6.仲良しなふたりを
「あの、フィニー?」
私と並んで歩きながら、アランが困ったような顔でこちらを見上げた。
「無理、していない?」
「していないよ。大丈夫」
にっこりと笑って答えたが、アランは疑わしそうな顔のままだった。
まあ、放課後と空き時間をほぼすべてアランに注ぎ込んでいるから、疑う気持ちはわからないでもない。
だが、それで睡眠時間を削ったりもしていないし、見習いとは言え軍属として、社交に重きは置いておらず、私に割り振られる公務も少ない。
課題は授業中に済ませられるし、アランのそばにいる以上にやりたいこともない。
むしろ、この一ヶ月が過ぎてアランがいなくなったら、きっと暇を持て余して死にたくなるだろうくらいに、無理なく充実した日々だ。
「その、無理に付き合う必要は」
「好きでやっているから無理なんてしていないよ。アランからしたら邪魔かもしれないけれど」
「邪魔どころか、とても助かっているけれど」
実のところ、騎士訓練学校なだけあって、男子生徒はアランを認めている者が多い。実力主義の者は言うまでもなく、それ以外でも現実が見えている者は、アランに逆らうことが得策でないことを理解している。真面目に騎士を目指している女子生徒も、男子生徒と同じくと言うか、女子でありながら男子顔負けの働きをしているアランを、尊敬していたり、盗める業があるなら盗みたいと観察しているようだ。中には面と向かって、助言を求める生徒もいた。
問題は、騎士ではなく騎士の妻を目指している類の女子生徒なのだが、これは私がともに動くことで、餌にも牽制にもなる。アランが助かると言っているのは、そう言うところだろう。
真面目なアランは上官の指示通り、与えられた時間を青田買いと面通しに活用している。
それで気付かされるのは、思った以上に、アランは人気がある、と言うこと。実力主義の男子生徒ばかりかと思えば、文官や後方支援寄りの男子生徒にも、女子生徒のなかにすら、アランに好意的な生徒は多かった。
ずっと憧れていたと勢い込んで言われたり、領地を救われたと涙ながらに感謝されたり。
その、ひとつひとつに、アランは真摯に対応していた。
防災課討伐隊はとにかく忙しい。要望があれば国中どこへでも遠征し、休む暇もない。アランだってここ二年で巡った土地は数知れないはずだ。だと言うのにアランは、土地の名前を聞けばすぐさまその土地への遠征理由や被害状況に思い至った。すべて覚えていて、すぐに知識が取り出せるのだ。
喪われた命や土地の被害を悼み、復興を喜び、対策を相談すれば真剣に考えて答えてくれる。魔物や人災により被害を受けた領地の跡継ぎからすれば、感謝以外に抱きようのない対応だろう。
自分に憧れていると言う生徒に対しても、よく話を聞き、望まれれば共に鍛練をしたり、適性に合わせた進路や己の磨き方を示したり。憧れの相手にそんな風に親切にされれば、ますます憧れが募ると言うもの。
討伐隊の隊長がアランに目を掛ける理由の一端を理解し、自分の婚約者の優秀さを改めて思い知る。
アランが動けば動くほど、学内でアランの評判は高まり、悪い噂は掻き消されて行った。
もちろん、根強く陰口を叩く者もいるが、まともな者はそんな陰口には乗らず、むしろ陰口を叩く者が距離を置かれる始末だ。
男子生徒から人気のアランに、思うところがないわけではない。誰にも見せずに閉じ込めたい思いが、消えることもない。
それでも愛するひとが認められて、嬉しく思う気持ちも嘘ではなくて。
出来るだけ共にいて男を牽制することで、どうにか嫉妬心を落ち着けている。
「昨日は母さまとお茶会だっただろう?困ったことはなかった?」
「とても優しくして貰ったよ。お義姉さまもいらして、野戦携行食の話になってね。興味が湧かれたみたいで、お義母さまとお義姉さまで、改良を考えて下さるそうだ。宮廷料理人や王室御用達の店も巻き込んで、食事が楽しみになる野戦携行食を開発すると、意気込んでいらした」
「母さまや義姉さまは、野戦の多い騎士の話を聞く機会なんてないだろうからね。きっと興味深かったと思うよ」
あえて人目のあるところで、雑談を交わす。
「でも、戻りが遅かったと聞いたよ?無理に引き留められてはいない?」
「話が弾んで遅くなったからと、晩餐に招待して頂いたんだ。その、陛下と、お義兄さまも一緒に」
それは初耳だけれど?
「……みんなアランが大好きだからって、息子抜きで息子の婚約者と食事会をするのは、ひどくない?」
「そう言って、辞退しようとはしたけど、遠征の多いぼくと話す機会は少ないから、どうしてもと、陛下が」
「ああうん。アランを責めるつもりはないよ。父さまに頼まれては断れないだろう。ごめんね」
「大丈夫」
アランは、はにかむように笑って首を振った。
「始終和やかで、楽しい晩餐だったよ。フィニーもいれば良かったのにとは思ったけど」
「次は絶対に私も呼ぶように、言っておくよ。私だって、アランの遠征中は会えないと言うのに、ずるいから」
「今日は、夕食を一緒に食べる?」
嗚呼、神よ。
「良いの?喜んでご一緒させて貰うよ。嬉しい」
思わず弾んだ声と、弛んだ頬をそのままに答える。
「ごめん。ぼく、遠征ばかりで」
「それが役目なのだから、謝ることはないよ。遠征でないときは、こうして一緒にいてくれるのだし」
アランの腰を抱き寄せて、頭に頬を寄せる。仲の良さを示すと言う目的があるからか、アランは大人しく寄り添ってくれた。役得だ。
「そうと決まれば、早く鍛練を始めようか。夕食の時間を、ゆっくり取れるように」
「うん」
アランを促して、鍛練場へ向かう。腰は抱いたまま歩いたが、拒否されることはなかった。
今日も鍛練にはアランに憧れる男子生徒が一緒だが、これで溜飲を下げることにした。
いちゃつく私とアランを見てショックを受けた顔をした男子生徒には、存分に牽制の睨みを利かせてやったけれど。
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