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じゃじゃ馬姫と未来(さき)を憂う老人2


 「……えっと、それはどっちのことを言ってるのかしら?」

 「勿論両方じゃ」

 シリウスが即答すると、エリスは王座の方へふらふらっと歩いていき、そこにどかっと腰掛けた。

 「……そう。でもどうしてこの時期に“彼等”は動き始めたのかしら?」

 「おそらく頃合いだと思ったのじゃろう。事実、“彼等”は幾人か有能な人材を引き入れたようじゃし、大陸中に根を張った。

 そして何より“彼等”には――――」

 「背後に強力な支持者がいる……違うかしら?」

 「そのとうりじゃ」

 シリウスが力強く首肯する。

  エリスは自分の黒髪を乱暴にかきあげた。

 「はあ、まったく。あんたが以前話してくれた話の内容は非現実的すぎて、半分聞き流していたんだけどね。でもそれがもし本当のことだったとしたら、もうすぐとんでもないことが起きるわよ。……ひょっとして、それもまた“彼等”の狙いなのかしら?」

 エリスの鋭い光を宿した視線と共に、ジェイルやカイルの表情も険しいものになる。

 「もちろんそのとうりじゃよ。だからこそ我々がなんとしてでも“彼等”を食い止めなければならない。そのためにこの間幾つかの確認事項と頼み事をしたんじゃが……あれはいったいどうなったんじゃ?」

 シリウスがエリスに尋ねると、勝気で尊大なこの女性にしては珍しく、自分の足元に視線を落とした。

 「確認事項のほうは……本当に信じられないけど事実だったわ。でもあんたが私に頼んでいった頼み事のほうはだめよ。この二人を派遣しても何も無かったし、他に全くと言っていいほど手がかりが手に入らなかったもの」

 シリウスは白い髭だらけの顎に手をやる。

 「やはりそうだったか……いやはやご協力を感謝しよう」

 「例には及ばないわ。むしろ、私があんたにお礼をしてもいいくらいよ。

 ……ほんとに、信じられないわ」

 「例えそれがどんなに受け入れがたい事実だったとしても、それが真実であるということには変わりはない。つまり、それがあなたにとっての真実なんじゃ」

 暗い雰囲気の漂うエリスに、シリウスはそう声をかける。

 「分かってるわ。つまり私は天に選ばれたっていうわけね。……一応確認の為に聞いておくけど、私以外にもそういった人はいるのかしら?」

 「はて? それがどうかはわしにも分からんのう。世界は無駄に広いのでな。他にも目覚めた人間がいるやもしれん」

 シリウスが首を傾げると、エリスは思いっきり顔をしかめた。

 外見だけはなかなかの美人であるエリスだが、強面のジェイルよりも怖い顔になっているのはなぜだろうか?

 「……あんた、この私に話していないことがまだあるんじゃないの?」

 「疑り深いのう。わしは全てを達観している全知全能の神などではない。知らないことがあって当然だとは思わんかね」

 シリウスは潔白だと言わんばかりに両手を大きく広げてみせる。

 そのシリウスに対して、エリスはじとっとした視線を向けた。

 「存在そのものがとんでもなく怪しいのよあんたは。あんな情報を持っている人間なんて普通はいないし……。

 そういえば、あんたはどうやってその情報を手に入れたのよ?」

 「それは秘密じゃよ」

 シリウスが穏やかに微笑む。エリスの眉間にさらに皺が寄った。

 「……つまり、あんたはこの私に話せないことがまだあるわけね」

 「いや。秘密の漏えいを恐れていると認識してもらいたいのう」

 「それは我々を信用していないということか? もしそうだとしたらそれは我々ウィンディアナへの侮辱ですぞ!」

 すると今まで険しい表情でふたりの話を聞いていたジェイルが、憤慨してずかずかとシリウスに詰め寄っていく。

 「……秘密をうっかり漏らしてしまうほど、私達は間抜けではありません。考えを改めてもらいたい」

 石像のように無表情のカイルも内心では怒っているのか、シリウスにそう訴えた。

 そして険悪な空気がこの四人のいる王の広間に流れ始め、このまま一悶着が起きるのではないかという時に、エリスが立ち上がって憤る二人を制した。

 「やめなさい二人共。こいつは何もそこまで言ってはいないわ。それにこいつとは長い間手を組むかもしれないしね。仲間同士の争いなんて無益だし、何より時間の無駄よ」

 「し、しかし……国を侮辱されておいそれと引き下がるわけには……」

 「……同じく」

 しかしふたりはエリスに止められてもまだ不満なのか、少し憎憎しげにシリウスを睨みつける。

 「しつこいのよあんた達! 私はしつこい男と、臭い男と、偉そうに椅子でふんぞり返っている男が嫌いなの!

 ていうかあんた達この私に散々侮辱しておきながら、国が侮辱されたと思ったときだけ怒るっていったいどういう了見してんのよ! あんまり舐めたことをしていると、このホールごとぶっ飛ばして消し炭にしてやるわよ!」

 「……それはどうかおやめ下さいエリス様。あなたが癇癪を起こされて壊してしまった城の修繕費は半端な額ではありません。これ以上、城の修繕費に国の税金を使うわけにはいきませんから」

 「なに他人事のように言ってんのよカイル! あんた達が私を怒らせるようなことを言うから、可哀想な私は城の壁に八つ当たりをするんじゃない!」

 「……いえ、本当に可哀想なのは城の壁かと」

 ジェイルはシリウスを睨みつけるのを止めると、哀れむような視線を広間の石壁に向ける。

 そんなジェイルに対して、普通の男なら思わず見惚れてしまいそうな、そんな可愛げのある笑顔をエリスは浮かべると、

 「ジェーイル♪ あんた拷問室行き決定ね。

 ……今夜はぜってぇ寝かせねぇからなっ!」

 地を這う亡者のような、低くどす黒い声音で死刑宣告。されたジェイルの方は冷や汗を滝のように流しながら、極寒の大地に放り出されたかのようにガチガチと身を振るわせ始めた。


 シリウスはまたもや深いため息を一つつくと、

 「やれやれ。とりあえずわしの情報源については、時期を見てあなた方に明かそうとは思っている。今そうしないのは未来さきの心配が色々とあるからで、決してあなた方を信用していないというわけではないんじゃ。どうかそこのところを御理解して頂きたい」

 シリウスがそう言うと、エリスは口をへの字に曲げながらシリウスの方を振り返った。

 「ふんっ。いちいち言わなくても分かっているわよそんなこと。その代わり、もしあんたの落ち度でその情報源があっちに漏れたりでもしたら、今度はあんたを拷問室に送って拷問してやるわ」

 「それは是非とも遠慮しておきたいのう。萎びた梨のようなこの体では、到底拷問に耐え切る事は出来んからの。

 それでは今日はこれでお暇させてもらおう。市長の仕事というのは存外忙しいものなのでな」

 シリウスは気さくに手を上げてみせる。

 「そう。それならこれから特に忙しくなりそうね」

 エリスがシリウスを見て、含みのある笑みを浮かべる。

 「そのとうりなんじゃ。それでは次は魔法都市連合の会合で会おう。さらばじゃ」

 シリウスも含みのある笑顔をにっこりと浮かべて灰色のローブを翻すと、エリスに背を向けて豪奢な長い絨毯の上をせかせかと歩いていく。

 そしてシリウスが広間の大きな扉に手をかけようとしたところで、エリスが後ろから声をかけてきた。






「アルトは元気かしら?」


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