16.剣戟
目の前で鳴り響く、金属音。
盗賊が振るった凶刃を、リブの剣が迎え撃つ。
目の前で交差する刃に、俺は唖然としていた。
あ、危ねぇ。
リブが居なかったら、首を持っていかれるところだった。
「ボサっとするな!貴様はあの人を守れ!」
「わ、わりぃ!」
俺の方を見向きもせず怒鳴るリブに、俺は我に帰る。
今はあの男の相手をリブに任せるしかない。
なら俺は——
「なんだぁ?テメェ。剣筋がメチャクチャじゃねえか。ロクな流派に入ってねぇ、ハリボテスラスターか?」
「あいにく、私の剣は独学だ!」
「へへっ、そうかいそうかい」
リブと剣を交えながらも、盗賊の男は余裕そうに笑っている。
真剣に斬り合う2人をよそに、俺は収納魔法を展開。
中から必要なものをありったけ取り出す。
それは、骨。
人骨から魔物の骨まで、あらゆる形状のものを取り出していく。
「だったら、その独学剣術であの女守ってみろよッ!」
盗賊は懐から短剣を取り出し、地面にへたり込んで震えている女に投げ付けた。
——やっぱりそう来るよな。
「《プロテクトボーンズ》!」
俺の詠唱に呼応し、無数の骨が女を取り囲む。
円形状に展開された骨の防壁は、盗賊が投げた短剣を弾いた。
「骨ってのは、案外丈夫でな。短剣程度じゃ、この壁は突破できねえぞ」
俺は魔力を送って骨の防壁を維持させる。
白骨死体に魔力を流し、思うがままに操る魔法。
入門者向け死霊魔法を応用した、即席の防御壁だ。
剣による白兵戦か、短剣による不意打ちを主な戦法とする盗賊に、骨の壁の撃破は不可能だ。
女の安全は確保されたも同然。
これでリブも心置きなく、盗賊との戦闘に集中できるだろう。
男は剣を引き、リブから距離を取るように後退した。
「あーあー、面倒増やしてくれやがって」
つまらなそうな頭を掻きながら、男はこちらを睨んでくる。
「テメェ、死霊魔法師じゃねえか。何で死者を弄ぶ外道のイカれ野郎が、見ず知らずの他人を助けるために動いちゃってるわけ?」
「盗賊のアンタにだけは言われたくないな」
「いいから答えろよ。何だ?今更自分の過去の行いに怖気付いたのか?」
「そんなんじゃねえよ」
盗賊の意図はだいたい分かっている。
こちらの神経を逆撫でするような質問をして、精神を乱そうって腹だろう。
そんな問答に、真面目に付き合う義理はない。
「何となくむしゃくしゃしてたら、偶然アンタらを見かけてな。八つ当たりだよ、八つ当たり」
だから俺も、適当に答えて奴の神経を逆撫でしてやろう。
煽り合いチキンレースの開幕だ。
「何?テメェら人の首で憂さ晴らししようってのか?偽善通り越したろくでなしだな!テメェらがやってる事は正当性のカケラも——」
「アンタよく喋るな。寂しがり屋か?もしかして、盗賊の仲間内でもハブられてたクチか?分かるわぁ〜。アンタみたいな理屈屋で皮肉しか言えない奴って、どこでも嫌われるもんな」
そろそろ適当に答えるのも鬱陶しくなってきたので、思いっきり挑発してやる。
盗賊の余裕そうな笑みは消え、ワナワナと震え出した。
適当に言った煽り文句だったが、どうやら的外れでもなかったらしい。
「ぶち殺すぞ陰湿魔法師がよぉ!」
激情して突っ込んでくる盗賊の刃を、リブが受け止めた。
「あれほど打ち合った私の事を忘れるとは、愚かだな」
「どけやクソアマぁ!テメェはあの陰湿野郎のデザートにとっといてやるからよぉ!」
リブを押し除けようと、力任せに激しく剣を振るう盗賊。
互いの剣がぶつかり、押し合う。
激しい金属音が轟いた。
リブの足が若干後ろに下がる。
やはり、単純な力比べではリブが不利か。
男はリブより背も高いし、全体的に筋肉の発達も優っている。
あれほどの肉体は、少し鍛えた程度で仕上がるものじゃないだろう。
盗賊を褒めるようで癪だが、そこだけは否定しようがない。
「貴様、リミッターというものを知っているか?」
リブは盗賊の剣を受け止めながら、そんな質問を投げかけた。
「あぁ!?訳分かんねぇこと言ってんじゃねえぞ!」
「知らんか。人間は、己の動作で身体を壊さないよう、無意識的に力を制御しているそうだ。自分では全力を出しているつもりでも、全体的にはその半分程度しか力を発揮できない。それが人間の人体構造というものだ」
「だから何だってんだよ!」
「なら、その制限を自ら取り外すことが出来たら、どんなことが起こると思う?」
ちょっと待て。
それってまさか——
「おいリブっ!やめとけ!今のアンタじゃ、人体の修復が——」
「『オーバーアクセル』ッ!これがその奇跡を引き起こす、私の奥義だ!」
俺の制止も間に合わず、リブはそれを使った。
肉体の限界を超えた力を発揮したリブは、押し負けていたはずの盗賊の剣を押し返していく。
「な、なんだっ!?テメェ、何をしやがった!?」
その質問への答えは、強烈な蹴りだった。
動揺する盗賊の腹に、リブの足がめり込み、吹き飛ばした。
爆発のような衝撃音の後、盗賊の体が洞窟の壁にめり込む。
なんて威力だよ、全く。
「殺しはしない。貴様らは生きて罪を償え。この外道ども」
ぐしゃぐしゃに曲がった足を引き摺りながら、リブは盗賊達を見下ろした。




