「7割赤字」という言葉に気をつけろ
よく耳にする話がある。
「日本の株式会社の約7割は赤字である」
このフレーズは、実に便利だ。
消費税の議論でも、給料が上がらない話でも、派遣労働の話でも、とりあえずこれを持ち出せば、「日本経済は苦しい」という空気が作れる。
しかし、この言葉を額面通りに受け取ってはいけない。
なぜなら、この「赤字」は、私たちが日常的にイメージする“赤字”とは、意味が違うからだ。
まず理解しなければならないのは、ここで言う赤字とは「税務上の赤字」であるという点だ。
企業は利益を出すと税金がかかる。
この構造の中で、多くの中小企業はどうするか。
利益を出さない。
正確に言えば、「出さないように調整する」。
役員報酬を上げる。
設備投資を前倒しする。
広告費を増やす。
人件費に回す。
経費を使い、利益を圧縮する。
結果として、帳簿上は赤字、あるいは利益ゼロになる。
しかし、それは必ずしも「儲かっていない」という意味ではない。
むしろ、「利益の出し方をコントロールしている」という側面がある。
さらに、法人には赤字のメリットすらある。
赤字は繰り越すことができる。
今年の赤字を、来年以降の黒字と相殺できるのだ。
つまり、今年はあえて赤字にしておき、将来の税金を軽くするという戦略が成立する。
この時点で、「赤字=悪い状態」という単純な図式は崩れる。
もちろん、本当に苦しい企業も存在する。
売上が足りず、資金繰りに困り、どうにもならない赤字だ。
これは本物の赤字である。
しかし、それと「税務上、赤字にしている企業」を一緒くたにしてしまうと、現実は歪む。
では、なぜ政治家はこの「7割赤字」という言葉を使うのか。
理由は簡単だ。
分かりやすいからだ。
人は「7割」と聞けば、多いと感じる。
「赤字」と聞けば、苦しいと感じる。
この二つを組み合わせれば、「日本の企業は大変だ」という印象を、一瞬で作ることができる。
だが、その内訳には触れられないことが多い。
どれだけが意図的な赤字なのか。
どれだけが投資による赤字なのか。
どれだけが本当に苦しい赤字なのか。
黒字企業はどれだけ利益を出しているのか。
こうした話が抜け落ちたまま、結論だけが語られる。
だからこそ、この言葉を使う人間には注意が必要だ。
「7割赤字」という事実そのものが問題なのではない。
問題は、それをどう使っているかだ。
内訳を説明しているか。
構造を理解しているか。
それとも、ただ印象を操作しているだけか。
そこを見極めなければならない。
経済の話は、本来もっと地味で、もっと複雑だ。
単純な数字ひとつで語れるほど、現実は単純ではない。
「7割赤字」
この言葉を聞いたとき、それを“結論”として受け取るのではなく、“入口”として疑うこと。
それが、少しだけ現実に近づくための態度だと思う。




