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嵐の前の……


 ――――某国、某所。


 何人も立ち寄らない深い深い森の中。森の木々や雑草が壁となり、周囲には濃密な霧が腰を下ろしていて前をはっきりと捉えることができないほど真っ白である。

 そんな森の中を歳の頃二十六~七の痩身の男が悠然と歩いていく。

 全身をゆったりとした独特の民族衣装で身を包み、腰には凝った造りの鞘入りの長剣。頭髪はきらめく銀髪で、目は褐色の瞳に切れ長の鋭い目をしていて、鼻は高く、顔形は彫像の様に整っている。

 女が見ればそれはそれは、ため息が溢れんばかりの容姿であったこの男だが、曰く言いがたい雰囲気をかもし出していた。

 つまりこの男は不吉な気配を全身から放っているのである。

 その異様さたるや、まるで死神がその背後に控えているかのようであった。

 男は黙々と森の中を歩いていく。


 ギャア! ギャア!


 しばらくすると急に辺りがうるさくなり始めて、男は動かしていた足を止めた。 

 男の目の前にはおよそ百余りもの魔物達が、獲物を待っていましたと言わんばかりに待ち構えていたのである。

 普通の魔法剣士なら一目散に逃げ出したくなるような光景だ。

 しかしこの男は違った。

 「くくくっ。そんなに早死にしてぇのかてめーら」

 男はその光景を見て怖気づくような素振りは一切見せず、猛禽類のような不敵な笑みを浮かべる。

 そしてその腰に差してある長刀にゆっくりと手を伸ばしていくと、それを合図に魔物達が一斉にこの男に襲いかかっていった――――


 男はふと後ろを振り返った。

 そこには百ほどもいた魔物達の、ほとんど原型すら留めていない変わり果てた姿が。

 しかしこれだけのことをしたにもかかわらず、この男はかすり傷はおろか、その独特な衣裳に汚れのひとつすらもついてはいなかった。

 驚異的とはまさにこのことである。

 男は手に持っていた血の滴る長刀を鞘に収めずに抜いたまま、森の奥地へと進んでいった――――。


 「……そろそろか」

 それからまたしばらく歩いて、男がぼそりと呟く。

 その次の瞬間、男のいた所が突如燃え盛る業火に包まれてしまった。

 荒れ狂う火柱が天高く昇り、男のいた場所は一瞬で焦土と化してしまう。

 「おいおい。随分とハッスルしてんじゃねぇか」

 しかし炎が次第に収まっていくと、もうもうと立ち昇る黒煙の中から男が姿を現した。そしてあきれたことにあれだけの炎に身を包まれてもこの男は無傷だった。

 男はその鋭い目で炎を生み出した元凶を睨みつける。

 男が睨みつけた相手――――それは魔獣だった。

 体長はおよそ八メートル。第一形態の証である黄色い目に爬虫類の頭。その甲殻は赤黒く頑丈そうで、並大抵の剣では傷一つつけられそうにない。四肢は周囲の木の幹よりも太く頑丈そうで、そのどっぷりとした大きな体躯はトカゲに似ていた。

 「やっぱり第一形態か……まあ丁度いいか」

 男は少し失望したような声を発した後、にやりと不吉な笑みを浮かべた。

 そして自身の長刀に向かって一言二言何か呟く。すると突如、禍々しいと形容するにふさわしい赤黒いオーラがその長刀を覆った。そうしてその長刀を男が構えると、ふっとその姿が雲のように消失してしまった。

 突然獲物の姿が自分の目の前から消えてしまったので魔獣は、どこにいったんだあの野郎! といった具合できょろきょろと首を動かす。

 「こっちだトカゲ野郎」

 なんと男はいつのまにか魔獣の背中に立っていた。

 「さて、そろそろ頼まれた仕事のほうを始めるとするか」

 男は不気味に笑いながらそう言うと、禍々しいオーラに包まれた長刀を振り上げる。そしてそれを勢いよく魔獣に突き刺した。

 噴水のような鮮血が宙を飛び男の衣装を血で湿らせる。

 そして魔獣が痛みでのた打ち回り始めたのとほぼ同時に、足下の地面から光の足を伸ばすようにして巨大な魔法陣が出現した。

 それが完成すると男は魔獣の背からさっと飛び退く。


 魔獣は巨大魔法陣が発した大きな光に包まれていった……。

 

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