Chapter 1未来錯誤 09キルメス研究所
09 キルメス研究所
キルメス研究所は“コ・モンランム”の首都“レジアス”の中心部
軌道エレベータ―の建造物内にあった。
コンクリートに囲まれた部屋が並んでいる
部屋のなかは、表面にエンボスを施したプラスチックで内装してあって
触れても冷たくは感じないが、いたって閑散としていた。
その僅か9平米程の個室の一つに
少女はいた。
真っ白なプラスチックの天井壁床
入口の扉と反対側の壁にモニターがしこまれていて、
真っ白なシーツでつつまれたベッドが一つ
何のために使うかわからない机と、椅子
その椅子に、どこを見るともなく焦点の定まらない目をした。
ポンチョのような何かの検査着を
着るというよりは羽織った。
少女が座っていた。
コツコツコツと足音が近づいてきた。
その部屋の前に、重武装を施した警備員がやってきた。
警備員はドアについているカードリーダーにカードを通すと
顔の高さに設けられたカメラに近寄り右目を翳した。
その後、カードリーダー脇にあるパネルに右手親指を押し当て、
先ほどと違うカードをもう一度カードリーダーにとおした。
ロックが外れる音がし、扉が自動的に廊下から見て左に開いた。
IDカード、網膜認証、指紋認証、扉を開ける都度発行される。
指示認証カード、4段階の認証でロックが解除される仕組みになっていた。
扉が開くと少女は声も無く立ち上がりゆっくりと扉の方に近寄った。
警備員が扉を閉めて歩き出すと、お互い言葉を交わすことなく。
少女は警備員の後について歩き出した。
何度も繰り返されてきた行動のようだ。
エレベータに乗り上の階へと移動する。
目的の階でエレベーターを降りると、
その階にはLaboratoryと入口上に書かれたいくつもの部屋が
かなり広い間隔で並んでいた。
長い廊下を歩きLaboratory7の扉の前で警備員は足を止めた。
少女が扉の前に立つと扉のロックが自動的に解除され扉が左右へ開いた。
少女が部屋の中にゆっくりと入っていくと、扉はまた自動的に閉まりロックされた。
その部屋は先ほど少女がいた部屋とは比べようもなく広く、
数人の白衣を着たスタッフが行き来していた。
手前半分の天井が高く奥半分には二階があり、
手前半分の部屋を見下ろせるよう硝子張りになっていた。
天井が高い範囲の中央には円形になった8人分の寝台があり
少女と同じ服装をした7人の少年少女達がすでにその寝台の上に横たわって
体のアチラこちらに、センサーと思われる電子機器の端末を取り付けられていた。
空いている寝台に、少女も導かれ横たわり、同じ様に端末を取り付けられた。
すると、円台の上部から少年少女8人の上半身を覆い隠すカバーが降下してきた。
二階の硝子貼りの部屋の内部の人々があわただしく動き出した。
下を見降ろす硝子張りの部屋は管理モニタールームで、
少年少女8人各々の様態を様々な計器が捉え表示していた。
「シンクロ率、拒絶反応を確認します。」
サテライト1α+49.2-49.2β+43.8-52.1
サテライト2α+49.1-49.6β+43.9-52.9
サテライト3α+48.1-49.3β+44.9-51.1
サテライト4α+49.1-49.9β+46.9-53.1
サテライト5α+49.1-49.9β+60.9-59.1
サテライト6α+48.4-48.2β+59.9-49.1
サテライト7α+48.6-49.2β+53.9-49.8
サテライト8α+3.5-69.8β+83.9-0.23
拒絶反応0
細身の男性スタッフがそういうと、キーボードをはじき出した。
しばらく間を開けて
「…前日比+-0・003、クリアレベル持続しています。
完全に安定しています。」
「サテライト8は依然数値に偏りがありますが、αの-とβの+が高い数値を示してますのでサテライトとしては合格ラインです。」
「マニュアルコード入力します。」
30代前半のメガネをかけた女性が報告と同時に
キーボードをはじき出した。
「脳波レベル以上ありません。
ミッションコード入力しますか?」
「レベッカ、a-39とx-79のミッションコードを入力してくれ。」
髪が肩までのび無精髭を生やした中年の男が
レベッカと呼んだ30代前半のメガネをかけた女性にそう指示した。
「わかりました。ギルモン博士、入力完了!
続いて、・・・・・・・
本当に、打ち合わせした実験を開始しますか?」
実験内容の種子に疑問を持っていたレベッカが博士に問う
「そうだ」
ギルモンが答えた。
返事もせずレベッカが
「実験用シュミレーションルーム01~08のデータを
サテライト01~08にアップロードします。」
しばらくして、硝子張り上部のいくつも並んだモニター画面に
実験用シュミレーションルーム01~08の画像が映った
各部屋を4台のモニターがそれぞれ違う角度から映しだしていた。
ギルモン博士と呼ばれた男が
「コードmn-01 dr-01を入力」
というと、レベッカと細身のスタッフがあわただしくキーボードを弾きだした。
「run!(実行)」ギルモンが言うと
スタッフ全員が上部のモニターを見つめ始めた。
モニターに映った部屋は先ほどまで少女がいた部屋とまったく同じ形をしていた。
やがて、実験用シュミレーションルーム01~08
各部屋の入り口扉と反対側の壁に埋め込められていたモニターに
各々、時差こそあれ明りが灯った。
そしてIDカード、網膜認証、指紋認証、扉を開ける都度発行される。
指示認証カード、4段階の認証でロックが解除されるはずの扉が。
周りに誰もいないのに開いた。これも、時差こそあれ全室
「a-39とx-79のミッションコードmn-01 dr-01オールクリアです。」
レベッカが報告し疑問を投げかけた。
「この実験は今のサテライト8に行ったのは危険じゃありませんか?」
ギルモンが答える
「今の段階では、こちらからの入力がなければサテライト8は何もできない、
それを訓練させるのは、我々の手を離れ次のステップに移行してからだ。」
「脳波レベルも安定していますね。全員合格ラインに達しています。
間違いなく、役員評議会の承認を得られますよ、ギルモン博士!」
と肥満体形の眼鏡の男が言った。
ギルモンが
「確かにな、後、数回最終調整をすればサテライト8は、次の段階に
ステップアップできる・・・のだがな・・・」
と少し頭を抱えて答えた。
「レベッカ、役員評議会にデータを送信してくれ、
承認完了後
準備が整えば、現サテライト8は最終調整を終えた後
私たちの手を離れ次のステップへと移る。
我々は、次のサテライト候補を育成する。」
と、いったあと肥満体形のメガネの男に耳もとにささやいた。、
「ベルモット、頼みがある」と耳打ちで話しかけた。
ベルモットは耳元で何やら囁かれた。
「・・わ。かりました。次ステップのスタッフに引き継ぐまで、
それまでに何とかしてみます。」
少しためらったがギルモン博士の頼みを受け入れた。
レベッカの視線がそれを冷ややかに見つめていた。