Chapter 1未来錯誤 05 タピオンベース
05 タピオンベース
けたたましいサイレンが
フラックス軍タピオンベースに鳴り響いた
基地の様々の明かりで夜の森林の海の中にぽっかりと浮いた島のように見える。
「敵機来襲、敵機来襲!」
「亜音速で東方より接近、味方、同盟軍の発する友軍識別信号確認取れません。」
「飛来飛行体、機数不明、確認中!」
防御体制へのシフト動作のため基地管制塔内があわただしく人がいきかいした。
司令官らしき男の一歩後ろで参謀長が口を開いた。
「第一警戒ラインシステムの、哨戒行動かとおもわれますが?」
司令官が大きく映し出された正面レーダーモニターを見上げ
「VTOL、FH-067、3機スクランブル、第一警戒ライン内で待機させろ、」
垂直離着陸ジェット戦闘機“フジ工芸社のFH-067EX VTOLマーカス”の発進を促した。
タピオンベースの第一警戒ラインは難攻不落で越えて生きて帰った者はいなかった。
VTOLマーカス3機はマニュアルどおりの出動で
領空接近者に対しての威嚇行動が目的であった。
格納庫内から出てきたVTOLマーカス3機は、滑走路に出ると
その垂直上昇機能をを使わず、長い滑走路を利用して飛び立っていった。
「侵入機、識別」
司令官席より一段下がった。オペレート席から声が上がった。
「ソ・リアテック77式BHVT・・・・・・・・」
そこまで告げてオペレーターが言葉を詰まらせた。
「どうした?」
司令官が言葉を詰まらせた意味を問いつめた。
「すいません、ソ・リアテック77式BHVT-01戦闘ヘリ」
とオペレーターの続きの解説に
「ヘリ?ジェット機並みのスピードではないか?」
司令官が疑心の目でオペレーターに問いかけた。
「間違いありません、・・・・コード名称マッドサンダーです。」
ヘリであることと、誰もが知っているコード名称をオペレーターは言い放った。
司令官がオペレーターを睨みつけ
「なに~~、マッドサンダー(狂雷)??」
と叫んだ。
一瞬管制塔内でざわめきが起こった。
「あの、ジョーがきたというのか?・・・・・
・・・・スカイ・ジョ―が?」
管制室内で誰かが叫んだ。
“スカイ・ジョー”
マッドサンダーに搭乗するジョー・クレンナに付いたニックネームであった。
ジョーが、あらわれると雷が落ちる、狂った雷が
ジョーが通り過ぎるとそこには、何もなくなり、空になる。
空になる。なにもない空に・・・・SKY・・・・・・・・・・
VTOL垂直離着陸ジェット戦闘機3機といえどスカイ・ジョーの敵ではない、
あっけなくやられてしまうに違いない、誰もがそうおもっている。
「僚機は、ありません。単独です。」
オペレーターはそう促すが
マッドサンダー単独一機だろうとそれは、同じことであった。誰もがそれを分かっていた。
「VTOLマーカスを、10機追加発進させろ!
先ほど出撃した3機は第一警戒ライン手前で待機!」
司令官があわてて追加出撃を促す。
参謀長がそれに対して意見をする。
「“コ・モンランム”の重大軍事作戦にスカイ・ジョーが極秘投入されると必ず大勝利を導いています。
スカイ・ジョー自身の戦果の記録はあいまいではっきりと残されていませんが、戦火を交えた者たちの間では神憑りな噂が飛び交っており、耳を疑うような内容ばかりです。・・・・
しかしです。・・・
スカイ・ジョーといえど、我がタピオンベースの誇る第一警戒ライン突破は不可能ではないでしょうか?これ以上の出撃は無意味かと?・・・・・・
目的もわかっていませんし、もう少し様子を見ては?」
参謀長の意見は司令官には届かなかった。
それどころか薄笑いを浮かべ、こう切りだした
「ふふ・・。僚機なし、単独というのが幸いだ。
なにが目的でやってきたのかは知らぬが、
我が基地で奴をしとめてやろうではないか、第一警戒ラインを超えてくることは、なん人たりとも不可能、どれだけ奴がすごかろうと、戦果が“タピオン陥落”とはいかんだろう、」
オペレーター他、管制室の全員が驚愕の表情を司令官に投げかけた。
司令官は基地内全部の回線を開くと、意気揚々とマイクに向かいしゃべりだした。
「タピオンベース待機中の航空部隊全パイロットソルジャー(傭兵)諸君につげる。
現在我が基地西方から“コ・モンランム”の戦闘ヘリ、マッドサンダーが接近中!
ただいまよりマッドサンダー撃墜ミッションを敢行する。
希望者は各機搭乗後、搭乗機端末よりエントリーを行へ、
戦闘機、戦闘ヘリ、戦闘航空機は全承認する 。
誰が撃墜しても参加全員に通常機撃墜の10倍の特別クレジットを支給する。
戦闘域は、西側第一警戒ライン外と予想される。
当基地のVTOLマーカスもすでに13機出撃した。
出撃機全機で協力し、我がタピオンベースに
“スカイジョー撃墜”の名誉を与えてくれ!」
それぞれ機種の違う戦闘ヘリがずらりと並んだ格納庫内で
自機の整備をしていた傭兵達が放送を耳にしていた。
「あほくさ~、よってたかって俺達雑魚が何匹集まろうと、やつに、かなうわけないさ、」
一人のひげ面の傭兵はそう言うと、自機の整備を切り上げどこかに消えていった。
何人かの傭兵も、ひげ面の傭兵と同じ意見らしく放送にしらをきった。
「俺は行くぜ」と、
自機の戦闘ヘリのコクピットに乗り込んでいた男が、
コックピット内の端末にエントリーの入力を始めた。
「マグワ本気か?」
と機の横に立っていた背の高いふとっちょの男が制止しようとした。
「お前も来いよ!ガイル」
マグワが背が高くふとっちょのガイルを誘った。
「冗談じゃない、俺はまだ死にたく無いぜぇ、」
ガイルがそういうと
「馬鹿かおまえは?・・正面きってやりあうわけじゃねえよ、
第一警戒ライン内からでも殺れるかもしんねえし?
誰かが殺ってくれてもいいわけだ。やばくなったらずらかればいい、」
マグワはそう言い足した。
ガイルはきょとんとしていた。
「そうだな、VTOLが全滅ってのを、目処に撤収すれば・・・どの道ラインをこえてくるなんざ、不可能だ」
自機端末からエントリーコードを入力し終えたマグワがあきれ返っているガイルに向かっていった。
「エントリー完了!!」
マグワの機にミッションエントリー承認の連絡が入った。
「行くぜ、間近でみて見たいじゃないか、・・・スカイ・ジョーを・・・
それに、スカイ・ジョーと絡めば女にももてるだろうよ!」
と、マグワは上方に開放されていたキャノピーをおろすと
エンジンを始動させた。
メインローターがゆっくり廻り始めた。
ガイルの後ろで二人の会話を聞いていた数人の傭兵達も
マグワの意見に賛同し自機に乗り込んでいった。
取り残されたガイルもあわててズングリとした大型のヘリに乗り込んでいった。
マグワの機が上昇を始めた。
すさまじい轟音を放つマッドサンダーのジェットエンジン
マッドサンダーの後部はジェット噴射の明かりで光光としていた。
「ヘリオスベース管制塔よりマッドサンダーへ」
ジョーのもとに無線連絡が入った。
「タピオンベース滑走路より
FH-067EX VTOLマーカス13機と、多様種のジェット戦闘機7機、戦闘ヘリ8機の出撃を確認した。」
「承知している。」
ジョーが、もごもごと返事した。
「通常の警戒態勢とは様子が違うようだ。おそらく・・・・・
マッドサンダー討伐が目的ではないかとおもわれる。」
「ヘリオスベースもしくは、近隣の駐屯軍からもそちらに応援を出そうか?」
「野暮用だからな、そこまでは必要ない、」
ジョーはきっぱりと応援を断った。
「しかし、相手が多すぎないか?」
「第一警戒ライン内に友軍の応援がとどくかな?」
「 まさか、ラインを突破する気なのか?」
ジョーの右口元が釣りあがった。
「悪いことはいわん、冷静になれジョー」
司令官の言葉を制止するかのようにジョー話しだした。
「せっかくの好意だありがたく頂戴しとくよ、ミサイル攻撃の応援を頼む、
発射のタイミングと座標はこちらからデータ入力する。
一番近場の友軍ミサイル砲台にシンクロしてくれ、」
ジョーが応援を受け入れた。
「了解だ、健闘を祈る!」
無線が切れると、再びジェットエンジンの噴射音がジョーの耳に入ってきた。
アルバート隊は、第一警戒ラインより
タピオンベース側に2キロほど近寄った地点にいた。
ハンス、BDを先頭に歩を進める。
突然、左翼を警戒していたノーバディーが皆を制止した。
「全員伏せろ」
ノバディーが警戒した10時の方向と隊員達の間に
大木が横倒しになっていた。
隊員達はそこに身を隠すと
警戒した方向をノーバディーがナイトスコープで見据えた。
「ハンターか?」
アルバートがノーバディーに尋ねた。
「わからん、ハンターとは気配が違う」
ハンターとはAIを組み込まれたロボット兵器のことで、ノーバディーの感じた気配は
もっと人的なものだった。
BDが、ナイトスコープで見渡す。
「何か見えたか?」ハンスがささやくような小声で聞いた。
「見えね~が、・・・・・なんかいるぜ・・」
BDにも感じているようだ。
こちらも相手もお互い出方を待っているようだった。
. しばらく不思議なくらいの静寂が続いた。