Chapter 1未来錯誤 04 第一警戒ライン
04 第一警戒ライン
夜の闇が、森林を覆っていた。
暗闇に一瞬閃光がきらめき、何秒かおくれて轟音が鳴り響いた。
と、同時に、東方の林間から銃弾の熱を帯び発光した多数の弾導が、猛烈な勢いで
西方の森林にめがけはなたれた。
・・・また、爆音が夜の闇の森林に鳴り響いた。
西方の森林に着弾した銃弾が目的物を破壊し続けた。
「はあ、はあ、はぁぁ、はぁ」
闇の中から、必死に高まった鼓動を抑えようとする幾つもの吐息が木々の間から発せられていた。
爆発がどこかで起こり、その閃光が
地を這い、息を殺し自動小銃を構える何人かの兵士を照らした。
ドラフトキングで森林に降り立ったアルバート班の隊員達であった。
すさまじい爆発音が鳴り響き続き、繰り返された。
隊員達は、爆発の勢いが鎮静化するのを、
ただただ、身を伏せて待つしかない状態に置かれていた。
アシスタントリーダーのモルフィスが、囁き声で舌をうった。
「くそっ、第一警戒ラインまでもう少しなのに、」
スタン、狐目の傭兵がつぶやいた。
「先方もラインを、越されるとやばいってことさ、」
「いや、警戒ライン内輪にハンター(AIを備えプログラムによって動く無人のロボット兵器)や陸戦警備部隊は特に配備されてないはずだ
第一警戒ラインで、誰かがどじを踏んだ可能性がある。」
スタンの言葉を、190cm長身のハンスが冷徹に否定した。
フラックス社軍タピオンベース、
レジアスシティに一番近い“コ・モンランム”と対立する“フラックス社”の軍事戦略基地
中心から半径10キロメートルの
円周上に第一警戒ラインは設置されていた。
前後200メートル木々は一切生えておらず。
有視確認できない赤外線ビームが50cm感覚で碁盤の目のごとくはるか上空まで
高度10000mの地点で地面と平行してはりめぐらされていた。
ビーム内には進入物を感知するセンサービームと
精密機器、電子機器を、一時混乱させるパルスビームが混在しており
侵入の際これに触れた兵器、電子機器は機能障害を起こし一時コントロール不能に陥る
その瞬間をねらって、
ライン内森林部に設けられた自動砲台、自動ミサイル発射台などによって
センサービーム感知地点を攻撃し動体感知が終了するまで攻撃を繰り返す。
また上空高度10000mの網状ビームには、電磁分解派などが含まれており
衛星軌道上からの詳細な地上情報が読み取れなくなっていたり、
レーザー攻撃などのレーザー粒子などの熱源を拡散させる役割が備わっていた。
レーザービーム発信源はタピオンベース付近のコントロール施設にあり
この目に見えぬ障壁を兵器、もしくは乗り物、あらゆる電子機器によって通過することはほとんど不可能であった。
おそらく歩兵だけが50cmの間隔の網目を通り抜けることが可能で、
ヘリオスベースからタピオンベース調査攻略のための派遣は日々繰り返され
慢性化していた。
何発もの流れ弾や砲弾が闇の森林に光を与え
アルバート班が身を隠す近辺に飛来し続けた。
うずくまったモルフィスが、
動体感知及び識別信号などを感知する機器を右手に持ち覗きながら
「ノエル班の識別信号が消えていく、」
「やっぱりどじを踏みやがった。
早く全滅しやがれ、こっちまでもたねぇ」
ハンスが砂煙に巻かれながらしかめっ面でそう唸った。
うずくまる中、一人の男が胸から零れ落ちたペンダントを握り締め
爆発の閃光で、ペンダントの刻印文字を見つめていた。
『FOR ロブ・キンスキン
FROM レイチェル・フローズン』
男女の人名のようだが、何度見ても男はこの名前に聞き覚えもなく
記憶にも残っていなかった。
それどころか、なぜこのペンダントを所持しているのかもわからなかったのだ。
「ノーバディー大丈夫か?」
その男の名前であった。
「ああ、大丈夫だ、バーキン、」
ヘルメットを深々とかぶりゴーグルをはめ防塵用にマスクで口を覆っていたノーバディがバーキンに答えた。
流れ弾の勢いはさらに激しさを増し・・・・・・・
やがて収まった。
「ノエル班の反応0です。」
モルフィスがそういうとゆっくり隊員達は立ち上がった。
隊員達は少し前進することにした。
ハンス、BDという名の傭兵二人が大きな対戦車無反動機銃をかまえ先頭にたち
木々に見を隠しながら
左応右応しながら、隊員達は第一警戒ラインの座標にまでたどり着いた。
辺りは煙が立ち上り激しい爆発の跡かあり、
ばらばらに散らばったノエル班の装備や隊員達の体の一部が転がっていた。
「ざま~ね~な~」
モルフィスはそういうと、ヘルメットのスコープを下ろし
ナイトモードから赤外線探知モードに感知度を切り替えた。
目の前に広がった赤外線センサービームは碁盤の目のように
左右上空にまで限りなく広がっていた。
その間隔は50cm四方で、人がなんとか通過できる大きさであった。
「ヒュ~~」
風を吹くような音にならない口笛でモルフィスがその光景を賛美した。
「敵ながら、天晴れだぜ」
全員がスコープをおろし、赤外線探知モードに切り替える。
「まず、大型銃器や荷物を投げ入れろ」
アルバートの指示で隊員達は装備品を体からはずし、センサーの内側へ投げ入れた。
「一人づつ、前後がサポートして通過しろ、
ビームに絡んだら、命はないぞ」
アルバートが冷徹な声でみなに注意を促した。
一人づつ慎重に、通過作業を繰り返した。
センサーを全員通過が完了すると隊員達はどっとその作業に疲労を感じ
次の、行動に移るべく気持ちを切り替えた歩きだした。
傭兵のギルだけはライン付近に残り何か仕掛けを設置していた。
残りの隊員は警戒態勢をとりながらゆっくりと歩き続け、再び森林の中に足を踏み入れっていた。
作業を済ませたギルがその後を追った。
闇夜を低空飛行で東進するマッドサンダー
「アルバート班、キース班、第一警戒ライン通過」
モニターの下部に表示された。
「少し、のんびりしすぎたな」とつぶやき
ジョーはマッドサンダーのジェットエンジンすべてのスロットルを上げた。
すさまじい吸引音がジェットエンジンの吸気口から巻き起こると同時に
マッドサンダーは爆発的に加速した。
ジョーはすさまじい加速Gに耐えながら
キーボードを操作し、フラックス軍 タピオンベース第一警戒ライン情報の整理を始めた。
タピオンベース詳細がモニターに映し出される。
隣接してミサイル工場と、人口三万人ほどの小さなシティがあり
半径10キロ四方を第一警戒ライン、5キロ四方で第二警戒ライン
第一警戒ラインにはコンプリートレベルの難易度MAXが表示された。
次にマッドサンダーが第一警戒ラインのパルスレーザー通過時に受ける機能障害度をシュミレートしてみる。
飛行駆動系メインローター、テールローター、ジェットエンジン、オールダウン
感知系、オールダウン
銃火器系、オールダウン、その他諸々、オールダウン
コントロールPC系、オールダウン、手動操作により再起動
起動後機能障害残留率98%、PC障害修復タイム75秒
PC完全復旧後
全システム自然復旧タイム3600秒 PCサポート復旧タイム599秒
「マッドサンダーといえど、第一警戒ラインをまともに通過したら、ただの鉄の塊になるってことか」
ジョーは頭をひねっていた。