旅は道連れ世は情け?
通路という一本道を、スキップでもしながら進んでいきたい。
そんな気持ちを抑えて、お気に入りの席へ急ごうと足を速める。
なのに、手首を引っ張られたのでおもわず振り返る。
「えっ、な、なに?」
「この辺で良くない?」
健児は近くの座席に座ろうとする仕草を見せた。
だから、私は首を横に振って、
「・・・嫌だ」と答える。
健児は座席を見つめている視線を少し下へ落とす仕草を見せる。
その姿はまるで、伏し目がちのような表情に見えた。
「あっ、そう・・・」
そして、少し切ないような返事を返してきた。
その表情の真意が何だったのかを知るには、
もう少し時間が必要だった。
そんな事を考えている暇というか、余裕も無かっただろうし、
嬉しさと楽しさが溢れていたから、
私のお気に入りの席へと辿り着くまでに、
何度か、同じ遣り取りを繰り返したんだけど、
全然苦に感じられなかった。
それよりかは、誰かに座られないか、内心ドッキドッキしてたから、
座ることが出来て本当に嬉しい気持ちの方が強かった。
「よいしょっと・・・ふぅ・・・」
右奥へと体を滑り込ませると、何故か左手の移動だけが後れた。
ううん、後れているのではなく、完全に私の私物ではないような感覚だ。
だから私は、自分の左手を見た。手首に何が起こっているのか、
そして邪魔している物は何なのかを・・・。
「ん?なんで」気がつくと声に出していた私にたいして、
健児は照れくさそうに答えた。
「何でって・・・ハナが・・・」
そんな中途半端な所でモジモジしている女の子のような健児にたいして、
文句の一つでも言ってやろう。なんて思っていた矢先・・・
全部思い出してしまっていた。
だから、握られている手、握っている手、握られている手の持ち主、
握っている手の持ち主の交互に見てまわる。
そして、私が離さない限り、解けることが無いことを知ってしまった。
顔の温度がどんどん急上昇中。
恥ずかしい気持ちが、あふれ出て、あふれ出て、洪水警報発令中。
「ご、ごめんなさい!」
急いで掴んでいた手を離す。まだ温かさの余韻を残した左手の行き場の無くした
置き場を探す。てっとりばやく目に飛び込んできたのは、
膝の上にちょこんと置いている右手を握りしめる事で、
ようやく手持ち無沙汰を解消する事ができたようだった。
そして、あの時みせた健児の表情。伏し目がちの意味を知る。
照れくさかったのか、恥ずかしかったのか、じゃぁ嬉しくなかったのか?
こんなネガティブな思いも、
羞恥心が楽々センターバックスクリーンに打ちのめしてくれた。
次第に左手の暖かさも、徐々に右手へ温もりを分けあたえてるようだ。
その温もりを少しでも、右手に早く伝えてあげよう。
喜んで貰おうと、ギュッと握りしめた。
暖かさが体全体に到達した頃には、体がポカポカになり、
ようやく気持ちが落ち着いてきた。
そんな事は無いのかも知れないけど、
そう感じる事ができたから、
必死に握りしめていた左手の力を弱める事が出来たと思う。
すると面白い光景が目に飛び込んできた。
右手の親指と人差し指の隙間から数ミリの紙が飛び出ている。
だから、私はなんだろう?と思い、こっそりと右手を開いて中を確認してみると、
なんだ、整理券か・・・そういえば取ったなぁ・・・そう思い出しながら、
少しクシャっとなって潰れている姿に、
かなり緊張していたんだなぁと思う。
しかも緊張感は現在も継続中なんで、
健児がどんな表情を浮かべているのかさえ分からない状態に置かれている。
情けないかも知れないけれど、車窓からの景色を眺めてしまう。
どうしたら、もう少し可愛らしく話すことが出来るのだろう?
何で、緊張してるんだろ?
どうやったら、普段の自分で居られるのだろう?
何で、ドキドキしてるんだろう?
どうやったら、女の子らしく見えるのかな?
何で、ワクワクしてるんだろ?
色々考えても、無理な事に気づいちゃいました。
だから私は、頑張って行動に移すことにしました。
本当は簡単な事なんです。ただ視線を左へと移せば良いだけですから。
やりましたよ、私の瞳の中に、健児を捕らえる事に成功しましたよ。
だけど、左手をさすっているようでした。
でも今回は、左手をさすっている事の意味はすぐに分かりりました。
もしかしたら体がポカポカに温もったからなのかも知れません。
「ごめん。やっぱり・・・痛かったよね?」
「えっ、なにが?」
健児はポカ~ンとした表情で私を見ています。
「えっと、何がって、手首さすってるじゃない?」
それでも健児は首をかしげています。
私の問いが届いていないのか、それとも何をしているのか分かっていないのか、
「へっ?大丈夫。大丈夫、大丈夫。痛いわけじゃないから」
意味不明な事をいって笑って見せる姿に、もう一度尋ねてみました。
「ほんと、だいじょうぶ?」と、声をかけた序でに
気づかせあげようと、左手を見て貰うように視線を送ってみる。
「えっ、あっ。」どうやら、やっと気づいて貰えたようだ。
「べ、べつに、痛いわけじゃないんだよ。ただ、ちょっと余韻を・・・」
「えっ、なに?最後の方が聞き取れなかったんだけど?」
って、聞いたのは、冗談ではなく、
本当に語尾がゴニョゴニョで、聞こえなかったんです。
「んにゃ、大丈夫。大丈夫だから、安心して、でも、心配してくれてありがとう」
そういって健児は、とても素晴らしい笑顔・・・だったら、良かったんだけどねぇ、
なんかね、もう、それは気持ち悪いくらいにニヤニヤしていたから、
逆に私も微笑むことが出来たんだ。
こんな些細な遣り取りですら面白いと思ったし、
可笑しいと本当に思うことが出来ていた。
なにより楽しい。そして、
やっぱり健児と一緒に居るからということが1番大きいかな。
なんて、思ったりしていたら、
こんな事を言われてしまった。
「ねぇ、なんか楽しそうだね」
あたりまえじゃん。と思いながら、
ホッペタの筋肉は正直もので、片方が引き攣ること無く、
均等に左右に引っ張られていたから、自然な感じに膨らんで、
笑えていたんだと思う。
「健児は楽しくない?」
「えっ、なにそれ?」
「なにそれって、なにそれ?」
あれ?おかしいぞ、会話が成り立たないぞ?
わたし何か変な事いったかな?
「いや、何時もなら否定したり、ボケたりするじゃない?」
「それじゃ、まるで私がひねくれ者みたいじゃない・・・」
「えっ、どうしたの?えっと、ごめん」
「えっ、なんで、べつに、怒ってなんかないよ?」
「そう、そしたら良いんだけど・・・」
このままじゃ駄目だよ。多分悪いのは私の方だし・・・。
何時もなら何でも無い言葉なのに、
突き刺さって落ち込んでしまっている自分に腹が立つ。
なにより健児に心配させた事が1番腹が立つ!
「ごめん、ごめんなさい。わたし折角の空気を台無しにしちゃったよね」
「ううん、違うって、変な事を言った僕の方が、悪いんだよ。ごめんなさい」
「ううん、こっちこそ、ごめんなさい・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんか、今日の私たちって、謝ってばっかだよね」
「ぷっ、ほんとうだね」
私たちの周りに険悪な空気が消え去ると、
朗らかな空気が回りゆっくりと取り囲んでいるように感じた。
とても暖かな空気が私たちを包み込んでくれているようだ。
そんな漂うかのような空気のタイミングに合わせるように健児が口を開く、
「ぶっちゃけて言うけどさ、本当は余り慣れてなくて・・・いろいろ、ごめん」
そう言われて、私は拝まれていた。
「ちょっと、やめてよ。わたし神様とかじゃないから」
「ひどっ、真剣に話してるのに、笑わせるとかずるいぞ」
「もう、わかったよ、じゃぁ聞くけどぁ、慣れてないって、な、に、に?」
どうやら、私は、まだ自分を変えることは出来ないらしい。
でも、自分を取り戻すことに成功したのかも知れない。
だから意味深な笑みを浮かべて健児を見つめる事が出来ているのだと思う。
「揚げ足ばっかり取って・・・・・・」
「な、に、に?」
「もう、わかったよ・・・答えれば良いんでしょ!」
健児は瞳を右側によせて考えているみたいで、
「さっきの状況とかさ、どう対応すればとか、どうしたら楽しんで貰えるとかに、
慣れてないというか・・・」
「うん、うん、で?」
どうやら私は、最上級の馬鹿なんだと改めて思い知らされた。
で?って、続けちゃったよ。これ以上困らせてどうするんだよ。
でもね、これ、本音じゃないんだよ。
だからといって、冗談だよ。なんて、素直な可愛らしい女の子のように
微笑んだり出来ないんだ。情けないよね、ごめんね健児。
えっと、ぶっちゃけるけど、本当は、で?なんて聞いちゃいけない人なんだよ私は。
だって、私も健児と同じなんだから・・・・・・。
そしたら、このワクワクした気持ちは何だろう。
何故、ホッペタは緩みっぱなしなんだろう。
だから、私は急いで噛みしめる。
痕が残らない程度に、唇を噛みしめようとしたけど出来なかった。
そればかりか、白い歯が零れそうになっていたから。
健児の困惑した表情を見ていると、無情にも左右へと引っ張られて行く頬と、
次第に細くなって行く瞳に映り込むから、私は笑顔になってしまう。
でもその笑顔が、微笑みに変わるには、そんなに時間はかからなかった。
タコさんになっていたのですよ。
少し変な日本語になっているのは
危うく吹き出しそうになっちゃったからで、
健児は良い答えを導き出そうとして必死なのかな?
相変わらず瞳は右上を見ているが、目尻は下がっている。
なぜだか分からないけど唇が尖っている。
こんな表情を浮かべた人が間近に居て、
笑うなって言うほうが無理でしょうよ。
私は伏し目がちになったしまった。違う意味で・・・。
でも、もう少しだけ、もう少しだけ、
レアな健児を見ていたかった気持ちと、
流石に・・・じゃなくて、流石の私でも少し心が痛くなってきたので、
「大丈夫、安心して。私も苦手だから」
私は胸を張って答えてみせた。
少し驚いたような表情の健児は、次第に浮かんでくる微笑みから、
移行するかのように、ニヤニヤ顔を見せるから、
キモイんだよ。という気持ちと、
その笑顔というか、そのニヤケ顔も悪くはないかも・・・。
なんて思っている自分の気持ちには噓はつけそうもないので視線を外した。
そして、別にかゆくもない耳元を擦りながら窓からの景色に目を移す。
でも、隣からは、好い加減にして欲しいと思えるような嬉しそうな声で、
「ほんとに、ほんと?」
「そう、そう。ほんとに、ほんと・・・」
「そっか、うれしい」
おい健児よ、何をそんなに喜んでいるのだよ。
しかも安心したぁ・・・なんて口調なのはどうなのよ?
しかも喜んでるでしょ?それ男の子として、良いわけ?
まぁ良いわ、今回は無かったことにしといて上げるわ。
えっ、噓、寒いぞ!
ブルブル。携帯のバイブ機能のような震えが体を襲った。
病気じゃ無い感じってのは分かるんだけど、なんか凄い寒気を感じたというか、
それよりも、誰かの視線を感じていた。もしかして、知り合いが乗ってたりする?
それは嫌だな。こんな姿の私を見られるなんて・・・。
一応女の子なので、なるべく気づかれないように、辺りを見回して確認してみる。
すぐに見つける事が出来た。しかも思いがけない場所から見られていたから
ちょっと驚かされた。知り合いとは程遠い感じの幼稚園児くらいの女の子が、
前方の座席に座って・・・無くて、
背もたれに両肘を乗せ、その上にアゴを乗せている姿だった。
分かりやすく説明すると、後ろを向いて健児の事を見つめてというよりかは、
じっと見つめていた。
その瞳は、少し羨ましそうな表情を浮かんでいるように思えた。
だけど、視線が私に移ると驚いた表情に変わる。
それはそうだと思う。私と目が合ったから。
でも、そう思ったのは一瞬だけで、私の思っていたより素晴らしい感性の持ち主らしく、
「ニタァ・・・・・・」と、意味深に微笑む姿が瞳に飛び込んできた。
きっと何か言うつもりだろう・・・。
一応、念のために何の質問にでも対応できるように、
答えを思い浮かべていると、質問が飛んできて。
「ねぇねぇ、おねぇさんたちって、つきあってるの?」
ほらきた、ありきたりの質問。だから私も一応女の子なんで、
男をたてるというか、健児にも同意を求めるように、
幼稚園児から視線を健児の方に移し、
「うん、そうだよ、つきあってんだよ」なんて口にしてから、
視線を幼稚園児に戻した。
「ふーーん、そうなんだ」と、唇を尖らせて首を傾げていた。
おねぇさんが羨ましいだろ?
ほれほれ、その口から、おねぇさんに質問を投げかけなさい。
なんなりと答えてあげちゃうよ。
「じゃぁさぁ、ちゅーは?」
「・・・・・・・・・・・・」
「あっれ、きゅうに黙ってどうしたの?」
「べつに・・・・・・どうもしてないわよ」
「もしかして、おねぁさんたちって、ま、だ、し、て、な、い、の?」
ぐぐぐっ・・・このガキ・・・おこちゃまのくせに!
「そ、そんなわけ無いし」
「って、おい、なに言ってんだよ!」
「もう、健児うっさい、引っ込んでなさい!」
「えぇ、おねぇさんたち、なんで喧嘩してんの?
なんか付き合ってるってのも、怪しく感じちゃうなぁ」
「付き合ってますし、チューもしてます!」
私の何かが切れちゃったよ。プッツンしちゃいましたよ。
「ほんとかなぁ、あやしいな?」
「ほんとうだよ、本当に決まってるじゃない」
「じゃぁ、証拠みせてよ」
「はい?」
何いってんだ、証拠を見せろだと?ガキんちょのくせに・・・。
「聞こえなかったかな? ここで、チューしてみせてよ」
「ゲホ、ゲホゲホゲホゴボゴホグホ!」
私の隣で、健児が分かりやすく咳き込んだと思ったら、
つづけざまに咽せる姿に、味方は存在しないことに気づく。
「そんなに、見たいのなら見せてあげても良いけど?」
幼稚園児は驚いた表情を見せ、続けざまに何か口に出そうとすると、
それよりも先に隣から凄い勢いで乱入してきた。
「お、おい。それには僕も加わっているのかな?」
「何言ってるのよ、当たり前じゃない」
「ちょっと待て、ちょっと待って、落ち着いてって」
「なに? 何をそんなに興奮してるのよ、チューくらい簡単でしょうが」
「簡単? いや、いや、その前にさ、周りをみてごらんよ、
今は公共の乗り物に乗ってるんだよ」
「だからなに?知ってるよ、公共の乗り物って言っても、
たかがバスじゃない。バスの中でチューして罰せられるの?
別に良いんじゃない? へるもんじゃないんだし」
「いや、たぶん経るから・・・じゃなくて、えっと、えっと、
あぁ、もう、なんだか、訳が分からなくなってきたから、
手短と言うか、ぶっちゃけ、そう僕はぶっちゃけますけど!
ちょっと耳貸して・・・」
「もう、大きな声ではっきり言いなさいよ」
「僕の初チューが、バスの中なんて嫌だから」
「ひゃっ・・・・・・」
ボソボソ小さな声で喋るし、耳の中に息がふきかかり、
こそばいかんじと、何とも言えない感じに襲われた。
やば・・・火照ってきた・・・いや、熱が出てきたかもぉ・・・
37.3分くらいあるかも、なんか、ぼぉ・・・っとしてきたし、
おっとっ、危ない危ない。危うくふらつきそうになったから
座席に体を預けるように腰掛けた。
「ハナ、ハナ?大丈夫?」
「うん、だいひょうぶ」
「しっかりしなよ、ろれつが回ってないよ」
「おねぇさん、初心だね」
「んぐっ、幼稚園児に初心とか言われちゃった・・・うふふ・・・てへへっ、
って、そこのガキんちょ、うっさいわい!」
「うはっ、おねぇさん、こわ!」
「ごめんね、おねぇさん疲れちゃったみたいだから」
健児は、ガキんちょに、何かを手渡していた。
「おにぃさん、ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
くそぉ・・・ガキんちょめ、健児に色目など使いおってからに・・・
ぬぐぐぐっ・・・。
「・・・ハナ・・・怖い顔になってるから」
あぁ・・・熱が冷めていく・・・そのような冷静な口調で言われると・・・
あかん、悪寒がしてきたかもぉ・・・
34.7分くらいに下がっちゃったかも・・・しかも、何故か泣いちゃいそう。
「ハナ、ハナ? 本当、大丈夫?」
「うん、だいじょうび」
「ちょっと、熱でもあるんじゃない?」
「うわっ、よせ!」わたしは額に忍び寄る掌を避けるように飛び起きた。
「なんだ、おねぇさん達って、やっぱり仲良さそうですよ」
「ありがとう、そう見えたのなら嬉しいよ」
健児よ、なんて素敵な笑顔で私のことを見つめるんだよ。
君は私の事をどうしたいのだよ。
ピンポンと、バスといえば、おなじみのこの電子音。そして後に続くは、
車掌さんのアナウンス、
「じゃぁ、わたし此処で降りますから・・・おにぃさん飴ありがとうございました」
と席を立ちなが私にたいして、
「それから、おねぇさん・・・」
バスが止まってから席をお立ち下さい。とのアナウンスにより、
私への言葉は途中で宙ぶらりんになってしまい寂しかった。
そして、居づらそうで恥ずかしげな表情を浮かべる姿を目にして、
最近の幼稚園児って凄いなぁと思ってしまった。
きょろきょろと辺りを見渡しながら、
健児にたいしてもう一度頭を下げると、
返す刀じゃないけれど、
お辞儀終わりには素敵なスマイルを見せつけていた。
序でに、私に視線を移すと、幼稚園生らしからぬ仕草というか、
卑猥の二文字が見え隠れするような、そんな含み笑いを浮かべながら一言、
「おねぇさん、がんばってくださいね」なんて台詞を残して去っていったから、
前言撤回させて貰います。
「ほんと、ませたガキんちょだよ。態度も口も悪すぎだし、親の顔が見てみたいって」
「まぁまぁ、相手は幼稚園児なんだしさ、落ち着いてよ」
「なに、さっきからガキんちょの肩ばっかりもって、はっ。もしかして、
あんたって、ロリコン?」
「ちょっ、誤解せんといてぇ、ロリコンちゃうし」
「うわっ、えせ関西弁って・・・チエちゃんに誤ったほうがええで」
「チエちゃん、ごめんなさい。って、チエちゃんって誰?」
「なんや、あんた、チエちゃん知らんの?」
「えっ、あっ、はい。すいません」
「まぁ、良いけど」
「うげっ、スルーした。ちょっと、それは酷すぎるんじゃ」
「さぁ、知らない。でも、まぁ、話を戻すんだけど、
あの幼稚園児も、なかなかどうして、結構楽しませてくれたよね、
あぁ、でも、あの程度の攻撃くらいなら片手どころか、
人差し指だけで封じる事が可能なんだけどね」
「・・・うそ、うそだね、チエちゃんに謝って欲しいくらいだよ。
幼稚園児の攻撃に対して、劣勢じゃなかったっけ?」
「・・・・・な、なにを!」
「しかも、残りヒットポイントなんて僅かで、空前の灯火、もしくは、
もう少しで、黒い箱に入ったまま、教会へまっしぐらのような感じじゃなかったっけ?」
「うぐぐぐっ、うろ、うろ、狼狽えていた人には言われたくないって!」
「ぐはっ、痛てぇ、なにも会心の一撃を食らわす事ないのに・・・痛ぇよ~心が痛ぇよ~」
「ふ~ん、自業自得。私を虐めた罰だよ。そしてホルモン屋に謝れ!」
そんなこんなで、バスは繁華街を通り抜け、
閑静な住宅街を横目に見ながら進んでいく。
次第にバスが進んでいく方向には、建物らしき物が徐々に減っていき、
どうやら、やっと、待ち焦がれた状況が近づいてきてワクワクしてきていた。
バスは、小さいけど一応山と言える場所へ向けて走って行く。
あの時は車だったから覚えていないのか、それとも時間が経って、
道が新しく出来たのか、もしかして私が変わってしまったのかな?
なんて思いながら走って行くバスの中で、色んな事を考えてしまう。
山間を走るのって、都会が好きな人にとっては殺風景なんだろうな。
でも私はこんな風に緑に囲まれた風景を見るのが大好きなので、
車窓からの景色なら何時間眺めても全然飽きることはない。
だから、同じ喜びを分かち合おうと、健児の様子を伺ってみると、
寂しそうな表情を浮かべ、なんとなく遠くを見ているだけのような状態で、
そんな姿を見てるだけで可哀想になってきて声をかけることにした。
「どうしたの、浮かない顔してるけど」
「いやぁ、何か殺風景だなぁと思って」
「そっか、まぁ、ほら、たまには良いじゃない。
普段目にする事ってあまり無いんだから、たまには景色を楽しむっていうのも、
悪くないんじゃないかな?」
「そ、そうだね、たまには落ち着いて、景色を眺めるのも良い物なのかも知れないね」
to be continued...




