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あいたいよ

 ハナから送られたメールには、

「あいたいよ」とだけ書かれていた。

この文章を書いたのは、間違えなく彼女だろう。

何度も確かめてみたけど、やっぱり彼女からだろう。

何故、何度も確かめたのかは、

何か他に見つかるのではないか?というファンタジー要素が

含まれているわけでもなく、

短い文章の中に、何かに悩んでいるように、

感じられたからだった。


授業中には禁止の筈の携帯を眺めながら、

「どうしたの?」と送ってみた。

あっという間に返信を送る彼女なのに、授業が終わっても返事は来なかった。

「◯◯学園前駅で、待っています」と返信を送り終えた時には席を立っていた、

クラスの周りの声なんて耳に入らず、僕は教室から飛び出すように出ていく。

教室にカバンを残したままで・・・・・・。


この日を境に、僕の人生というか、学生生活に、さよならを告げた。

無遅刻、無欠席で来ていた学生生活・・・。

学校なんてク◯くらえだ!と中指を立てるまでには及ばない・・・。

少しだけ、早退することを悔やみながら、廊下を走っている。

絶対に走るな。と小学校の先生から言われ続けて、

高校まで、ずっと走らないで守って来たけど・・・、

今日から、新しい学校生活が始まるんだぜ!なんて事は思えるわけがない・・・。

ただ、この後の事を考えると、色々と怖かった。それでも頭の中では、

彼女の事しか考えられないでいたから助かったというか、

彼女が関わっていなかったら、こんな事にもならないのだけど・・・。

まぁこんな考えが出来たのは、全部終わってからの事なんだけどね・・・。


「大丈夫だよね、無事なんだよね・・・」と最後の関門に辿り着く。

そして固く閉ざされた正門に飛びつく。

まさか、こんな日が訪れるとは、思ってもなかった。

こんな事は、漫画やドラマだけの話だと思っていた。

僕は、正門をまたがり、軽く後ろを振り返っていた。

ごめんなさい。と学校へ告げて軽く飛び降りた。

後方から声がかかったように感じたけど、僕は駅へ向かって、

全速力で走って行った。帰宅部なので、何度も途中で、

足が絡まりそうになり転びそうになったけど、なんとか走れていた。

頭の中の彼女は、落ち込んでいる姿しか浮かんでこないので、

走るスピードも上がる。でも分かっていた。

脳が、勝手に作り出した事ぐらい・・・。なのに、心は折れそうになっている、

そんな情けない自分の考えに叱咤激励、


「彼女はどんな時でも、中指を立てて微笑むじゃないか!」と、

頭の中の自分と対決しながら、改札機に電子カードを当てる。

行き先は、◯◯学園前駅・・・。電光掲示板で、到着時刻を見つける。

携帯を取り出して時刻を確認してみると、

列車の到着まで2分少々の時間があった。

普通に歩いたとしても、30秒と掛からない距離なのに、

歩くことは出来なかった。

「いまから、あいにいくから」と気がつくと走っていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい」と誰かれ構わず謝りながら、

階段を下りてくる客を押しのけるように登っていく。

これほどまでに、列車を待ち遠しいと思ったことはない。

たった60秒の時間を待っているだけなのに、

思うように時間が進まないように感じる。


「まもなく、3番線に、普通列車、◯◯駅行きが到着致します・・・」

と駅員のアナウンスにより、列車が到着するのは分かっていたが、

僕は、まだか、まだかと携帯を眺め列車の来る方向を見つめた。

「プルルルルーーー」電子音が流れてくる。

列車の到着を知らせるアナウンスと共に・・・、

「これに乗れば、やっと、会えるんだ」と思うと、やっと少し落ちついてきた。


そして列車のドアが開くと、

一目散に乗り込んでいた。

どうしても席に座りたいとか思ったわけもないのに・・・。


◯◯学園前に到着するまで、頭の中は、彼女の事で溢れていた。

「早く会いたい・・・早く元気な姿が見たい」

彼女と同じ空気を感じて、同じ空気を吸いたい。

そして同じ時を刻みたい。そして列車の中では、◯◯学園前到着を知らせる、

アナウンスが流れた。

僕は降り口へ向かい、ドアの前に立ちながら、右足で、

まだか、まだか、リズムを取っている。

そして、ドアが開くなり外へ飛び出していた。


僕は辺りを見渡して、彼女の姿を探した。その時、

何故か彼女の存在を感じとれた。姿なんて見えないけれど、

この駅構内に、彼女がいるんじゃないかと感じたというか、

この時の事は、今でも分からない。

心の中で願えば、届くんじゃないかと思って、


「僕はここにいるよ、早く出て来てよ、元気な姿を見せてよ」と、

願ったのは良いけれど、日頃の運動不足がたたったのか・・・

その場に座り込みたかった。

体は僕の意思とは違い、

勝手に動きだすと、勝手に階段を駆け上がっていた。

階段を上がりきると、足が思う様に動かなくなった。

次第に足が重たくなり、恥ずかしい気持ちなど忘れて、

通路に座り込んでしまった。まさかこんな事になるなんて・・・。

「もう無理なのかも・・・いや、そんな事はない。少し休めば動けるだろう」

僕は天井の蛍光灯を見つめていると、気づかない内に叫んでいた。

「ハナ!」

と叫ぶと、右の太ももが痙攣を起こしているのかと思っていたら、

携帯のバイブだと気付かされて、アスリートでもあるまいし、

そんな事を考えた自分の事が滑稽で笑えた。


携帯を取り出して確認してみると、

「本当に、来てるの?」というメールに、

「あんなメール貰ったら、誰でも来るだろう」と返信を返そうとするが、

思う様に打てなかった。指先がブルブルと震えて、

少し苛ついて、床へ携帯を置いた。

薄れて行くというよりは、眠気が襲ってきていた。

床では、バイブ音によって、携帯が小刻みに揺れていた。


「うるさいな・・・」と僕は床の携帯を右手で掴むと、

軽く滑らせる。自分から少し遠くへやりたくて、

右の方へ滑って行く携帯は、思ったより滑っていく。

壁に当たるかな・・・なんて見ていると、そんなこと無く、

何かにぶつかったのか、行き先を変え、小刻みに揺れていた。

誰かが僕の携帯を拾ろっているのか、

そのような、シルエットが飛び込んできた。


「なんだよ、僕が馬鹿みたいじゃないか、出来すぎだろ、

漫画やドラマじゃあるまいし・・・」と、携帯を握り締めた女性が近づいてくる。

どうやら僕の顔を見ているらしい。僕は近くに来るのを待っていたけど、

一向に女性が近づいた気配は無く、一応確認してみると、

腕組みをし、僕の事を睨んでいたから、怖い、驚いたではなく、

単純に嬉しかった。

「困った、困った、やっぱり怒らせたよな」と思いながら、

名前を呼んでいた。

「ハナ・・・」と急に停電になったかと思った。

あれ照明が消えた?と思ったけど、次第に周りの声も聞こえなくなるのを

感じて、

「もしかして、もうダメなのかも・・・」

僕の体は誰かに、優しく抱きしめられているように感じた。

そして、僕は失われて行く意識の中で聞いていた。

大声で助けを求める、彼女の姿を見たような気がしていた。


どのくらい時間が経ったのだろうか、僕は目が冷めていた。

天井の蛍光灯の灯りを感じて・・・。

そして辺りを見渡して、知らない所で寝ている事に気づくと、

急いで起き上がろうとするが、

「まだ起きたら、ダメだよ」と押さえつけられ阻止された。

僕は仕方なく、首から上だけを動かし、左をみると、駅員さんと目が会った。


「なんで、駅員がいるの?」と考えていると、

駅員さんの表情には、どこか安堵の表情を浮かべているように感じられた。

って、なんで?と思っている自分と、寝ているらしい自分の状況を考えると、

「すいません、ご迷惑をおかけします」と告げていた。

「いいよ、いいよ、大丈夫、大丈夫だから、心配しなくても良いから、

もう少し、ゆっくりして行きなさい」

と微笑みながらの駅員さんに、

僕も寝ていて失礼かと思ったけど、

「ありがとうございます・・・」僅かばかりのお礼を述べると、

駅員さんは、僕ではない誰かに話しかけていた。


「もう大丈夫そうなので、業務に戻りますけど、何か在りましたら、

その辺に居ますから」

「本当に有難うございました。もう少しだけ、お世話になります」

と大人の対応をしている声の主を確かめてみることにした。

声色により、母親でもないし、hanaでは、無い言う事だけは分かっていた。

駅員さんの背中に向けて頭を下げ続けている女性が振り返った。

「ナ、ナミさん?」

「よかった健児くん、ほんと心配したんだからね」といきなり近づくと、

僕の手を、ぎゅっと握り締めている。

「なんで、ナミさんが、ここに?」

「えっと、言っても良いのかな?」ナミさんは少し困惑の表情を浮かべている。

「僕に関係のあることでしたら、なんでも言って下さい」

「そうね・・・関係が無いことも無いんだけど・・・」

「そんなに、じらさないで下さいよ。


「それじゃ、言うけど、ハナから緊急の電話を貰ったので、

気づいたというか、気付かされたというか・・・」

「大丈夫ですよ、遠慮なく続けて下さい」

「そうね・・・続けるわね。スタジオに始めて来た時の事は覚えてる?」

「は、はい」僕は相槌を打ちながら頷く。

「あの時ね、こんな事を言ったら、怒るかもしれないけど・・・、

遊びなのかな・・・って思っちゃったの・・・」

「えぇ、そんな事ですか、そんな事では、怒りませんよ。というか、怒れませんよ。

実際、ぼくも遊ばれているのかな?なんて、思ってましたし、

今でも、遊ばれていると、思っていますから」と笑い話に済ませようとすると、

「ううん、ちがうの、ちがうのよ、健児くん」

「急に、どうしたんですか?僕が寝ている間、何か在りましたか?」

「ごめんね、ごめんなさい。ちょっと色々と有り過ぎて・・・というか、

私の頭の中で整理が付かなくて・・・」

「こちらこそ、ごめんなさい。色々と質問してしまって・・・」


「ううん、健児くんが、謝ることじゃないの。健児くんが、

悪いわけじゃないの。ぜんぶ私が悪いの・・・」

「そ、そうですか・・・。いや、ナミさん大丈夫ですか?悩み事があるなら

話して下さい。いくらでも聞きますから」

「健児くんって、優しいのね。なんだか、ハナが羨ましいな」

「でも話は聞きますけど、良いアドバイスは、出来ないと思いますけど」

「ありがとね、健児くん。なんか悪かったね、私の心配まで、させちゃって」

「いいえ、何かあったら、何時でも言って下さいね」

「えっとね、健児くん、そうやって、誰かれ構わずに、

優しくしてるとね・・・、後々大変なことになったりするんだよ。

ほら・・・」と途中で止まると、誰かの手が、僕の足に触れたと思ったら、

優しく撫でられている感覚がする。

「・・・こんなに、ボロボロになるまで・・・」といって

ベッドで横になっている僕の顔を見つめている。

その瞳には、薄っすらと涙が溜まっているように見えた。

その事に気づいたのかは分からないけど、ナミさんは俯くと、

中々顔を上げようとしないから、心配になり、


体を少し起こして。ナミさんの方を見てみると、肩が上下に揺れているのを見て、

泣いているという事に気づかされたけど、こんな時って、

どのような言葉を、掛けたら良いのか分からなかったけど、

「えっと、もし僕の心配しているのなら、このくらい全然平気ですよ。

もし、本当に悩みがあるなら・・・」と話の途中なのに、ナミさんは、

突然立ち上がると、僕に背中を向けたままの姿で、

「・・・ううん、わたしも大丈夫。ごめんね。

なんかね、色々と思い出しちゃった」

僕は見てはいけないと思いながらも、

スカートのポケットからハンカチを取り出して、顔に持っていくと、

涙を拭いているような姿に、なんとも言えない気持ちになっていった。

「ごめんね、健児くん。これじゃ、どっちが、病人か分からないわね」

と笑うと、ひと粒の涙が落ちると、僕のズボンに、小さな模様を創りだした。

結局の所、ナミさんが何故泣いたのかは、聞けずじまいだった。

これ以上は、聞くわけにもいかず、真相は藪の中へと、完全に隠されたように感じられた。

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