心の思いと心の迷い
ナミさんは、僕に微笑んでくれていた。
微笑みを分けてくれているナミさんには、悪いと思っていたけど、
彼女の事で、一杯一杯になっていたから、こんな事を口に出したと思う・・・。
「ハナは、何処なの?」と何処か悲しげな表情を浮かべた。
でも、その思いは、僕の勘違いだったようで、
「あっ、ごめんね。わたしじゃ、物足りないよね・・・」
僕から視線を外すと、表情が少し曇ったように見えた。
まさかナミさんの口から、こんな言葉が帰ってくるなんて、
思ってもみなかったので、
「えっ、えっと、そ、そんな事は、無いです。看病までして貰って、
ほんとうに感謝しています」と出だしから動揺を隠せなかった。
「そう、よかった。でも、取ってつけたような感じだったけど、
ほんとに感情が込められていたのかな?」
「それはもう、愛情を沢山こめましたよ」
「・・・・・・そう、ありがとう」
「・・・・・・いいえ、どういたしまして」
「あっ、忘れてた。ハナはコンビニに行ってるのよ」
「えっ、コンビニ?ですか・・・」
「大丈夫、大丈夫、すぐに戻ってくるから」
「い、いやぁ、そんな意味では・・・」
「あれ?それは、どんな意味なのかな?」
「もう、ナミさん。茶化さないで下さい・・・」
「健児くんって、分かりやすいね。でも、どこか抜けているんだけどね」
「そ、それは、どうもです」
「別に褒めてないけどね・・・健児くんって、天然なんだね」
僕はホッと胸をなでおろしている一方で、僕の事をほったらかしにして、
ナミさんに任せて、コンビニに行くになんて・・・と、
考えていると、少しムカついてしまった。
その思いを必死に押さえて、namiさんに聞いた。
「なんでハナは、コンビニに買い出しに行ってるの?」
「えっ?わかんない?健司のためだよ」
と言われて色々と考えてみたけど、結局のところ口から出たのは、
「なんで?」だった。
「なんで?って、健児の置かれている状況は、分かってる?」
「ごめんなさい。どうも記憶喪失っぽいからかな?・・・」
「・・・誰でもわかる嘘なのに、とっても分かりやすく教えてくれて有難う」
「少し傷つきますけど、どの辺りがダメでした?
これからの人生の糧としますので、教えてください」
「本当の記憶喪失の人は、っぽい。なんて言えませんから・・・」
「・・・・・・さようですか」
「もう!真面目に、訊いているんだよ」
「たぶん、hanaを見つけたと思います」
「うん、合ってます。合っていますけど、
では何故、ここで寝てるのでしょか?」と、クイズ形式で回答を求めてきた。
「さぁ・・・なぜだろう」
「10秒経過・・・」
「うそ、時間とか、あるんだ!」
「20秒経過。残り40秒しか残っていませんよ」
「まさか、僕って、ほんとの記憶喪失?」
「たぶん違いますよ。さぁて、答えられるのでしょうか・・・」
「そっか!きっと、倒れたんだ・・・」
「おっと、良い回答ですが・・・30秒経過!」と告げられ、
僕の手の平は、尋常じゃないくらいに、汗をかき、びしょびしょに濡れていた。
「さぁ!健司くん。答えて下さい!」
「ハナ?」
「ハナ?それだけでは、答えになっていません。
答えとしては不十分です。さぁ、続きを、お答えて下さい」
「ハナから、助けて貰ったような気もするし、助けたような気もするし・・・」
「ハナを助けた?それはオカシイですね・・・もしそうだとしたら、
ベッドに寝ているのは、健児くんではなくて、ハナでしょ?」
といわれた時、気付かされた。これは僕の為のGAMEだったんだ。
僕はてっきり暇つぶしのGAMEだと勘違いしていた。
もしかしたら、ナミさんは楽しんでいなかったかも知れない。
でも楽しそうな表情を浮かべていたのは、僕の為だったのか・・・。
そう考えると、ナミさんの言動も納得できていた。
そしたら何故、こんなに暖かく優しく、僕に付き合ってるのだろうか?
ハナの友達だから?きっとこんな考えなんて自意識過剰だろうか・・・。
勝手に涙腺が緩む僕の目元にすら腹が立ってくる。
だから僕は必死に、込み上げてくる思いを、遠ざけようと考え、
退けようと思って、頭を掻いたり、額を掻くことで、
自分の思いを誤魔化そうとしたけれど・・・ぜんぶ無駄な行為に終わっていた。
両手が、目元を隠すというよりかは、ギュッと押さえ付けてきる感じ・・・。
そうでもしなければ、手の隙間から、零れ落ちそうになっているから・・・。
「あらら、健児くん、どうしたのかな?嫌な事でも、思い出しちゃったのかな?」
僕は否定しようと、口を開けようとすると、
嗚咽が零れそうになるのを堪えるために歯を食いしばって口を閉ざした。
だから首を横に振る事しか出来ずにいた。
「健児くんは、答えが見つからないので、俯いているのかな?」
僕は首を横に振る事でしか、表現が出来なかった。
「わからないのなら、分からないと、素直に言わないと駄目なんだよ。
そして男の子という生き物は、人前で涙を見せてはいけない動物なの・・・
可哀想だけど・・・その分、女性は特だよ、涙は武器になるからね。
良いでしょ? お、ん、な、の、こ、は」と慰めてくれる女の子にたいして、
「・・・ありがとう」と小さく頭を下げた。そして僕の頭は上へ戻れなくなった。
軽く頭が下がった状態で、頭頂部に暖かさを感じている。
「大丈夫だよ、もう大丈夫。心配しなくても良いからね」
と頭を優しく撫でられていた。
人の暖かさというのか、温もりというものは、こんなにも
気持ちを落ち着かせる事が出来るんだ・・・・・・。
「カチッ・・・」ドアノブに手をかけた私は、驚かしてやろうと
音を立てないようにして、ゆっくり回してドアを開けることに成功していた。
でもドキドキは止まらない。もしかしたらバレるかも知れないから。
そして、二人は、どんな反応をしてくれるのだろう。
怒るかもしれないし、笑うかもしれない。どっちにしても楽しみだった。
特に健児は、落ち込んでいるだろうから、励ましてあげるつもりだった。
でも、私の目に飛び込んできた光景は、少しも想像できなかった・・・。
「ほら、健児!笑え、笑いなさいよ!笑え、早く笑え、笑いなさい」
とナミが、楽しそうに健児の頬を引っ張っている姿に、
両手に抱えたコンビニ袋を危うく落としそうになる。
何かあってからだと遅いと思った私は、少し屈んでからコンビニ袋を床へと下ろした。
そして、そのまま立ち上がるとすると、立ち上がる気力を無くしていたのか、立ちくらみなのか、
体の重心が、後方へずれる。一瞬やばい! そう思ったけど、後方にはドアがあり、
そのドアが私の事を優しく支えてくれ、難を逃れることが出来た。
ドアを優しく接したお返しなのかな?
ドアさん有り難う。と、微笑んだつもりだったけど、
きっと、上手く微笑んでいなかったと思う。
そんな感じがする。私は驚かすのを止めて声をかけることにした。
「おそくなっ・・・・・・・・・」と、途中で言葉を失った。
私は何をしゃべろうとしてたのか、それさえ、忘れてしまった。
私の目の前で起こっている光景は、私的には、結構衝撃な光景だった。
「痛いよ。痛いよ、ナミさん。痛いってば・・・」
と、痛そうにしながらも、楽しそうに笑う健児。その態度が腹が立ち、
健児の頬を引っ張る、ナミの行為に不快感を覚えた。
「健児くんが、笑ってくれないから、感染っちゃうよ・・・」
と泣いている、ナミの背中を心配そうに見つめる健児の姿に懇願する。
そんな目で見ないでよ。私以外の人を、そんな目をして見ないでしょ。
と急に切なくなっていったけど、こんな考えしか出来ずにいる、
小さな自分の事が、情けなくもなる。私は親友すら信じてあげられないのか?
ナミは、ハンカチを取り出すと、目元を拭いているように見えた。
この行為は、健児を振り向かせるのが目的?
そんな飛んでもない、考えまでもが脳裏を過る。
こんな愚かな自分に、昨日まで信じていなかった神に祈る。
勘違いで有って欲しい・・・と。
「ふぅ・・・・・・」と息を吐き出すナミの姿をみて、体が震えた。
直感なのか、寒気を感じる。そして胸騒ぎを覚えずにはいられなかった・・・。
駄目だよ、駄目だよ、ナミ。そいつは、健児は、私の大事な人なんだよ・・・
だから、それ以上、仲良くしないでよ・・・。親友だから困るよ・・・。
「ガチャ・・・」という音をたてて私の何かが外れた。
私は、意味が分からず、意味も分からず、自らの体を抱きしめる。
「なんか、恥ずかしいな。それもこれも全部、健児くんが悪いんだよ」
と微笑みかけるナミにたいして、
「そしたらお詫びに、悩みがあるのなら、いつでも聞きますよ。
お役に立てるかどうかは、分かりませんけど・・・」
こんな事をいう健児に、苛立ちを覚えた。バカ、バカ健児!
私以外に優しくすんなよ!と罵る自分と、ナミは親友だから・・・私の勘違いだ。
全部、私の思い違いだ。あるわけ無い。大丈夫だ。
何かを必死に抑えようとしている自分が存在していた。
「でも、もしかしたら、お願いしちゃうかも」とナミは、
少しハニカムながらも続ける。わたしの健児にたいして、少し微笑みながら・・・。
「あっ、でも、やっぱり止めておく。ハナに悪いからね」とナミは、
私だけの健児にたいし、ペロッと舌を出す。
「そんなこと、思ってないくせに・・・・・・」と、自分の気持ちを必死に押さえ込んでいた筈なのに、
床に置いたコンビニ袋を掴み取ると二人に近づいていった。
私の瞳の中には、両手にコンビニ袋をぶら下げているハナの姿が映っていた。
ハナの視線は・・・焦点が合っていないのか、何処にも合わせていないのか、
私を見ようとしていないのか、そこまでは分からないけど、凄く寂しそうな表情を浮かべていた。
こんなハナの姿を見るのは初めてなので、健児くんに助けを求めようと、健児くんに伝えるため表情を伺うが、
伝えることすら出来なかった。健児くんの顔は青ざめていた。そして、口は半開状態。
そんな表情で、ハナの事を見つめる姿が、辛くて耐えられなかった。
そう思うと、わ、た、し、が、ま、も、ら、な、け、れ、ば。
私は臨戦態勢をとると、ハナが近づいてくるのが分かる。だから、私は来た! と、身構えて戦闘態勢に入る。
だけど、ハナは私の事を無視して通り過ぎる。と、ボソッと呟いた。
「わたしは、お邪魔のようですから・・・」誰に言うでもなく、何気なく出た言葉のようにも感じられた。
戦闘態勢を取っていた筈の私の口から、思ってもいない言葉が飛び出していた。
「ハナ、違うのよ。ほんとうに違うの、ハナの勘違いだよ、勘違い。勘違いなんだよ」
「そこまで、否定されると、逆に疑っちゃう・・・
親友だと思っていたからさ。あんな姿を見せられたからさ」
「ちょっ、ちょっとまってよ! 今は、親友じゃないってこと?」
「・・・・・・・・・」と、私の問に答えてくれず、健児くんが寝ているベッドに近づく。
ベッドの上に、コンビニ袋2つを無造作に置く。
でも、健児くんとは、一度も目を合わせなかった。
「では、お大事に・・・」と、踵を返す姿に、健児くんが何かを言おうと口が開きかける。
そんな姿を見たら、居ても立っても居られなくなった私は二人の間に割って口を挟んでいた。
何事も無かったかのように立ちさろうそする、ハナの手を握りしめながら言った。
「ちょっと。なによ! 待ちなさいよ!私の質問に答えてよ!」
「ちょっ、痛い。痛いってば! 離してよ。そんなの良いじゃ無い。知らないし、どうでも良い事でしょ!」
「どうでも良いこと・・・よくない!どうでも良い事なんて無い! この際、私の事は良い。
健児くんは、どうするのよ。って話。ここに残したまま、帰るなんて言わないよね?」
「健児なんて、良いじゃん。べつに」
「・・・くっ、今何て言ったよ・・・良いって言った? 何よ良いって! 健児くんが、どれほどハナの事を、
心配してたと思ってるのよ!」
「な、なん、なんで、ナミがキレてんだよ!」
「止めてよ、もういいよ。もう十分だよ。喧嘩は止めてくれよ・・・」
私は嬉しかった。健児が口を挟んでくれた事が・・・。でも私の味方なのか?
それとも、ハナの味方なのか?
もしかたら、ハナも同じ考えを持っていたのかも知れない。
少し間が開いた筈なのに、私達はハモっていた。
「よくないよ!」私は思わずハナを見てしまった。ハナも私を見ている。だから自然と視線が交わる。
一気に気まずい空気が流れたから、私はハナから顔を背けてしまった事に後悔。
「そしたら、なんで、連絡くれなかったの? 健児の意識が戻ったら連絡してって、
いったよね私? ちゃんと伝えたよね?」
「どうやら、僕がいなくなった方が、良いみたいだ」
健児くんはベッドから降りようとしていた。
「ハナとナミさんが喧嘩している姿なんて見たくもないよ」
「ちょっ、ちょっと、なに、いってんのよ! ちょっと待って、
なに動いてんだよ!動くな!」と、ハナが止めている姿を、私は見ていることしか出来なかった。
健児くんは、起き上がろうとするが、足の震えは止まる事を知らない。
それでも、無理やりに床へ下ろそうとしている姿と抱きつくハナの姿。
無理矢理ベッドの上へと戻すハナの姿に、その場から動くことさえ許されなかった。
「もう止めて!」と、ハナの叫び声が休憩室に響き渡ると、
あれほどムキになっていた健児くんは正気にもどると、私も正気に戻された。
そして、自分を抱きしめているハナの事を見つめていた
ハナは泣きじゃくっている。私とは違う涙を、ハナは流していた。
「健児ごめんね・・・ごめんなさい。もう喧嘩しないから」
健児くんには、ハナの姿しか目に入らないことに気付かされた。
私は二人から気付かれないように遠ざかり、ゆっくりとドアを開けた。
そして、気付かれないように外へ出ると、ドアの隙間から、
漏れ出ている光景を見ないよう、顔を背けながら、静かにドアを閉めた。
「はぁ・・・わたし、何をやってるんだろ・・・」
とドアには悪いと思いながら、もたれ掛かり、ちっぽけな愚痴をこぼしていた。
「ほんと、わたしって、ダメだ。ダメダメだよ。ダメダメダメ子ちゃん私、
しっかりしろ!」一歩前へ進むために、踏み出す。
思ったより、すんなり歩いて行けた。泣き叫びながら歩いたらどうしよう?
なんて思っていたけど・・・・。私が、歩いているだけで、
皆の視線を独り占めというよりかは、独占していた。
まぁ、自分が可愛いのは、知っているからね・・・えへへっ。
中には変わって人もいて、立ち止まると、顔だけが私を追っかけるのよ。
おかしな人でしょ?写メ撮ればよかったな・・・。
そして、こんな人もいたんだよ。
私にハンカチを差し出すの・・・何度断っても、
手渡そうとしてくるから、新手の、ナンパかと思って、
無視したけど・・・良かったのかな?
ハンカチだけは、絶対に受け取らなかったんだけど・・・。
私ばかりが視線を独占するのも、悪いと思ったので、
少しだけ、俯き加減で歩くことにした。
するとね、今時珍しいけど、天井から雨漏りしてたんだよ。
ときどき私の制服を濡らすけど、気にしてもしかたないから、
なるべく気にしないようにして、ホームへと向かった。
でも着いてみると、列車の到着時刻まで、まだ時間があるから、
ベンチへ腰掛ける事にしたの。するとね、きょうは、真丸御月様の日だったの。、
なんとなくラッキーでしょ? ウサギが餅つきしている所を、
探してみたんだけど、少し目が霞んで見えにくいので、
拭くものを探したけど、見当たらなかったので、
流れ落ちてくる物を、仕方なく制服の袖で拭きとると、
「ちゃんと、訊いてた?・・・健司くん、助けてよ・・・。
わたし、変になっちゃいそうだよ・・・」
「ほんと馬鹿だよ・・・僕もハナも」
彼女の少しむくれた顔で、足早で近づいて来るので、
「ヤキモチ焼きで、早とちりのハナちゃんに早く会いたかったよ」
僕は両手を広げて、彼女の事を受け入れ体制を作る。
「ふざけんな、ふざけんなよ。私がどれだけ、心配したと思っているんだよ・・・」
と彼女は近づいてくる。でもまだ彼女は僕と目をあわせてくれない。
徐々に近づいてくる彼女に、
「おいで」と口にすると、やっと彼女は近寄ってきたけど、
僕の両手は何もすることなく、宙に浮いたままになっていた・・・。
「もう少し、こっちに寄ってよ」僕は、彼女の右肩に手を回し近くへ寄せる。
「・・・・・・ひゃっ」
「変な声ださないでよ・・・」
「ご、ごめん・・・・・・」
「僕もごめん。そして心配掛けてごめん。でも、ようやく、会えたね」
と僕は彼女の事を見つめると、彼女も僕を見つめていたけど、ゆっくりと少し恥ずかしそうに、
僕に体を預けてきた。
「・・・・・・うん」といって僕の胸に顔を埋めていた。
「おまえ・・・いやらしい事は、考えてないよな?」
「こういう場合って、否定したほうが嬉しいの? それとも肯定した方が良いものなの?」
「ば、馬鹿じゃないの? 何いってんだよ。普通きかないでしょ?
ほんと変態なんだから・・・」彼女の顔は、鮮やかな桜色に染まって行った。
そして僕から急いで離れようとするけど、僕は離さなかった。
「はなせ、こら、はなせよ」といいながら、
嫌がっている彼女の姿を見て、もう絶対に離すものかと決めた。
「おかえり・・・」というと彼女は力を抜くと、僕に全体重を預けてきた。
「ただいま・・・」と囁き目を閉じると、黒い雫が制服に落ちていた。
「こほん!」僕らは自分たちの置かれている状況にようやく気付かされた・・・。
そして、駅員さんの口から聞かされて、
とても恥ずかしい事をしていたんだと、初めて気付かされていた・・・。
「もう大丈夫そうだから、言いますけど・・・ここは、ホテルではないんだよ・・・」
と言われ、僕は彼女から慌てて手を離す。彼女も急いで僕から離れると、
「ほんとうに申し訳ありませんでした・・・」
と深々と頭を下げている彼女の姿を見て、
結構大人の対応が出来るんだ・・・と感心していた。
自分も立ち上がろうとしたけど、
ふらついて倒れそうになった所を、彼女から支えて貰って、
「本当に申し訳ありませんでした」と、僕らは人目もはばからず、
自分たちの行なっていたことにたいする恥ずかしさと、
彼女に支えられているという恥ずかしいさ、
2つの恥ずかしい思いという複雑な気分を味わっていた。
二人で改めて謝罪して、ベッドを借りた事にたいして、
きちんとお礼を述べてから、
休憩室を後にした・・・彼女の肩を借りて歩いていると、
携帯のバイブ音が鳴っているように感じた。
「あぁ私の携帯が、鳴ってんだ?」
彼女が取り出した携帯には、見覚えがあり、
何処か懐かしいオーラーを放っていた。
「はい、電話鳴ってるよ」と手渡された携帯を調べても、
やっぱり僕の携帯に間違えはなかった。
「ありがとう。でも、なんで、ハナが持っているの?」
「さて、何故でしょ?」
「質問返しは止めてくれ・・・」携帯には、自宅と表示されていた。
いつもの調子で、通話ボタンを押していた。
「・・・健児?健児か?今、何処で、何をしてるんだ?」と、
心配そうな口調で聞かれて、
「◯◯学園前駅にいます・・・」と答えると、
「学校早退して、お前は・・・、今すぐ、帰って来い!!」
とすごい剣幕で怒るから、嘘つくくらいしか逃げ道を見つけられなかった・・・。
「うん、わかってる・ごめん母さん、今らから汽車に乗るからね、
電源切らないといけないから、切るね・・・ちゃんと帰ってから説明するから・・・」
「健児の母親は、怖いな・・・嘘つき健児」
と彼女は楽しそうに笑っていたけど、そんな事は、
どうでも良かった。帰ってからの事とか、学校の事とか、
色々と考えていると、目眩がしてきた。
「うゎっ、なんだか、フラフラするんですけど・・・」
「お、おい、大丈夫か?」と僕の事を支えてくれた恩人にたいして、
ポロッと本音が顔を出してしまった・・・。
「柔らかくて、とっても暖かいや・・・」
「おい、こらっ、変態、離せ!・・・」
「今日は変態でも我慢しますから、もう少しこのままで居させて下さい。
帰ったら地獄が待っているのですから・・・」