Chapter 1未来錯誤 15ウォーレン・ギルモンの憂鬱
15 ウォーレン・ギルモンの憂鬱
「そう、最初は“REG”というプロセッサだった。
高速化、高機能化の研究に明け暮れていたよ。
目標に近い形にまで、仕上がったそれを、私は、“レジアス”と名づけた。
テスト運用が始まり
開発目的であるAI,人工知能とのシンクロ度合いが課題だった。
・・・・が見事それは完成した。
当初、登載予定は、コ・モンランム建造中の
軌道エレベーターの管理コンピューターだった。
やがて、そのAIが軌道エレベーターの管理コンピューターに搭載されると
自らを“レジアス”と呼ぶようになった。
私は実験中にレジアスにシンクロしたAIに
冗談半分、もちろん、そうなればと思ってのことだが
“世界平和、争いのない世界”とプログラムした。
そのメモリーは今もAI“レジアス”どこかで働いているはずなのだが、
王となったAIも所詮人間の操り人形
ま~、結果は今の世界を見てのとおりだが、」
私の名前はDr,ウォーレン・ギルモン
私はふと、”ソ・リアテック研究機構”での師と崇めるDr,サリバンの話を思い出した。
その後、軌道エレベーターの管理コンピューター自体が“レジアス”と呼ばれるようになった。
今、私が携わるサテライト8計画も”マザーレジアス“が発案し実行している計画
評議取り締まり役員達はただ認可を社員(人間)達に認めさせるための道具として使われているだけにすぎない、
”マザーレジアス“はDrサリバンの実験プログラム“世界平和、争いのない世界”
を実行しようとしているのであろうか?・・・・・・
そんなことは、すでに莫大に積み重なっていくデータの山に埋まってしまっているのだろうか?
3年前私は、“ソ・リアテック研究機構”の社員であったが
最愛の家族を不慮の事故が襲い絶望の淵に立たされていた。
妻を失い、
一人娘は幸い一命をとりとめたが
遷延性意識障害になり重度後遺障害が残った。
睡眠導入薬として処方されることの多いゾルピデムにより昏睡状態から回復する試みも失敗に終わり植物状態のまま病院の中で寝たきりの生涯を送る事を余儀なくされた。
そんな時だった“コ・モンランム”社よりの使者が”ソ・リアテック研究機構”の私のもとへやってきたのは、
その男は10代後半!アダムスタイプクローン人間
クローンの研究にも精通していた私には見慣れた顔であった
何もかもに意欲を失いかけていた私であったが
彼の表情や話し方などに、安らぎを感じ、話を聞くことにした。
「サテライト計画?」と、私は彼の話しだした計画の名称にどんな意味があるのか訪ねた?
彼は切り出した。
「ギルモン博士、映画は見ますか?好きな映画はなんですか?」
と聞かれた私はすぐお気に入りの映画のクライマックスシーンを回想していた。
「では音楽は?好きな楽曲、歌などありますか?」
若いころ妻と聞いた歌を思い出し歌詞の一つ一つを口ずさんでしまいそうになった。
「どうですか?・・・あなたの記憶にくっきり残っていましたか?」
私がうなずくと
「“マザーレジアス”はこう考えております。
コンピューターやプロセッサはどんどん進化していますし小型化が進んでいます。
ことレジアスCPUにおいてはその処理能力、小型軽量化は完璧といっていいレベルにまで達しています。」
「頭が良いんですよ、回転力が早くて、機転が利いて、とっさの判断が冷静に下せる。・・・・」
「しかしそれには、多くの経験も必要とします。」
「コンピュータにとって経験はハードデスクに蓄えられます。」
「ハードディスクも共に小型化がどんどん進んでおりますが、限界があります。
CPUが進化すればその何倍もの許容量を持ったハードディスクが必要になり
小型化が進んでも記憶量が増えれば増えるだけ容積が必要になってきます。
“マザーレジアス”は気づいたのです・・・・作り続けて限界があるなら、
現存する“何か”を無限に近い許容量のあるハードディスクとして応用できないものなのか?と」
「そんな機械が作れるわけがない!」
「ええ、作ることは不可能でしょう。
しかし、存在していました。作られたものではなく現存していたのです。・・・・大昔から」
「もっとも、それ自体も我々の知らない“何か?”が作ったものなのかもしれませんが、」
少し間をおいて勿体ぶるように男は言った。
「人間の脳ですよ、・・・・・・・・・」
「我々人類の、脳細胞は究極のハードディスクなんです。」
「先ほど博士に思いだしてもらった。映画はおそらく頭の中で映像と成って浮かび上がったはず。
俳優の声までもそのままに」
「しかし細かいところが途切れたり、ぼやけてたりしてしまう。」
「脳は映画を完ぺきに覚えているんです。しかしデータを出し入れする作業が追い付いてこないだけなんです。」
「そもそも我々人間は都合のいい出来事と悪い出来事を区別し、
自分自身で脳内にリミッターを設けて制御してしまっているのです。」
「わかりきってることは、もういい結局何が言いたいのだ」
「そうですね、では計画を順序を追って説明します。」
ここまでスローであった口調が急に豹変し早口へと変わった。
「CPU“新型レジアス”を搭載した超小型AIと通信端末を人間の脳内に埋め込みます。」
「AIは、人間の思考を素早く解読し、脳と連携をとって、体に命令を与える。」
「記憶を引き出したり、暗記をしたり、今まで時間がかかっていた作業を短時間で終わらせることができるようになったり同時に幾つもの情報を整理し蓄えたり出来るようにます。」
「たとえば先ほどの映画などの話を完璧に思い出すことができるようになり
通信端末を使って外部の機器と接続、記憶内の映像をモニターに映し出したり
あるいは、直接他人の脳内のA_Iにそのデータを送り込むことができるようになる。」
「これが商品として実際運用されるようになれば、電話や、携帯電話、パソコン、などのツールが、必要となくなり、家電機器なども脳内からの直接の指令で動かすことができるようになります。」
「ネットワークを通じて会社側が個人の管理もしやすくなる。」
「AIの中にあらかじめプログラムを施しておくことで、犯罪などの発生を押されることもできる。」
「AIは、脳に管理されるが、脳も又AIによって管理されるようになるのです。・・・」
「と、商品化になるにはかなりコストもかかるので遠い未来のはなしになりそうですが」
「しかし計画は開始されました。
”マザーレジアス”の発案が、“モンランム”評議取り締まり役員達に承認されたのです。」
「私に何をしろと?」
「研究を手伝っていただきたいのです。」
「”ソ・リアテック研究機構”を退社しモンランム社に籍を移してほしい
報酬は、今の倍出しましょう!」
「今の私には興味のない話だ。」
「では、興味の出るようにお話しましょう?」
『勝手に、話していろ聞く耳は持たん』と・・追い払おうともしたが、
何故か、聞き心地の良い話し方であったので、少しは気晴らしにはなるなとおもい
聞き続けることにした。
「まず8体の被験者を使います。これは発育途中の若年者8歳~10歳位が理想とされていまが、人権的に見て、クローン人間を使う方向で動いています。」
”ソ・リアテック研究機構”は生物学やクローン技術の先端をリードしていた。
「被験者の脳内にAIと、通信端末を埋め込む、理論的には可能なことだが
これを、どう脳細胞とシンクロさせるか?が課題です。
これをあなたに主任となって引きうけてもらいたい」
「通信端末は外部接続以外にAIと脳との間を直接連絡できるように、微量な電流が発生できるようになっていて、お互いの短所を制御しあうため体の各所に電流によって連絡できるようになっています。」
「これを応用することができれば、この電流の信号によって
体を動かすこともできるようになる。」
男の口調がとまった。
思わず聞き入ってしまっていた。
「たとえば、寝たきりの老人の脳をAIが、サポートし体を動かしたり」
私の眼が男をみつめた。
「遷延性意識障害の、人間の覚醒がAIのサポートによって、可能になったり
覚醒まで至らなくとも、脳の指令をAIがサポートし、体を動かしたり出来るように・・」
私は唾を飲み込んだ
『実現すれば娘を、目覚めさせることができる。』心の中でそう叫んだ。
男は続けた
「クローンを8体使う予定でいますが、・・・・・・」
男はそういうと私の目を見つめてこう続けた
「検体の要望があれば本当の人間を使うことも考慮しています。」
私はその話に飛び乗ってしまう。
すぐさま、その男が取り出したPAD端末に
入力をし、オファーを受け入れた。
男は、去り際に一言付け加えた。
「実は”マザーレジアス”は、脳の他にもう一つ人間のに中あるハードディスクに
書き込みを出来るよう通信端末の改良もすすめています。」
「もう一つ?・・・・・・・・」
私はそれが何かな?と思い少し考えたがすぐにその答えがわかった。
「脳どころの話じゃない、おそらくそれ以上の・・」
「さすが博士、解釈が早い、ま、実用はほぼ不可能と言われていますが、」
男はたちあがり
「数日中に本社より連絡があると思います。そこで指示に従ってください・・・
では失礼します。・・・博士とそのご家族に御幸運を!」
そういうと、部屋を出て行った。
「DNA」私は、心の中でつぶやいた。
頭の中からの指令で、DNAに書き込みができるようになると
自らが自分でその病を治せたりするようにもなる。
超小型化され頭の中に埋め込まれた通信機からできるような作業ではないと、私も男に同感していた。
Drサリバンの言葉を思いだした。
もしかすると、“世界平和、争いのない世界”
を“マザーレジアス”は実行しようとしているのであろうか?
“コ・モンランム”のキルメス研究所でその研究を始めた私はその考えを一変させられた。
通信端末によって様々なコンピューターにアクセスできるようになったサテライト8は
“コ・モンランム”首都”レジアス”の実質上のホスト
“マザーレジアス”の、アシストが本台であった。
全ての工程を終えた、サテライト8は首都”レジアス”の周囲の8つの戦略基地に
各々完全なオペレーターとして配備されるという、
無人機、無人砲台などのコントロール
的確なサポートに、的確な提案、敏速な入力、指示業務!!
キーボードを弾くことなく全てのデータを頭の中で処理する。
初動対応が、早ければ早いだけ
戦況は明らかに大きく違ってくる。
サテライト計画は軍事拡張活動の一部であった。
ふがいながら、私は、
愛娘をサテライト計画の被検体として差し出し、今まで実験を繰り返してきた。
娘は見事体が動くようには成ったが、その瞳には何も映っておらず。
記憶こそあれ、事故前の娘とはまるで別人のよう・・・いや
機械仕掛けの人形のようっであった。
それは他のクローンも同じであった、培養カプセルから出たばかりの
少年少女を使っているからだ。
食べること以外、どんな感情も表現できず、今に至っている。
いや、他のクローンよりひどい、彼らには感情が少なからず存在しているが
娘からはひとかけらもそれを感じない、
私の手を離れると
サテライト8は、人格矯正を施され完全な軍人として”レジアス”の下僕になってしまう、
もう、これ以上愛娘アメリアを実験につき合わせるわけにはいかない、
”マザーレジアス”の見つめる“未来”に私は“錯誤”を感じていた。
Chapter 1未来錯誤 終了
Chapter 1未来錯誤終り