5.きみと揃いの盛装を
アランはガーデンパーティまで、学校にいることになったらしい。一週間の補習と訓練漬けで会えないあいだにイーダから報告を受け、もろもろの手配を始める。
アランのドレスの相談に乗って欲しいと頼むと、母は恐ろしく喜んで、贔屓の仕立屋や商人にさっそく話を付けていた。
イーダの協力もあり、採寸の日取りもすぐ決まって、その日に合わせて約束だった医師と薬師の研究記録閲覧も許可を取る。
「お城に来るの、久し振りだな」
「アランは飛び回っているからね」
脚が治ったアランは、車椅子なしで歩いている。
「脚はもう平気?」
「うん。しばらく片足で訓練していたから、ちょっと感覚が狂っていたけれど、それも戻ったよ」
「そう」
アランが参加するのが、ガーデンパーティではなくダンスパーティなら良かったのにと、少し思ってしまった。そうすれば、ダンスの練習として時間を取って貰える。
「先に採寸とデザイン決めを済ませてから、研究記録を見に行くよ。その方が、時間を気にせず見られるから」
「わかった。ありがとう。楽しみ」
素直に嬉しそうにするアランは可愛い。母も兄も兄嫁も、アランのことは気に入っている。もちろん父もだ。
とくに母の気に入りようは度を越していて、なんなら実の息子より溺愛しているのではないかと感じるときすらある。王侯貴族のドロドロとした人付き合いのなかにいると、アランの裏表のなさと竹を割ったような性格が、眩しく好ましく映るらしい。
絶対に逃がすなと、厳命されている。
「いらっしゃい、アランちゃん。さあ、こちらにお掛けなさいな」
今日だって、待ち構えていた母は、アランを見るなりニコニコで自分の横に呼び寄せている。
「お義母さま、お時間を取って頂きありがとうございます」
アランにお義母さまと呼ばせているのも、母の要望だ。
「良いのよ。わたくしも会いたかったから、フィニーが声を掛けてくれて嬉しいわ。さ、まずは布から決めましょうね」
上機嫌な母の声で、商人が布地を用意し始める。
「せっかくの機会だから、何着か作ろうと思うの。ガーデンパーティまでは遠征には行かず、学校にいるのでしょう?わたくし主催のお茶会と夜会があるから、参加して欲しいのよ。フィニーも一緒にね。フィニーったら、パートナーがいないからって、いつも来てくれないのだもの。ね、アランちゃん、お願い」
アランの目が泳いで、控えていたイーダを見た。イーダが無言で頷く。
「その、予定が合えば、喜んで」
「ありがとう!マナ!イーダと相談しておいてちょうだい。ああ、夜会に出るならフィニーと練習も必要ね。アントン、あなたも一緒に予定のすり合わせをしなさいな」
笑顔で貴族社会の頂点を泳ぐ女傑は自分の侍女へと目を向けると、アランに反論の余地も与えず言いきった。
そのまま振り向いて、にっこりと笑う。
「さ、それじゃあ布を決めましょうね。この時期のガーデンパーティならこの辺の生地が良いわね、今シーズンは全面に柄が入ったドレスが流行りだけれど、わたくしはあまり好きではないの。アランちゃんはどうかしら?」
「ドレスはあまり、詳しくなくて。流行りも知らないし」
「ふふ。それなら好きなものを選んだら良いわ。わたくしが流行りにしてあげる。ね、アランちゃん、このみっつならどれが好き?」
母は巧く話を運んで、ぴったり時間内に五着のドレスの生地とデザインに、それに合わせる小物類や化粧と髪型、そして対となる私の衣装まで、きっちり詰め上げた。この話術、我が母ながら脱帽する。
「それじゃ、仮縫いが出来たら試着に来てね」
「はい。なにからなにまで、ありがとうございます」
「良いのよ。実の娘がいないから、義理の娘のドレスを考えるのが楽しみなのだもの」
アランが困った顔をする。
「その、ごめんなさい、ぼく」
「あら、気にしないで。ドレスにこだわりがないアランちゃんだから、わたくしの好みに出来て嬉しいわ。リンテちゃんは好みがはっきりしているから、ここまでわたくしの好きにはさせてくれないの。それはそれで楽しいけれど、おもいっきりわたくしの趣味に走ったドレスも、たまには着て欲しいわ」
うふふと笑って、母はアランの頭をなでる。
「アランちゃんはアランちゃんのままで良いのよ。そんなアランちゃんに、フィニーはメロメロなのだもの」
本人の横でそう言う話をしないで欲しいものだが、否やはないので黙っておく。
「さあ、約束があるのでしょう?もうお行きなさいな。アランちゃん、今度はゆっくりふたりでお茶もしましょうね」
「はい。喜んで」
立ち上がったアランが綺麗な礼を見せるのを、母は目を細めて見た。鍛え上げられた身体でする礼は、ブレがなく美しい。
「では母さま、失礼します。行こう、アラン」
さりげなく、アランの背に手を添えて退出した。扉が閉まるのを待って、ひっそり息を吐く。
母は悪い方ではないのだが、どうしても、手のひらで良いように転がされてしまって少し苦手だ。
「大丈夫?アラン、疲れていない?」
若干ぐったりしたアランに問い掛ければ、大丈夫、と答えが返った。
「ぼくはただ、三択に答えていただけだし」
「でも慣れないことをずっと考えていたわけだし、大変だったでしょう?ごめんね、母が無理を言って」
「ううん。お義母さまの言うことは間違っていないから」
どう言う意味だろうと首をかしげた私に、アランが苦笑して見せた。
「ぼくの悪評が立っているのでしょう?」
知っていたのか。否。学校にいる以上はと、イーダが伝えたのか。
でも、悪いのはアランじゃない。
「それは、悪意で流された、根も葉もない噂だよ」
「うん。わかっているよ。でも、防災において噂は馬鹿に出来ない。噂に踊らされただけだとしても、それが混乱や暴動に繋がるなら、紛れもない人災だから」
どこまでも真摯に、アランは防災に従事しているのだ。
「今回の噂の対策として、お義母さまは、ぼくとフィニー、ぼくとお義母さまの関係が良好であることを示そうとされてるのだと思う。一着で良いドレスを複数作るのも、主催の会に誘うのも、個人的なお茶会をするのも、お義母さまが、ひいては王家が、ぼくと言う婚約者を重視していることを対外的に示すことになる」
賢い貴族ならば、王家の不興を買ってまで、フィニーとぼくの仲を裂こうとはしないと思う。
思った以上に状況を把握しているアランに、感服する。たった一週間でここまでの情報をそろえる手駒と、情報から状況を判断する頭脳が、アランにはあるのだ。防災課討伐隊期待の大型新人は、伊達ではないと言うこと。
「根も葉もない噂だとしても、それを信じる者がいると言うのは、正しい情報を知られていないから、だよね。それはぼくの、努力不足だ。任務にかまけてフィニーの婚約者としての責務を疎かにした。そのツケが回って来たんだよ」
このまま放置してたら隊長にどやされると、アランは肩をすくめた。
「だから、忙しいフィニーを巻き込むのは申し訳ないのだけれど、ガーデンパーティまでのあいだ、仲の良い姿を見せられるように協力をお願い出来る?」
そんなの願ったり叶ったりだけれど?
「私はなんの問題もないよ。でも、アランこそ、忙しいのではないかな?大丈夫?」
「いや、補講は一週間でだいたい終わったから、あとは青田買いと面通しくらいだよ。もちろん身体が鈍らないように、訓練はするけれど」
「それなら青田買いと面通しは、出来る限り私が同行するよ。訓練も、一緒に出来るものは一緒にやろう」
噂の方向性的に、あまりアランを単独で歩かせたくない。もちろん監視は常に付けているが、私が共にいればなによりの証言者になる。
「権力を笠に着てって言われそう」
「事実、アランの持つ人脈なのだから、言わせておけば良いよ」
言えば、アランはそうだねと笑っていた。
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