑いました。
「君は、生きていたかったんだろう?
誰かに生きていいと言われたかったんだろう?
必要とされて、大切な人と笑って行きたいんだろう?
だったら言ってやるよ。 『生きてくれ、僕の分も』」
そういうと人殺しは、自分の頭に銃を突きつけました。
「さようなら、僕。」
少年は、白い部屋の真ん中で目を覚ましました。
少年は、自分の腕を見て、静かに、静かに泣きました。
引用:太宰治「人間失格」
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