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2.動きの鈍いアンデッド


 アンデッドとは、蘇った死者と言われる魔物の総称だ。

低級なもので言うとスケルトンやゾンビ、上級になるとファントムナイトやヴァンパイアなどが該当する。

神の怒りを買い、死後の世界への道を閉ざされた者達の末路、なんて考え方もあるらしい。


 魔物という事もあり、アンデッドは基本的に条件が揃えば自然に生まれる。

その条件は風土によって異なり、世界各地には様々なアンデッドの魔物が存在する。

火葬の信仰がある場所ではスケルトンが、土葬の信仰がある場所ではゾンビが多く出現する、といった具合だ。


 そんなアンデッドの中で、自然発生する事なく、魔法によってのみ作り出されるものがある。


 死後間もない生物の亡骸を用いて作り出す、リビングデッドもその一つ。

便宜上アンデッドと同じ名称で呼んでいるが、性質的には魔物というより魔力で作動する魔法人形の方が近いだろう。


状態の良い死体に、死者の霊魂——死霊を降ろし、意のままに操る。


 そんな人の道を外れ、聖書に唾を吐きかけるような現象を引き起こすのが、俺達の扱う死霊魔法だ。

ぶっちゃけた話、世間からの風当たりが強いのは当然だと思う。

俺も師匠も、碌な死に方が出来ないだろう。

……あの人が死ぬのかは疑問だが。


「んー、あんまり戦力になりそうもないな」


 そんなリビングデッドを初めて作り出した俺は今、ダンジョンの地下四層へと繋がる階段を登っていた。

その後ろから、俺の手で作り出したリビングデッドの女が、ノロノロと着いてくる。

外傷や腐敗が見られない歩いている姿は、生きた人間と相違ない。

しかし、虚ろな目は瞳孔が開いたままになっており、光を失っている。

それが死者であることを示していた。


 持参していた俺のバッグを持たせているのもあるが、それにしたって動きが鈍い。


 リビングデッドは腐敗や損傷の少ない死体から作り出す事もあって、他のアンデッドに比べて生前に近い俊敏性で動かせるのが利点だ。


 しかし、俺が作成したリビングデッドは、腐肉の死体、ゾンビ並みに動きが鈍い。

俺が階段を5段上がる頃に、ようやく1段上がる程度だ。

 

 生前から俊敏性に欠けていたのか、はたまた初めての作成故に儀式の段階で不具合が起きたのか。

何にせよ、戦闘に使えはしなさそうだ。


「やれやれ……まぁ、荷物持ちか慰み者として使われてたなら仕方ないか」


 正直戦力として期待していたのだが、どうやら腰に下げた剣は本当にお飾りだった様子。


 俺も戦えなくはないが、先ほどの魔法儀式でかなり魔力を使ったので、戦闘に回せる魔力は心許ない。

この先、手強い魔物に遭遇しない事を願うばかりだ。


 まあ、完全に使えない訳ではないし、いざという時は肉壁にでもしよう。

リビングデッドだから多少損傷しても動かせるし、完全に破損した時は新たなアンデッドの素材として、魔法の糧にすればいい。


『死霊魔法は、マイナスから1を生み出す。無価値と評されたものに価値を与える魔法だ』


 師匠によく聞かされていた教えだ。


 死んで腐肉や骨だけになった者達に、仮初の命を与えて使役する。

どんなにマイナスの死骸でも、1にも10にも作り変える事が出来る。

それが死霊魔法なのだ、と。


「死体の合成なんて魔法を編み出したお方のいう事は違うなぁ」


 今の俺は、所詮マイナスをマイナスのまま運用するのが精一杯だ。

もっと精進しなければ。


 そんなこんなで、俺とリビングデッドはダンジョンの地下四層へと到着した。

この女のパーティが全滅していた五層と比較したらまだ危険度は低い方だが、それでも安全という訳ではない。

この四層だって、俺の死体のストックが全滅した場所で、そこそこに手強い魔物が数多くいる。


 ダンジョン内に安全な場所など存在しない。

安全を求めるなら、さっさとダンジョンから出る事だ。


「グルルルルルッ」


 早速危険ってやつが現れた。


 豚のような顔に、ふくよかな体躯。

高い繁殖力と怪力が自慢の魔物、オークだ。

人間の道具や、自身で作った道具を扱う知性も持ち合わせている、中々に厄介な魔物。


 オークは俺達を見るなり、雄叫びを上げて棍棒を振り上げて来た。


 出来れば鉢合わせたくなかったが、出会ってしまったなら仕方ない。


「ここは予定通り、コイツを肉壁に——」


 俺が振り返るのと、女が駆け出すのは同時だった。


 さっきまでの愚鈍な動きとは打って変わり、素早く前に出るリビングデッド。

剣を抜き、オークの振り上げた不格好な棍棒を容易く斬り裂いた。


 完全に予想外だった。


「グォォォォォォッ!?」


 自慢の武器を切られ、オレと同様に面食らっているオークの出っ腹に、リビングデッドが斬撃を浴びせる。

斜め十字に斬り付けられた傷から、鮮血と共にオークの腸がこぼれ落ちた。


 あんな(なまくら)の剣でよく戦えるな。


 俺が感心していると、腹の傷を抑えてうずくまるオークの首を、リビングデッドの剣が跳ね飛ばす。

あのまま放っておいても生き絶えただろうに、完全なオーバーキルだ。


 ダンジョンの危険は、瞬く間に消え去った。

……この女の評価を改める必要がありそうだ。


 だが、一つ言いたいのは。


「そんなに動けるなら最初から動いてくれよ……」

 

 荷物持ちの時に見せたあの愚鈍な動きはなんだったのか。


 それにしても、自主的に行動を起こすアンデッド、か。

まるで魔物だな。


 俺は今まで、スケルトンやゴーストボールなど、自然発生した低級のアンデッドを自作して戦力を確保していた。

リビングデッドなんて高度な儀式を要するアンデッドを作ったのは、今日が初めてだ。

やはり儀式の際、俺の認知外の所で何か不具合を起こしている可能性が非常に高い。

師匠に相談すれば、原因を特定できないだろうか。


 とにかく、早くダンジョンを抜け出して、師匠の知恵を借りよう。

このまま放っておくと、何かとんでもない事になる気がする。


「行くぞ、リビングデッド。あ、待て。その死体は処理するな。そのままで残しておきたい」


 死体を解体しようとしていたリビングデッドを止め、俺はオークの死体を収納魔法で回収した。

これも死霊魔法の鍛錬に必要だ。

感情を持たないはずのリビングデッドが、一瞬だけ不満そうに眉を寄せたのは何故だろうか。


 やっぱり何かおかしい。

そう確信しながら、俺はリビングデッドを連れて四層を進んだ。


 その後も何度か魔物と遭遇したが、やはり動きが素早いのは戦闘の際のみで、普通に歩く時は鈍間なリビングデッドだった。

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