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過去を捨てた天使の戦い 2

 

 「……さあ約束どおり。次はおまえ達の番だ。

 僕は今日まで一度も会ったことがなかったけど、おまえ達は生徒会のメンバーなんだろう?

 僕にやられてなけなしの名誉を傷つけたくなかったら、さっさとセリナを解放するんだ」

 アルトがそう言うと、ネイグトとギルトは我に返った。そうして顔を怒りで赤くしていく。

 「ふざけんじゃねぇぞ! このクソ餓鬼! 俺達は生徒会メンバーなんだぞ! 普通組のおまえなんかとは格が違うんだ!」

 「珍しく意見が合うじゃないかネイグト。普通組の、ましてやこんな弱そうな奴に負けたんじゃ僕の面子にかかわる。これ以上僕は不名誉で自分を汚したくないんだよ。

 ……ネイグト行くぞ! 僕ら二人でこいつと戦う。いつまでも舐められたままでいられるか!」

 ふたりは怒り狂った声音でそう叫ぶと、ネイグトは紅玉石の広刃剣に、ギルトは魔粒子の特殊変化の威力と術効率が増す藍玉石のレイピアに魔粒子を流した。

 魔導石は魔粒子を感じ取り、それぞれの色の輝きを帯び始める。

 「怪我をしないうちにやめたほうがいいと思うけど……と言いたいところだけど、君たちみたいな、集団で女の子を襲うような人間の屑にこれ以上の気遣いは無用だね。

 それこそ君たちの相手は同じ人間の屑の、この僕で十分だ。

 ……来い。二人まとめて相手をしてやる」

 そう宣言すると、アルトは光り輝く白銀のブレードを正眼の位置に構えた。

 「はっ! 上等だ! 後で泣いて謝っても、おめぇは絶対に許さねぇ。ぶち殺してやるっ!」

 「そのとうりだ。どうやらこいつにはきついお仕置きが必要みたいだね」

 ネイグトやギルトも武器を構えた。

 直後先程の男達とは比べ物にならないほどの殺気と闘気が倉庫内を満たしていくのをアルトは感じた。しかしそれに臆することなく真っ向から二人を見据える。


 ――――しばしの沈黙そして静寂が、まるで不可視のベールの如く倉庫内を包み込む。

 やがて三人の影が静から動へ、一斉に動き始めた――――。


 ギルトは早口で詠唱を唱え始め、ネイグトは駆け出しながら小声で一言、二言詠唱を唱えると、橙色の炎を紅玉石の広刃剣に纏わせる。

 「おらぁぁぁぁぁ!」

 そして残像が出来上がるほどの速さでネイグトに突っ込んでくるアルトを狙って、横なぎに剣をおもいっきり振るった。

 属性エネルギーの炎を纏った刃が宙に橙色の軌跡を残し、アルトの胴を薙ぎはらわんとする。

 しかしアルトは魔粒子でできた光のブレードをくんっと逆手に持つことで、それを気安く防いでみせた。

 「ちっ、この野郎」

 ネイグトは一歩踏み込んで、なおもアルトに切りかかる。

 しかしアルトは機敏かつ流麗な動きでネイグトの剣撃を横に避けると、ぶんっと体を反転させる。そのまま遠心力を十分に効かせた回し蹴りを、ネイグトのがら空きの胴体にお見舞いした。

 「―――――ぐっ!」

 アルトの回し蹴りが綺麗にきまろうとしたその時に、咄嗟に身をよじらせたことと、ほぼ反射的に空いていたほうの手を動かしたのが幸いして、なんとかアルトの蹴りをネイグトは防いでみせた。

 やはりさすがは生徒会メンバーである。他の男たちのようにはいかなかった。

 だがネイグトは完全にはアルトの蹴りの威力を殺す事ができず、吹き飛ばされて、倉庫内の地面をごろごろと転がっていった。

 アルトはネイグトに追いすがる。しかしちょっとした気配を感じて咄嗟にその足を止めた。そして大きく後ろに跳ぶ。その瞬間アルトが今までいたところに巨大な氷の氷柱が上から落っこちてきた。

 「ちっ、よけたか……」

 アルトよりも少し距離を置いた位置で、ギルトがちっとわざとらしく舌打ちをした。今のはギルトが放った魔法だったのである。

 ギルトが再び詠唱に入ると、アルトの前面に落ちた氷の氷柱が突如斜めにずれ始める。瞬間その氷が橙色の炎に包まれて、ジュウジュウと音を立てて溶け始めると、その溶けた氷を砕いてネイグトが飛び出してきた。

 「舐めんじゃねぇぞ! クソ餓鬼ぃぃぃ!」

 ネイグトは属性エネルギーを解放しながら、燃え盛る広刃剣を大上段に構えて勢いよく振り下ろす。アルトも白銀に光り輝く長剣を真横に振り払う。


 ――――ふたりの剣が真っ向からぶつかっていった。


 暴力的な炎の剣と、威力をもった魔粒子の刃が火花を散らしながらぶつかり合い、薄暗い倉庫内を白い閃光で照らし出す。

 「おらぁ! さっさとくたばりやがれ!」

 ネイグトはアルトと切り結んだ状態から、どんどん属性エネルギーを送り込んでアルトを押し返そうとする。

 しかしアルトは細く華奢な体型をしているにもかかわらず、その体は重い銅像のようにぴくりともしなかった。

 「……ちっ! くそ! どうなっているんだこいつ!」

 アルトの予想外の強さに、だんだんと焦燥感がその顔に滲み出てくるネイグト。対するアルトは生徒会メンバーをふたり同時に相手にしているにも関わらず、涼しい顔のまま淡々と告げる。

 「どうした? この程度なのか生徒会のメンバーは。せっかくの属性変化技を台無しにしているよ」

 アルトの挑発に、ネイグトの怒りは頂点に達した。

 「うっせぇ!! てめぇなんかさっさとこの技でくたばりやがれ!!」

 ネイグトは手を引いてアルトから大きく距離を離すと、属性エネルギーを一気に解放。その剣身を一際大きな炎が渦巻いていく。そしてその紅玉石の広刃剣を倉庫の地面に叩き付けた。

 するとそこから炎の塊が噴出し、やがては広がって大きな炎の壁となる。

 そしてさきほどのアルトの魔法で、倉庫内に散らばった木箱の残骸をどんどん飲み込みながら、揺らめく炎の壁はアルトに迫る。

 魔法は使用者の精神状態に影響されやすい。つまりそれだけネイグトは怒り心頭だったのである。

 しかしそんな状態でも、アルトは至極落ち着き払っていた。

 アルトはブレード部分に溜まる魔粒子を活性化。それを無造作に抜き払う。

 光り輝く長剣が大きな炎の壁に触れると、その瞬間糸のように細かな白銀の閃光が、幾筋にも渡ってばっと弾けた。

 ネイグトの放った炎の壁は縦にぱっくりと割れてしまい、アルトを避けてしまった。

 ネイグトは驚愕の眼差しでアルトを凝視する。

 「な……んだと。俺の魔法が、こんな簡単に……てめぇ、いったい何者なんだ!」

 「……」

 しかしアルトは返答の代わりに白銀のブレードを八双の位置に構える。そして一気にネイグトに向かって飛び出していった。

 アルトの黒影が歪み始め、その痩身が大きくぶれ始める。

 「……くっ!!」

 ネイグトは慌てて炎を纏った広刃剣を突き出した。アルトも大きく長剣を振るう。

 

 ――――その瞬間両者の影は交錯し、一直線に白銀と橙の残光を虚空に残して、両者の位置は反転した。

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