Chapter 2反抗衛星 2僕の妹
02 僕の妹
レジアス外郭南方バローベースから東南ビルドゥマルベースに向かう
高速道路の3分の2ほど走った地点に
そのサービスエリアはあった。
サービスエリア大型車専用駐車場
大きなトレーラーのカーゴルームの屋根部分を広げ整備機器を展開させて
マッドサンダーの到着を待っていたオズが、助手のジョッシュに話しかけた。
「ジョーからのオーダーは全て準備できたか?」
「ウィっス、おおかた完了してますけど・・」
「超を超える急ぎの依頼だ、請求書をいつもの2倍で作っときな!」
オズが両の手をこすり合わせてジョッシュにいった。
「相変わらず、がめついですね。」
ジョッシュがそういうと同時に
「来たな!」
オズが東の空にマッドサンダーを見つけて叫んだ。
プロペラとジェットエンジンの轟音が響いてきて、
マッドサンダーがやってきた。
マッドサンダーはオズのトレーラーの上でホバーリング状態に入ると
解放されていたカーゴルーム屋根の上にゆっくりとその機体を着陸させた。
ジョーが、コクピットから降りると
「急いで装填してくれ・・」
手際良く既に補給を開始したオズが
「からっ欠じゃねぇか~、30分はかかるぜ!」
というと
「10分で頼む!」と、ジョーはごり押しした。
「そんな、無理ですよ!」ジョッシュがこたえた。
「俺も手伝う、ギャラも弾む!」
「やって見せるさ、銭がでるなら!」
オズが顔をにやつかせ答えた。
ジョーが燃料のノズルを手に取りマッドサンダーの給油口に差し込むと
オズに聞いた。
「傭兵の方は、どうだ?」
「ぬかりはねぇよ、そろそろ見つけてるころじゃないか~?」
オズがのんきにそうサイドワインダーを装填しながら答えた。
時を少し戻し
テールローターの破損により体勢を保てなくなり
ぐるぐると機体を回転させ落下していく箱河豚08
ノーバディ・コロイドは必死に機内の機器にしがみついていた。
「大丈夫!大丈夫だ!レイチェルしっかりつかまってろ!」
思わず叫んでしまったが、何が何だか分からない
やがて落下時の凄まじい衝撃が襲いかかってきて意識を何処かに吹き飛ばしてしまった。
ヘリの残骸の中に差し込む太陽の光がノーバディーの目元を照らした。
眩しさに意識を取り戻しうっすらと目を開けてみたが、
ぼんやりと機能しなくなった電子ゴーグルのレンズに付着した埃が視界をさえぎっていた。
「うっ、ううううう!」
ゴーグルを外すため右手に力を掛けた瞬間激痛が走る。
顔を傾け右手を見ると肩から肘にかけてヘリの破壊された機材によってはさまれていた。
右肩の奥、機材と壁面との間に隙間があり、
覗き込むと、完全に誰のものかわからなくなった血だらけの顔面が機材に押しつぶされていた。
この存在がなければ自分の肩から肘も同じ状態になっていたであろうことを悟ると
ノーバディーは左腕で機材を少し動かし、するりとぬけだした。
しかし、肩が非常に痛む、何かによって切り裂かれたような気もするが体を動かすと、
鞭打ちに、打撲、あばらの骨折、全身から激痛が走りそこばかりを気にしてはいられなかった。
とりあえず、墜落したヘリから脱出しなければ、・・・
『漏れ出した燃料にでも引火すればひとたまりもない、』
全身の激痛に耐えながら残骸と化したヘリの中を這いだした。
ぬるりとした感触にそこに誰かの死体があるものだと認識をしあえて目を向けず
やっとの思いでヘリから抜けだした。
ヘリの残骸は爆発を起こすことはなかった。
ノーバディは、持ち合わせていたPDA端末を操作しだした
辛うじて機能していたそれに
『ギディオン軍専属A級ソルジャー、ロブ・キンスキン、SOS』とコードナンバーを打ちこみ発信をした。
砂漠の砂丘の上を右肩から流血し
左手で幹部を抑えながらヨロヨロと歩き出した。
照りつける太陽が、体力を奪っていく。
何処に向かって歩いていくかわ分からなかった。
『作戦中の事故!!味方は近くに居るはず。』混乱した意識でそう思っていた。
そこに“コ・モンランム”の低級ソルジャー、ノーバディー・コロイドは既に居なかった。
どれだけ砂の上を歩き続けたであろう?
日が傾きかけ気温も下がり、幾分か楽にはなっていた。
だが、これから日が暮れると気温は低下し困難な環境に立たされるのは目に見えていた。
一機のヘリが、飛んできた。
ギディオン軍の“FGTパウロ9式攻撃強襲ヘリ”であった。
両翼に丸い鋼板で囲まれたメインローターついていて
その角度を変えることで機動性能を高めていた。
パウロヘリは上空でぴたりと止まるとゆっくりとロブのもとに降下を始めた。
マグワ達は箱河豚部隊の残骸の間にガイルのヘリを着陸させ、残骸を調べていた。
「こりゃ~、ひで~全員逝っちまってる。」
箱河豚08の機内を覗き込んだマグワがいった。
「助かってるわけ、ね~ナ~、これでは」
念のためと、認識章と、オズから送られてきたデータをガイルが照らせ合わせていた。
大きな体のわりに、細かいことが好きなようだ。
「マグワ!」
認識結果が出たのでマグワに呼びかけた。
「この、仏さまの中にはいねえよ~・・」
ガイルがそういうと同時に、
かすかにヘリのはばたき音がきこえてきた。
北西の方角に首を向けて見ると
ギディオン軍のFGTパウロ9式攻撃強襲ヘリが砂丘の向こうに今まさに着陸しようとしていた。
マグワが少し小高い砂丘に駆け上り登り双眼鏡をとりだしヘリの方を覗き込んだ。
「しまった。あれじゃねえか?ノーバディーってやつは」
ヘリの着陸した地点にヨロヨロト歩くノーバディーがいた。
少し遅れて登ってきたガイルも双眼鏡をのぞいた。
「人相がデータと一致してる。間違いない」
「捕虜られやがる。一足遅かったか~!」
マグワがガクンと砂地に膝をついた。
ガイルは突っ立ったまま双眼鏡をのぞいてパウロヘリの離陸を確認していた。
マグワが膝をついたまま天の仰ぎ
「なんか、最近ついてね~な~」
おのれ自身に不服を言った。
そういって空を見つめていたマグワにガイルの双眼鏡をのぞいた顔が飛びこんできた。
双眼鏡の先は相変わらずパウロヘリを追っているようで首を右に廻し始めた。
ある位置でそれはぴたりと止まり、
ガイルの口角がニヤリとひらいた。
「なんだ~、気持ち悪い!」
マグワが少しびっくりしていった。
双眼鏡をのぞいたままガイルが口を開いた。
「マグワ、最新型の地上戦艦だ、のってみて~な~ぁ」
「は~、なにいってんだ?」
慌てて身を起こしながらマグワがいった。
ガイルははるか東方に小さく見える地上戦艦の船尾を双眼鏡でのぞいた。
「あいつに、乗ってみたい」
マグワは又驚きの表情を浮かべて、ガイルと同じ方向を双眼鏡で見てみた。
「奴も、あそこに連れて行かれるよ、・・・おそらく」
ガイルが双眼鏡をのぞきながらいった。
「あいつに乗り込めば、助けるチャンスがあるかもしれない?」
「おいおい、待てよ、どうやって乗り込もうていうんだよ。ドンパチの最中だし!」
「ギディオン軍に雇ってもらおう!」
「なに~?」
素っ頓狂な声を出してあきれてしまうマグワだったが少し考え切り出した。
「なるほどな、その手があったか、」
「そうだなぁ、人助けなんて、どうでもいいことだが・・・・
オズの頼みもあるし、・・・スカイ・ジョーに恩を売っておけば
後後、得することがあるかもしれねえ!」
マグワは立ち上がった。
「間違いなく、女にもてるよ、それ!」
ガイルが双眼鏡から目を離すと、
マグワの方を見てにやりと笑った。
「そうだな、ジョーに恩を売って女にもてよう!」
というと、二人でガイルの機の方に駆け出した。
なんとも安直な考えである。
日は完全に沈み
地上戦艦オージアスのブリッジでは
「日没後、見方部隊を巻き添えにする可能性がある。」
「現時点からの艦砲射撃及びミサイル攻撃は、現場のレーザー誘導にて発射しろ!」
艦長が攻撃形態の変更を告げ
「本艦は夜明けまでに、第一警戒ライン内に突入する。」
最優先事項を告知した。
「艦長、護衛ヘリが、我が軍の識別コードでSOSを発していた。
モンランム軍の負傷兵を捕獲しました。」
オペレーターが報告
「捕虜房に監禁しソルジャーランクをしらべろ、捕虜交換で使えるやもしれん」
艦長が答えた。
他のオペレーターの報告
「別件ですが、無所属戦闘ヘリソルジャーが戦闘参加を求めてきています。」
「いったん本艦に受け入れろ、捕虜房に収容し、同じくソルジャーランク、
オファー履歴などを調べろ!調査終了後ミッション参加を承認する。」
地上戦艦オージアスから、タピオンベースにむけ繰り返されていた艦砲射撃は少し勢いを弱めた。
タピオンベース周辺では、オージアス艦載機と、モンランムのタピオンベース守備航空隊との空中戦が繰り広げられていた。
地上戦艦オージアスは日が沈み真っ暗になった森林地帯に入っていった。
大きなキャタピラーや鋼鉄の艦底部が木々をなぎ倒しゆっくりと着実に第一警戒ラインへの距離を縮めていた。
ルナ01はまた夢を見ていた。
大きな部屋で、ルナ01~08が玩具を使って遊んでいた。
皆が皆、決して楽しそうには遊んでいなかった。
ルナ08だけがニコニコと積み木を積み上げはしゃいでいた。
01は、それを見つめていた。
突然、重武装をした警備員が部屋に入ってきて、
08の積み上げた積み木を崩し08の細い左腕をつかんで部屋から連れ出そうとした。
08は必死に拒み助けを01~07のメンバーに求めた。
01もそうであったが他のメンバーもただただその光景を見つめるばかりであった。
「いやだ、助けて・・・・行きたくない」
じっとルナ08を見つめていた。
「助けて、お願い・・・・・助けて、いやだ」
「助けて、お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・たすけて、みんな・・・・」
哀願するルナ08
とここまでは、最近いつも見る夢であった。
ルナ01の右肩にポンと大人の手がおかれた。
振り返ると、そこには全身真っ白なもやもやとした。大人の人間?が立っていた。
白い人間はルナ01に聞いた。
「お兄ちゃん助けてって云ってるよ」
「あれは、君の妹なのかい?」
ルナ01は首を横に振った。
「じゃ、君はあの子のお兄さんじゃないわけだ。」
ルナ01はうなずいた。
「じゃ、関係ないから、ほかっておこう
いまからあの子は、どこかに連れて行かれてひどいことをされるんだ。
殴られたり、蹴られたり、痛い思いをいっぱいするかもしれないし
死んでしまうかもしれない」
「かわいそうだね・・、でもね、関係ないからほかっておこう・・・」
と白い人間がいうと
しばらく間をおいて
「い・や・だ」とルナ01はつぶやいた。
白い男がそれを聞くと
「いやだ?助けたいのかい?」
と01に問いかけた。
01は無言でうなづいた。
「君の妹ではないんだろう?ほっておきなさい」
01は首を横に振った。
「ほ~、ほっておけないのかい・・・?」
「もう一度聞くよ、あの子は君の妹かい?・・・・」
しばらく間をおいて01はうなずいた。
「じゃ、妹を助けてあげなさい、君の大切な妹なんだから助けてあげなさい」
じゃないと、どこかに連れて行かれひどいことをされるんだ。」
「殴られたり、蹴られたり、痛い思いをいっぱいするかもしれないし
死んでしまうかもしれない」
かわいそうだね・・、お兄ちゃんなら助けなきゃね」
01は小さくうなづいた。
そして警備員を睨み続けた。
ルナ01の目が覚めた。
「助けなきゃ」小さくつぶやいた。