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プロローグ.あり得ない噂

「アランさまに、嫌がらせをされてるんです」


 放課後図書室にでも行こうかと歩いていた私を呼び止め、そう相談して来たのは、さして仲良くもない同僚だった。


 コエルス王国ヒドロ騎士団付属騎士訓練学校。所属生徒が全員ヒドロ騎士団所属の騎士見習いであるこの学校では、学費は不要でわずかながら給金が出る代わりに、有事には兵として戦場に立つことになる。選べる進路もなく、行く先は兵士一択。

 ゆえに、この学校では同じ学舎で学ぶものを、同僚なかまとして扱う。


 もちろん、騎士団を支える者にはさまざまな種類があるため、全員が同じことを学ぶわけではない。

 十二歳から十七歳の五年間を過ごすこの学校で、最初の二年間は基礎を学び、その上で適性や家柄、本人の希望により専科を分けられる。


 たとえば、第三王子である私は、いずれ将官になるべしと上級騎士科に分けられているし、体力の劣る幼馴染みのトレイズは、事務方をと後方支援科に分けられた。将官は後方支援についても理解する必要があるため、後方支援科であるトレイズと授業がかぶることもある。


 対して目の前の同僚は制服の襟章から察するに、医療科看護専攻。学舎のなかでもとりわけ専門性の高い科で、医療科以外との関わりはきわめて薄い。


 私との関わりはもちろん、その口から出たアランとの関わりも、薄いはずだ。


 アラン。我が同い年の幼馴染みにして婚約者であるアラン・カピヤバ伯爵令嬢は、防災科討伐専攻。医療科とは別の方向に、専門性の高い科に所属しているからだ。


 我が信頼する従者たるアントンが、彼女の侍女から入手してくれた情報を思い返す。


 いや、思い返すまでもなかった。


「それは、いつの話かな」


 それでも一応はと、問うてみる。


「このところ、ずっとです」

「具体的には?」

「信じてくれないんですか……?」


 信じるもなにも、嫌がらせなんて名誉毀損でしかないことを言う以上、確たる証拠を示すべきなのは当然だと思うのだけれど。


「具体的にいつ、どんなことをされたのかと訊いているだけだけれど?まず、状況を知らなければどんな判断も出来ない」


 そもそも私からしてみると、アランと嫌がらせと言う単語がうまく結び付かなくはあるけれど、討伐専攻を選ぶだけあって強いひとだ。ちょっとした言葉のあやで、誤解されたのかもしれない。

 星屑を集めて紡いだような亜麻色の髪をした、夜色の瞳の、私の愛しい婚約者。


「そもそもアランは、」

「フィネスさま」


 息急いきせききって飛び込んで来た信頼する従者に、驚いて振り向く。


「どうか、」

「アラン、さまが、お帰りで、」

「すぐ行く。案内してくれ」


 みなまで言わせぬアントンに、みなまで言わせず返答すると、話し途中だった同僚に謝罪を述べる。


「すまないね。急ぎの用が入ってしまったので失礼するよ」


 それだけ告げると、私はアントンを急かして部屋を出た。

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


プロローグ・エピローグ含めて全14話+おまけ1話予定

完結まで毎日6時と18時に投稿予定ですので

最後までお付き合い頂ければ幸いです

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