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09.エピローグ:監獄からの脱獄

高等学校『歴史』教科書より抜粋


【SNSによるインフラ侵食と民衆の自立】

二十一世紀前半、日本は特定外国勢力を背景に持つインフルエンサー「Mitsuki」を中心とした、大規模なプロパガンダ(情報操作)の標的となった。


当時の若年層を中心に浸透した「徹底したスマート化・効率化」を標榜する言説は、国家インフラの急速な民営化を世論として後押しすることとなった。

その帰結として、主要なライフラインの運営権は外国資本のダミー企業へと事実上流出し、日本政府は自国のライフラインに対する制御権を完全に喪失した。

一私企業の利用規約が国内法を超越する事態を招き、国民は生存の権利そのものを、外国資本の意思決定に委ねるという空前絶後の隷属状態に陥ったのである。


しかし、物理的な供給遮断という極限状態において、日本人は古来の相互扶助精神たすけあいに基づき、デジタル・ネットワークに依存しない「アナログな生存圏」を各地で再構築した。


特に、名もなき市民による自己決定の重要性を説くラジオ放送は、運営側による一方的な『命令』に対する強力な解毒剤として機能した。『聞いて、比べて、自分で決めてください』という言葉は、のちに民衆の自立を象徴するスローガンとして広く掲げられることとなる。


同時に、熟練の現場技術者らによるインフラの物理的奪還、および非効率を厭わない地域コミュニティによる物資の分かち合いが、運営側が企図した経済的封鎖を実質的に無効化した。


運営企業側は、これら一連の民衆の行動を「契約違反」と断じ、国際的な経済制裁を示唆して抗議したが、国民が総じてシステムの外側での生存を選択したことで、支配の前提となる「依存」そのものが消滅。

結果として、運営企業は維持コストの増大に耐えかね、事実上の敗北を認めて撤退を余儀なくされた。


この一連の動乱は、後に発端となった「スマート・シティ」を揶揄した「スマート・監獄プリズンからの脱獄」と呼称され、過度なデジタル依存の危うさと、物理的な連帯が持つ重要性を説く歴史的教訓として、今日に語り継がれている。


***

――それから数年後。

まだ街は完全な復興は終えておらず、あちこちで工事が行われている。


午後の教室に、開いた窓から風が入り、カーテンを膨らませている。

教科書を読み上げた教師と思しき男は教卓に手を置き、生徒たちをゆっくりと見渡した。


「君たちは、これからの人生で、たくさんの選択をしていくことになる」


年齢はまだ若いが、その声には落ち着きがある。


「その選択を後悔しないためにも、情報の扱い方には、常に慎重であってほしい。誰かの言葉を鵜呑みにするのではなく、聞いて、比べて、そして――自分で決めてほしいと思います」


それは、歴史の教科書に記された言葉でもあり、彼自身がかつて支えにした言葉でもあった。


「では、本日の授業はここまで」

「―起立。礼」


言葉が終わるとともにチャイムが鳴り、教室は賑やかなざわめきに包まれた。



夜、勤務を終えた男――蓮が向かったのは、町外れの一軒家だった。

古い引き戸を開けると、懐かしい声が返ってくる。


「おぉ、来たか、蓮」


出会ってから「あんちゃん」としか呼ばなかった佐藤は、あの後から蓮を名前で呼ぶようになった。

佐藤は、すっかり白髪が増えていたが、背筋はまだしっかりと伸びている。

二人は卓を挟み、静かに杯を重ねた。


話題は、自然と昔のことへ、そしてかつて喧伝されたスマートシティの話へと移っていく。


「甘ったれたあんちゃんが、教師になるとはなぁ。世の中はわかんねぇもんだ」


佐藤が笑いながら言う。


「でもな、あの時……お前の声は、どんな盾よりも頼もしかった」


蓮は苦笑いを浮かべる。


「もう、その話は何度も聞きましたよ」


佐藤は答えず、ただ豪快に蓮の頭をガシガシと撫でる。

蓮は照れ臭そうに視線を逸らしながら、佐藤のなすがままになっている。


杯の中身が減り、夜は静かに更けていく。

二人は言葉では語らずとも、ただこの平和が続くことを、同じように祈っていた。

完結までお付き合いいただき、ありがとうございました!


もしこの物語を気に入っていただけましたら、下部の【☆☆☆☆☆】評価やブックマークをいただけますと、ネトコン挑戦の大きな励みになります!


19:30公開(20:00完結)の『とある観測機のログ』も、よろしければ併せてお楽しみください!


▼作者マイページ

https://mypage.syosetu.com/1317905/

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