12.剣術入門
リブと契約を交わし、数日後。
俺達は、再びガイセル周辺の山道を登っていた。
そう、また山である。
ガイセルの不便な点の一つは、山に囲まれた環境であるがゆえ、街の外へ出る交通の便利の悪さだ。
お陰で依頼の目的地によっては、山道を登って行き来する羽目になる。
今回受けた依頼の目的地は、山を一つ越えたある洞窟だ。
リブの顔割れで面倒なことになるのを避けるため、馬車が使えず徒歩で向かうのは確定。
そんな訳で今日も山道を登っていた俺達は、途中で休めそうな河原を見つけて一息付くことにした。
山に入ってからかれこれ4時間、これでようやく休める——なら良かったのだが。
「フンッ!」
リブが握りしめた木の棒が、俺の振るう棒をすり抜け、フード越しに顔面を捉える。
「ぎゃあァァァァァァァ〜ーーーッッッッ!」
あまりの激痛に身体をのけ反らせながら顔を抑え、悶絶する俺。
ちったぁ加減しろよバカ!
こっちは初心者なんだぞ!
俺とリブは、その辺に落ちていたちょうどいい長さの木の棒を手に、剣の稽古をしていた。
そう、俺がリブに出した条件である、剣の扱いを教わっているのだ。
こういうのは普通、構え方とか型とか、そういうのから習っていくんじゃねえの?と思ったが、どうやらリブの剣は見様見真似と独学で生み出した完全我流らしい。
故に、型の教え方なんかは分からないようで、こうして模擬戦闘による動きの模倣くらいしか教えれないのだとか。
本人曰く、剣は当たれば斬れるし、振れば当たる、だそう。
なんて脳筋的な思考だ。
そんな感じでよく冒険者やれてたな!
全く大した奴だ。
「剣に限った話ではないが、まずは相手をよく見ることだ。相手が次にどう出るか、どう打ってくるか、それを見極め、相手の動きの隙を突く。接近戦の基本だ」
「じゃあピンポイントで目元狙ってくんなよ!見えなくなったらどうするんだ!」
赤く腫れた目元を抑えながら、俺はリブを批難する。
「……すまん。フード越しだと貴様の視線が追いづらくてな。戦闘の癖で視線を潰そうと思って、つい」
だからってフードの上からフルスイングかよ。
まったく、とんでもねえ死体だ。
教えを乞う相手としては間違いなく失格だな。
まあ、その発想は戦闘面において頼りになるが。
「少し休憩しよう。この後も山道を進むんだ。余力は残しておいた方がいいだろ」
「そうか?私はまだまだ動けるぞ?」
「アンタはアンデッドだろうが!俺は生身の人間なんだぞバカ!」
「ば、バカ……」
俺の細かな罵倒に、いちいちショックを受けるリブ。
死体のくせに、感情表現が豊かなヤツである。
俺は木陰で体を横に伸ばし、休める姿勢を取った。
「フードは取らないのか?稽古の時も頑なに取ろうとしなかったが、何故そこまで執拗に顔を隠す?」
休んでいる俺に、リブが水袋を差し出しながら尋ねてくる。
数日経ってその疑問が浮かんでくるのかよ。
できればこのまま触れて欲しくなかったけど。
「ああ、取らない。万が一他の冒険者がここを通りかかったら、面倒ごとが増えるからな」
ただでさえリブっていう極上級の面倒事を抱えてるんだ。
リスク管理は慎重にやらなければ。
「……そうか」
リブはそれだけ答え、俺に背を向けて周囲の様子を眺める。
格好はボロボロの安価な鎧だが、その佇まいだけは冒険者というより女騎士のようだった。
「……聞けよ」
「何をだ?」
「気になったんだろ?俺が何故フードを取らないのか」
だからあんな形で尋ねてきたんだろうが。
聞かれたくはないが、そんな中途半端な好奇心を向けられてそのままなのもちょっと腹が立つ。
「私はただ、フードを取るか取らないか気になっただけだ。その中身まで詮索するつもりはない」
「いや、普通気になるだろ。四六時中フードかぶって顔隠してる奴が居たら」
「冒険者には、少なからず各々事情を抱えて生きている者が多い。貴様もその類だろう?ならば私から無理には聞かない。話したくなった時に、話せばいい」
「ヘッ、そんな時は一生来ないさ」
俺はフードを引っ張り、より深く顔を埋める。
もし、俺が忌み子と呼ばれる人間だと知った時、コイツはどんな反応をするだろうか。
不吉の象徴、悪魔の使い、気味が悪い——聞き慣れた言葉で俺を罵るのだろうか。
今まで俺の姿を見てそう言ってきた連中や、実の子供である俺を捨てた両親のように。
……言うに決まっている。
俺がこの世の絶対悪として生まれた瞬間から、そう確定している。
だから俺は、死霊魔法師になった。
俺を忌み子と呼ばず、俺の姿を受け入れてくれる人間が居れば、俺には別の道があったはずなのだから。
真っ当に生きれる道が、あったはずなのだから。
らしくない。
こんな事を考えるのはらしくないな、うん。
俺は立ち上がり、木の棒を手に取った。
「充分休んだ。稽古を続けてくれ」
俺はリブに木の棒を向ける。
「ああ、喜んで」
リブも俺の方に向き直り、木の棒を構えた。
「今度こそ、私に一撃入れてみろっ!」
「上等だっ!」
俺達は模擬戦闘を続ける。
……残念ながら、日が傾く頃までやっても一撃入れる事は叶わなず、めった打ちにされるのだった。




