13.目的地
翌日。
「い、痛ってぇ〜……」
あちこちに痣の出来た体を引き摺りながら、俺はリブに着いて行く。
結局昨日は、ただ一方的に木の棒で殴られまくった。
お陰で体はこのザマ。
少し歩くだけで痣に響いて苦痛を伴う。
慣れない事はするものじゃない。
こう思うのも、リブをアンデッドにしてから何回目か。
思わずため息をこぼす。
「……やはり痛みが引くまで何処かで休むか?」
「そうも言ってらんねえだろ。ただでさえ昨日は稽古で余計な時間使ったんだ。依頼報告まで期日があるとはいえ、時間を無駄にするのは得策じゃない」
「とはいっても、そんな状況で魔物との戦闘になれば、まともに動けないだろ?」
「大丈夫だ。剣の扱いを身に付けるまでは、どっちにしろ前線に立てない。そもそも俺は死霊魔法師、ソーサラータイプの冒険者だぜ?」
冒険者の戦闘スタイルは、大きく二つのタイプに分けられる。
一つは、剣や斧などの近接武器で魔物と戦う前衛タイプ。
軽めの剣で素早く相手を斬りつけるスラスターや、大剣などの大きな武器により一撃で相手を仕留める事に特化したスレイバーの冒険者は、これに該当する。
もう一つは、弓や魔法などで遠距離から魔物を攻撃する後衛タイプ。
アーチャーやソーサラーの冒険者はこれだ。
リブのように、剣を使ってバサバサ相手を斬り捨てていく前衛タイプと違い、後衛タイプは遠距離攻撃や後方支援がメイン。
そもそもとして、前衛に出る事がないのだ。
だから、近接戦闘の術を完全に身に付けるまでは、どちらにせよ今まで通りの戦法で戦うしかない。
「……というか、死霊魔法師の戦法というのは具体的にどういうものなんだ?アンデッドを操って攻撃させるのは分かったが、それ以外に戦う術はあるのか?」
「そうだなぁ。相手に手持ちの死霊を直接降ろして思考を混乱させたり、ゴーストボールを直接撃ち込んで燃やしたり、武器に死霊を宿して意思を持った武器にしたり、俺が出来るのはこんな所だ」
「意外と多芸なのだな」
「そりゃ、アンデッドを作り出す事だけが、死霊魔法じゃないからな。外道だなんだって呼ばれてるけど、俺達も魔法師さ。魔法を探求して、様々な知識を得て、己の魔法を磨く事に人生を捧げる、探求者の端くれなんだぞ」
まあ、俺にはそんな崇高な目的、理解できないけど。
師匠の元で魔法を覚えたのだって、生きる術が欲しかっただけだし。
「アンタの剣だって、適当な死霊を降ろして意思を持った武器に魔改造する事だって出来るんだぜ?」
「断固拒否する。私の剣に変な細工をするな」
やたら食い気味だな。
まあ、手に馴染んだ武器に下手な細工なんかすりゃ、使い勝手の違いで扱えなくなるわな。
「やらねーよ。例えばの話だ」
だから柄を握りしめるな。
鋭い目でこっち見んな。
「で、今回貴様はどういう依頼を受けたんだ?そろそろ目的地だけでなく、具体的な依頼内容をしりたいのだが?」
「あぁ、そういえば話してなかったな」
俺はギルドで受け取った依頼受注用紙を取り出し、リブに差し出した。
そこには依頼内容の詳細や、目的の場所、報酬金額なんかが記載されている。
「洞窟の調査だ。なんでも、盗賊の根城になっている可能性があるらしくてな」
リブは俺が差し出した茶色い紙を受け取ると、記載内容をまじまじと読んだ。
「盗賊か。どこにでも現れるのだな、こういう連中は」
グシャリと、用紙の端を握りしめるリブ。
どうやらこの手の連中にいい感情は抱いてないようだ。
まあ、元仲間であるリースに対しても相当思う所があったらしいし、単純に悪党やクズ、外道の類が嫌いなのだろう。
そんな奴が、よく外道の俺に「故郷まで送り届けろ」なんて頼んできたものだ。
「アンタ、冒険者に向いてなかったんじゃねえの?」
すこしの間リブと共に過ごして、抱いた感想がそれだった。
コイツは、荒くれ者や捻くれ者、元罪人や素性を隠して活動する悪党なんかが山ほど居る冒険者の中でやっていくには、真っ直ぐすぎる。
嫌悪感を抱いた相手にはそれを隠そうともせず、思ったことをそのまま言い放つ。
そんな様子では、角が立ちまくってトラブルも多かったはずだ。
「……分かっているさ。それでも、私は冒険者を辞めるわけにはいかなかった。その結果がこれだ」
依頼受注用紙を俺に返し、リブは先は進む。
その背中を折って、俺も山道を進む。
なるほどな。
アイツは目的があったから、自分とは合わない人間達に囲まれながらも、冒険者を続ける事が出来たのか。
俺にはそんなものが無い。
ただ師匠の元で死霊魔法の鍛錬を続けて、ここまでやって来た。
それ以外にやりたい事も、その先にやりたい事も、俺にはない。
死にたくないからただ生きてるだけの、空っぽな人間だ。
「ハハッ、死体の方がよっぽど人間らしいって……どんな皮肉だよ……」
リブに聞こえないよう、小さく笑う。
生前に目標を掲げていて、死後の今も故郷に帰りたいという願いのもと動いている。
方や俺は、死にたくない以外に願いも目標もない、空っぽな人間。
どちらの方がより人間らしいか、一目瞭然だろう。




