7.冒険者活動
師匠から破門宣言を受けて、3日が経った今日。
俺は蘇った死者リブを連れて、山道を登っていた。
「ほらほら、しっかり歩け。目的地まではまだまだ距離があるぞ」
「……私の後ろから檄を飛ばされてもな」
肩で息をしながら歩く俺を、前から冷ややかな視線を送ってくるリブ。
俺とは対照的に、涼しい顔をしてやがる。
「クソッ……!山道って、こんなキツいのかよ……!」
山道を進むのは、ダンジョンの中を歩き回るのとはまた違った疲労感が襲ってくる。
ダンジョンの地面は大理石なんかで加工された遺跡のような構造なので、平坦で案外歩きやすかった。
だが山の中だとそうはいかない。
一切人の手が加えられていない剥き出しのデコボコした土や、そこに生い茂る草なんかに足を取られ、余計に体力を消耗する。
思うように呼吸が出来ず、言葉を発するのも苦しい。
樹に手をついて息を整える俺のそばに、リブが寄ってくる。
「貴様はどうやってガイセルまで来たんだ」
「んなモン……馬車使って来たに決まってんだろ……徒歩で山を越えるなんて……非効率だ……」
「それでこの有様か。魔法師とはいえ、貴様は冒険者だろう。もっと体力をつけるべきだ」
「うる……せぇ……呼吸もいらないアンデッドが……偉そうに……」
「その偉そうなアンデッドを作り出したのは誰だ?胸に手を当てて考えろ」
チッ。
それを持ち出してくるなよ。
何も言い返せなくなる。
そう。
こうやって山道でひぃひぃ言ってるのも、馬車を使わず山越えをする羽目になったのも、生意気なアンデッドがつっかかってくるのも、全部俺が蒔いた種だ。
えーえー、分かってますよ!
俺が半端な腕でリビングデッドを作ったからこんな事になってるんですよ!
声に出すと余計に体力を消耗するので、心の中で毒づく。
今は悪態をつくより、呼吸を整えるのが先決だ。
足を止めて息を切らす俺に、リブはため息をついた。
「しかし、何故わざわざ薬草採取の依頼など受けたのだ?旅の資金を貯めるのなら、魔物の討伐や捕獲依頼の方が身入りが良いだろうに」
そう、俺達は今、冒険者ギルドで受けた依頼、薬草採取の為に山の中に入っているのだ。
ガイセルの周囲に広がる山岳地帯の中には、治療用ポーションの素となる薬草が群生している。
薬草は薬屋や病院に必須だし、騎士団にも需要が高い。
だが、この山は魔物が多く出現する場所でもあり、戦闘経験のない者が迂闊に入ると、翌日には白骨死体だ。
よって、薬草の採取はガイセルの病院や薬屋、時には騎士団が定期的に冒険者ギルドへ依頼を出し、採取を任せている。
なんでも、そうする事で食い扶持に困った冒険者が犯罪に走ることを防ぐ、経済効果があるらしい。
薬草採取はガイセルにおいて、冒険者の基本的な収入源の一つなのだ。
まあ、特別な技能を必要とせず、誰にでも出来る事なので、それほど報酬は高くないが。
品質によっては納品物として受け取ってくれない場合もあるし。
そんなしょぼい依頼とわかっていて、何故俺がそれを受けたのか。
理由は単純だ。
「……今の俺には、それしか受注出来なかったんだよ」
俺だって本当は、もっと身入りの良い依頼を受けたかった。
だが、ギルドの職員から実績不足で受注拒否されてしまったのだ。
全くもって、面倒臭い制度だ。
リブがまたもや半目を向けてくる。
「……貴様、今までどんな依頼をこなしてきたんだ?」
「……」
俺は登ってきた登山道に顔を向ける。
「おい、こっちを見ろ。なんとか言え」
「……が……てだよ」
「は?」
「っるせーな!今回が初めてだって言ってんだよ!」
都合の悪い事を二度言わすんじゃねえよ。
察しの悪い死人だな。
俺は半年前、ガイセルの冒険者ギルドで初めて冒険者登録をしたが、それから一度も依頼を受注せず、ダンジョンで死体漁りをやっていた。
その方が、死霊魔法の腕を磨くのに効率が良かったから。
当然、依頼を達成した実績はゼロ。
故に、誰でも受注可能で、子供の小遣い程度の報酬金しか出ない、薬草採取の依頼しか受注出来ないのだ。
「そんな調子で、今までどうやって生活費を稼いでいたんだ?」
「んなモン、ダンジョンの魔石を集めて売ってたよ。それなりの額で売れるし、食いモンに困ることは無かった。アンタの顔割れの心配さえなければ、それで稼ぐ事も出来たんだがな」
「だから、その状況を作り出したのは何処のどいつだ」
「はいはい俺ですよっ!」
ったく、結局この話に戻るのかよ。
失敗ってのは一度きりの事でも、尾を引いていくもんだな!
「今まで依頼を受けようとは思わなかったのか?」
「死体漁りの時間が無くなる」
呆れた様子を見せるリブに、俺はきっぱり言ってやった。
俺は収入源を求めて冒険者になったんじゃない。
死体の宝庫たるダンジョンに入る為には、冒険者になるしかなかった。
それだけだ。
「はぁ……これから実績を積んで、稼げるようになるしかないか。前途多難だな」
「仕方ねえだろ。それしか旅の資金を稼ぐ手段が残ってねえんだから」
再度ため息を吐くリブに、俺は答える。
疲れたなどと言っている場合じゃない。
悲鳴を上げる体に鞭打って、山道を登る。
どれだけ先が長くても、やるしかない。
旅の資金を集めて、各地を周る。
そして、リブの霊魂を死体から引き剥がす手段を探し出す。
でないと、俺はこの修行の旅を終わらせられないし、この扱いにくいアンデッドに付き纏われたままだ。
つくづく俺は、厄介な拾い物をしたものだ。




