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気がつけば異世界

「なんなの? このしょぼいのは」

 気がつけば、目の前で銀色の髪の女の子が不機嫌そうにぼくを見ていた。

「これじゃ、スライムだって倒せやしないわ」

 昔のギリシャ神話の女神みたいな格好をした女の子は、よほどぼくに不満なのか、さっきからずっと文句を言い続けている。

 

 けど、文句を言いたいのはぼくの方だ。

 一体、ここはどこなんだ?

 どう見てもギリシャかどっかの神殿みたいなんですけど。

 ってか、なんで、ぼくはこんなところにいるんですか?

 ついさっきまで、自分の部屋でゲームをやっていたはずなんですけど?


「まあまあ、女神さま。文句を言う前に、まずは、レベルを確かめてみましょうよ」

 女の子のそばに浮かんでいる、ウサギの耳をしたネコみたいなピンク色の変な生き物が言った。いったいあれはなんなんだ? 動物? それともぬいぐるみ?

「確かめるまでもないわ。送り返しましょう」

 女の子が言う。

「無理ですよ、女神さま。一度召喚してしまった異世界人は次のトライアングルの日までは戻せないって、ルールで決まっているらしいですよ」

「本当に?」

「はい。この世界魔法全集にそう書いてあります」

「んもう! そうだった」

 女の子はますます不機嫌になった。

「仕方ないわね。とりあえずこれで我慢しましょう。じゃあ、プニモフ。レベルを調べて!」

「承知いたしましたー!」

 ピンクのぬいぐるみみたいな生き物は、元気よく答えると、お尻からぼくの頭の上に勢いよく降りて来た。もふもふの尻尾が顔にパフッと当たり、その瞬間額から何か飛び出したような感じがする。

 上を見ると1という字がキラキラと輝いていた。その後に、20とか30とかいう数字も出て来る。さらに、文字みたいな不思議な記号も次々と……

 なんなんだ? これは? と、不思議に思って見ていると女の子が肩を落として言った。

「やっぱり、レベル1」

「ちなみに、攻撃力20、防御力 20、体力30と出てます」

 ぬいぐるみの言葉に、女の子は、ますます肩を落とした。

「はああ〜〜〜〜。スライム以下」

「おやおやあ? でも、魔力だけはすごいですよ300となってます」

「300 ?」

 女の子は興味無さげにいう。

「たいした事ないじゃない。で、何の魔法を使えるの?」

 すると、ピンクのぬいぐるみは、まじまじとぼくの頭上を眺めた。

「うーーーーん? 残念ながら使える魔法はないみたいですねえ」

「ふう……やっぱり、使えない」

「あ、でも、彼は特殊な才能を持っているみたいですよ」

「特殊な才能?」

「ハイ! マテリアル・マスターとしての才能だそうです」

「マテリアル・マスター? なんなのそれ?」

「さあ、私もしりません。なんなんでしょうねえ?」

「やっぱり、とんでもない不良品をつかまされた気がする……」

「あのさ、さっきから黙って聞いてれば……」

 ボクは言った。

「なんなんだよ、人の事つかまえてしょぼいだの、不良品だの」

 すると、少女がびっくりしてぼくを見る。

「喋った!」

「そりゃあ、喋りますよ。異世界人だって生きてるんですから」

 ぬいぐるみが上から目線で言う。

「知ってますか? 伝説の呪文。『ミミズだって、オケラだって、アメンボだって。みんなみんな生きているんだ異世界人だって』」

 誰が、ミミズでオケラでアメンボだ。頭に来たぼくは言ってやった。

「あのねえ。いわせてもらえば、おれにとっては、ぬいぐるみが喋ってる事の方がよっぽど脅威なんですけど!」

「ぬいぐるみ? 私の事ですか?」

 ウサギの耳をしたネコがムッとした顔を見せる。

「失敬な事を言わないでください。こう見えても私はモフモフ族の若き俊才プニモフです!」

 モフモフ? プニモフ? 何そのいかにもJK好みの命名。

「でも、まあ、助かるわ。意思の疎通ができるなら、戦闘での使えなさも緩和されるでしょう」

「戦闘とか、使えなさとか一体なんなんだよ? 全然話が見えないんだけど? 大体ここはどこなんだよ?」

 ぼくがいうと、ぬいぐるみが答えた。

「ここは、白の女神様の神殿です。このお方は、白の女神様。そして。あなたは女神様に召喚されたのですよ」

「女神? 召喚?」

 召喚というとファンタジーとか、ゲームとか、ラノベでよく聞くあれのこと?

 て、ことは、まさかここは異世界だったりとか?

「そんなバカな」

 ぼくは笑った。

「くだらない冗談はよせよ。そんな事現実にあるわけが……」

 でも、現にぬいぐるみが喋ってるよな……。

「いいや。どこかにしかけがあるんだろう?」

 ぼくは、プニモフを手につかむと、裏向きにして電池の入れ口を探した。絶対こいつは電池で動いているはずなんだ。

「うわ。こそばい、くすぐったい。やめて、やめて!」

 プニモフが必死に抵抗する。いやに、リアルな反応だな。けど、騙されるもんか。尻尾の裏をめくってみる。すると、プニモフの形相が変わった。

「離さんかい! このどスケベが!」

「何?」

「ケツに手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わすで! われえ!」

 プニモフがオッサンのような声で叫んだと思った瞬間、ぼくの体は柱のところまで吹き飛ばされていた。

「いててててて」

 頭を抑えて前を見ると、ぬいぐるみが赤く光っている。そして鬼のような形相で言った。

「怒りの波動拳じゃあ!」

「波動拳?」

「プニモフは、こう見えても浪速流タイガー拳法の使い手だから、気をつけた方がいいわよ」

 女の子が言う。

「浪速流タイガー拳法??????」

「そうだ。見よ! 竜虎の構え!」

 そう言ってぬいぐるみが拳法の構えを見せる。

 いくら、日本の技術が精巧だってぬいぐるみに拳法が使えるわけが無い。(しかも強い)

 やっぱり、ここは異世界のようだ。

 だが、しかし……

「困るんだけど」

 と、ぼくは言った。

「明日から学校行かなきゃいけないし」

 すると、女の子が答えた。

「困ってるのは私だって一緒よ。私の片腕になるようなたくましくてイケメンの若者を希望していたのに、なんで、こんなしょぼいのがきちゃうわけ?」

「そう思うなら家に帰してくれよ」

「無理よ。一度召喚しちゃった異世界人は、最低一つの周期が終わるまでは使役しなくてはいけない、というルールがあるの」

「一つの周期ってなんだよ?」

「そうね。大体太陽が365回上るぐらいかしら」

「それって一年ってことじゃないか!」

「ああ。うるさいわねえ。そんなに学校に行きたいなら、いくらでもその辺の魔法学校に行かせてあげるわよ。でも、その前に、まず私の手助けをしてから……」

「魔法学校? ……それはそれでおもしろそうだな……じゃなくて。ぼくが言っているのは……」

「うるさーーーーい! つべこべ言わないであたしのいう事を聞きなさい!」

 最後に少女は鬼のような形相で叫んだ。その、あまりの恐ろしさに、ぼくはうなずくしかなかった。また、浪速流竜虎の舞とか見せられては叶わない。


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