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囚われの少女

  

 鼻につくかび臭さと肌をなでる寒さを感じて、セリナはゆるりと目を開いた。

 「……んんっ。……ここは一体?」

 そうして覚醒しきっていない頭で、きょろきょろと辺りを見回した。

 天井に取り付けられた薄暗い照明に、無秩序に置かれた茶色い木箱。セリナの視界の遥か正面には大きな金属製の扉が見える。どうやらここは、どこかの倉庫らしい。

 セリナがぼんやりとそれらを眺めていると、ふいに横から野太い声がした。


 「ようやくお目覚めか?」

  

 その声がした方に視線を向ける。そしてセリナは声を荒げた。

 「―――――――っ!! ネイグトとギルト!! あんたたち一体っ!?」

 目の前でにやにやといやらしい笑みを浮かべているネイグトと、余裕の表情でこちらを見下すように眺めているギルトを見て、咄嗟に飛び掛ろうとしたセリナ。

 しかし何かに体を引っ張られるような感覚を覚えて、それを果たす事は敵わなかった。

 セリナは今の自分の状況を確認してみた。

 自分の手が変わった形の錠で拘束されていて、両手を挙げさせられた状態にされている。自分の髪や制服が濡れている事から、ここに運び込まれてまだそんなに時間が経っていないらしい。

 セリナはとりあえずガチャガチャと乱暴に手を動かして、自分を拘束している変わった形の錠を外そうと試みた。

 しかし当然のことながらびくともしない。

 そんなセリナの行動を見て、ギルトがやれやれと言わんばかりに補足説明をした。

 「何をやっても無駄だよ。その錠は特殊な魔法が掛けられている魔装具でね。拘束した者の、術式の力を抑えるんだ。だから無詠唱魔法も使えない。

 裏ルートで三十万クルもした特注品だったから、手に入れるのに苦労したんだよ」

 「何が裏ルートよ! 馬鹿じゃないの!

 ……っていうか、あんたたちいつの間に仲が良くなったのかしら。

 やっぱり最低な奴ら同士、息が合ったのね」

 「そうだねぇ……。

 確かに僕とネイグトは仲が悪いよ。

 正直、ネイグトと一緒にいるだけで僕は吐き気がしてくるし、ネイグトもそう思っている。

 でも、それでも僕らは、お互いの目的を果たすために今までのいさかいを水に流して、手を組むことにしたのさ」

 「お互いの目的?」

 セリナが聞き返すと、ギルトがぱちんと手を鳴らした。

 するとその音を合図に茶色い木箱の影から男たちがぞろぞろと出るわ出るわ、その数実に十六もいた。

 しかもその十六人のうちのほとんどが選抜組の生徒で構成されていて、中には見知った顔の人間もいるではないか。

 

 セリナはなんだか少しだけ怖くなった。

 そりゃセリナだって強いだなんだかんだ言われても、一人の女の子である。

 こんな無防備な状態でこれだけの数の男たちと対面して、恐怖を感じないわけがなかった。

 「あ……あなたたちどうしてこんなとこにいるのよ。一体何を考えて――――」

 しかしセリナがそう尋ねるのが聞こえていないのか、男達は興奮したようにざわざわと話し始める。

 「おい、俺らマジ運がいいじゃん! あの高嶺の花だったセリナさんが、今はこんなに近くにいるぞ!」

 「ギ、ギルトさん、ネイグトさん。いったい……なんてお礼していいやら。

 お、俺達、本当にあのセリナさんとやってもいいんですか?」

 「ああいいぜ。とりあえず俺が最初にやってから順番にな」

 「「「おお―――っ!!」」」

 男たちが大袈裟に手を叩き合って喜びを分かちあう中、セリナはこれから自分がされることをようやく理解した。

 自分を熱に浮かされたように見る男たちへの、嫌悪感と恐怖心がその顔に張り付く。

 そんなセリナの顔を見て、ネイグトが勝ち誇った笑みを浮かべた。

 「もう分かっただろうセリナ。俺はお前をやるために、ギルトは一年生の時のお前にコテンパンにされた時の仕返しのために、俺達は手を組んだのさ。

 ……俺達は随分前からおまえをやるための計画を練ってたんだぜぇ。そして会長とケヴィンをおまえから引き離す事が、俺達の目的だったんだ。そうすれば、俺らを止められる連中はこのセントクレアには誰もいねぇ。おまけに魔物討伐の時を狙えば、自警団は手薄になってますますやりやすくなるって寸法だ。

唯一、シリウス校長だけを俺達は警戒していたんだが、今日に限って校長は留守。いやぁ~。今日はお互い本当に運がよかったよなぁ」

「何が運がよかったよ! あなたたち馬鹿じゃないの! そんなの私が後で、あんた達のしたことを学校に公表してしまえば、あんたたちまっさきに独房行きよ!」

 セリナは精一杯の虚勢を張ってみせた。

 しかし突如ネイグトは、がははと品の無い笑いをし始める。

 セリナが「何がおかしいのよ!」と怒鳴りつけると、ネイグトは会心の笑みを浮かべた。

 「いいや、ばれねぇなぁ。確かな証拠もねぇし、俺らが知らないととぼけてしまえば、それで終わりだ」

 「そ、そんなこと…………」

 ないとは言い切れず、精一杯の虚勢をあっさり崩され、セリナは言葉を失ってしまう。

 ネイグトはにやにやしながら、ひそかに、雨に濡れた寒さで小刻みに震えていたセリナに近づいていく。

 そして吐息が触れるほど近い位置までやってくると、桃色の、薄手のミニスカートから覗いている、セリナの白くて細い太ももを手で軽く撫で始めた。

 「――――っ! やっ、やめなさい!」

 「へっへっへぇ~。いいねぇその反応。最高だ。おまえが生徒会に入ったときから、俺はずっとこうしてみたかったんだぜぇ」

 ネイグトはセリナの太ももを触るのをやめると、濡れた栗色の髪を掻きあげてやり、首筋をつっと指で撫であげる。そうしてセリナの耳にふっと息を吹きかけてきた。


 (こ、こいつ……許さない!)


 激しい嫌悪感と恥辱と恐怖に包まれ、セリナはこの場を耐え抜こうと唇をきつくかみ締める。

 ひょっとしたら誰かがここに来て、助けを呼んでくれるかもしれない。

 そう思えば少しは気が楽になった。

 しかしそんなセリナの気持ちを察してか、ギルトが無情の言葉を投げかける。

 「ああ、ひとつ言い忘れていたけど、どれだけ助けを待ってもここに人はやってこないよ。この倉庫は前々から廃棄する予定だったから、見回りの人も管理人も誰もいない。

 ……まさか、この僕がそれを考慮していないはずがないだろう」

 「そんな…………」


 ――――ここには誰も来ない。


 そう思った途端、急に恐怖が重くのしかかってきた。


 「その恐怖に怯えた顔。その顔が見たかったんだよセリナ! 僕が当時一年生だった君にやられて、屈辱だった気持ちがようやく分かったかい!

 でもこの程度じゃ僕はぜんぜん満足しない! もっと君を屈辱的にさせないとね!」

 恐怖と怯えの入り混じった、セリナの顔を見たギルトは、ようやく馬脚を現し始めた。

 

 「さぁ~~て、そろそろお楽しみの時間に入るか」

 「いよっ! 待ってましたネイグトさん! 最初は何処からいくんですか?」

 「まずは上からだろ」

 「やべっ、セリナさんって胸結構あるから、俺興奮してきた」

 「おいおい、これからそれ以上のことをするんだぜ」

 男達はいよいよ興奮し始め、目を妖しく光らせる。

 

 (ああ、本当に最悪。こんな奴らにされるのなんか絶対に嫌!!)

 

 セリナは迂闊だった自分の未熟さと、力の無さを呪った。

 ネイグトは雨で濡れたセリナの白い制服のボタンを外していき、その上着をはだけさせた。そうして紅色のネクタイをゆるめ、中の白いブラウスに手を伸ばす。

 

 (……嫌っ!!)


 セリナは顔を逸らして、目を固くつぶった。悔しさと恥辱、そして恐怖心を遂に押さえきれなくなって、頬を一筋の涙が伝う。

 ネイグトはセリナの恐怖を誘うようにひとつ、ふたつとブラウスのボタンを外していく。

 そしてセリナの胸を隠す桃色の下着が、白いブラウスの下から見え隠れするようにまでなった。

 


 その時だった―――――



 ズズゥゥゥゥゥゥゥン!!



 「な、なんだ!?」

 まずは激しい轟音、次いで激震が倉庫内を駆け巡り、天井の照明が今にも落ちんばかりに右に左に激しく揺れ動く。

 一体何が起きたの!? と思ってセリナが目を開けると、いびつな形をした分厚い金属製の倉庫の扉が、白煙を上げながらこちらにむかって飛んでくるのが見えた。

 「や、やべぇ! に、逃げろぉ!」

 男達はわっと飛び退く。

 セリナのすぐ近くにいたネイグトやギルトもセリナをほったらかしにして飛び退る。

 ……えっ? ちょ、ちょっと……

 セリナは繋がれたまま冷や汗をかいた。

 なにせ自分は逃げられないし、魔法も使えない。

 もしこのまま自分の所にまで飛んできたら、間違いなく大怪我どころじゃすまないからだ。

 しかし幸いな事に、ひしゃげた倉庫の扉はまさにセリナの真ん前に着地した。……少しほっとした。

 「い、一体なにが起きたんだ?」

 ネイグトやギルトを含めた全員の男達は、突然の事に動揺を隠せないまま、ばっと倉庫の入り口を見た。

 セリナも入り口のほうを見る。


 (……嘘。どうして……なの……)


 そして感極まって、思わず熱い涙がこぼれそうになった。



 そこには、その漆黒の髪からぽたぽたと水滴を落としながら、白銀の光輝を放つ長剣を片手にアルトが無表情で突っ立っていた――――

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