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11.アンデッドの願い


 山の中で魔物に邪魔される事なく一夜を過ごし、俺の体は目覚めた時には全快になっていた。

リブの周りに大量の魔物が転がっていたのは、圧巻すぎて肝が冷えたが。

夜間に相当頑張ってくれたらしい。


 そんなリブの戦闘功績を全て回収し、薬草を指定量だけ採取して山を降りた俺達は、昼頃には無事にガイセルの街へと帰還した。


 顔が割れると面倒なリブを拠点で待たせ、俺は冒険者ギルドへ行き、採取した薬草の納品と、ついでにアンデッドとして使うには状態の悪い魔物や、昨日倒したアサルトベアの死体を買取に出した。

本当の所、アサルトベアの死体は戦力に加えたかったのだが、リブから売った方が良いと念押しに言われたので、仕方なく。


 俺は今回の依頼で得た大陸共通貨幣を大事に仕舞い、軽い足取りで拠点の廃宿屋へと帰ってきた。


「おーい、死霊魔法師様のお帰りだぞー。喜べアンデッド。今回の収入は中々のモンだ」


 今にも外れそうな木製の玄関ドアを開け、朗報を伝える。


 客室の一つが開き、中からリブが姿を見せた。


「戻ったか。稼ぎはどのくらいだった?」


 普段より柔らかい表情で尋ねてくるリブから、俺は思わず視線を逸らした。


 アサルトベアとの戦いでボロボロになった鎧を脱ぎ、今は長袖の黒インナーを着ている。

よって、ボディラインがより強調され、女性らしい体がくっきりと確認できてしまう。


 死体相手に欲情する趣味はないと言っても、このままでは目に毒なので、俺は予備のローブを差し出した。

受け取ったリブは、不思議そうに首を傾げつつ、インナーの上からローブを着た。

コイツ、自分の身体的特徴に無関心なのか?


 俺の部屋へ招き、机に今回で得た金を並べて見せた。


 大陸共通紙幣が3枚と、銀色の共通硬貨6枚。


 薬草採取の報酬金と、魔物の死体。

合わせてなんと、3600ゼル。

一般的な飲食店の三人前くらいにはなる金が、一瞬で手に入った。

ダンジョンでの死体漁りついでに魔石を採取して日銭を稼いでいた頃とは雲泥の差だ。


 大陸旅の資金にはまだまだ心許ないが、この稼ぎは大きい。


「ふむ、確かに中々の収入だ」


「だろ?この調子なら、大陸旅の資金も今月中には——」


 顔を上げた俺の目に映ったのは、顎を指で摘むような姿勢で、机に置いた収入を凝視するリブだった。


「これなら……」


「何だよ?考えでもあるのか?」


 小声で何かを考えているリブに、俺は声をかける。


 するとリブは、俺の目をまっすぐ見つめてきた。

死人とは思えない、透き通った青い瞳が、俺の目を捉えている。


「死霊魔法師。貴様を人の心を持った者と見込んで、頼みがある」


「なんだよ、改まって」


 どんな頼みでも、俺がそれを汲み取る必要はないが、一応聞いてはやろう。


 リブは俺を見ながら、自身の胸に右手を当てる。

それはまるで、俺に敬意を持って、心から懇願するようだった。


「——私のこの体を、私の故郷へ連れて行ってはくれないか?」


 ハッ、何を言うかと思えば。


「故郷へって、アンタはもう死んだ身なんだぞ。故郷に帰ったとして、家族と共に暮らす事なんて出来ない。死体だけで家族の元に帰って、何の意味がある?」


「……確かに、同じ時を過ごす事は叶わない。私の時間は、既にあの日止まったのだろう。リースの奴に刺された、あの瞬間から」


 話をする時はいつも目を合わせてくるリブが、その時ばかりは顔を伏せた。

さすがに自分が死んだ事には、思うところがあるのだろう。


「それでも、私は故郷に帰りたい!どうせ死んだのであれば、慣れ親しんだ故郷の土で眠りたい!家族のいる、心安らぐ場所で!そう思うのは至極真っ当だろう!」


 確かに、普通ならそう思うかもな。

だからこそ、死んだ人間の想いを無視して、死体をいいように扱う死霊魔法師が、外道って呼ばれるんだから。


「タダで聞けとは言わん!私が生前に貯金していた、家族の為の仕送り金を貴様にくれてやる!だから——」


「要らねえよ」


 黙っている俺に勝手な解釈をして、話を進めようとしたリブの言葉を遮る。

どれだけ必死なんだか。


 どんなに懇願されても、人の心を持った者と期待されても、俺は所詮死霊魔法師だ。

死者の意見なんか平気で無視して、死体を、死霊を、——死を弄ぶ。

倫理観やら良心やら、そんなものに配慮していたら、せっかく師匠が教えてくれた魔法の術を、無駄にしてしまうからだ。


「——道中で構わない。俺に剣の振り方教えろ」


 肩を落とすリブに、俺は条件を出した。

ゆっくりと頭を上げるリブは、驚いた顔を浮かべていた。


 そもそもコイツは、アンデッドとして扱いに困る。

コイツを手放すことが出来れば、師匠の元にも帰れるし、道中でコイツが生前身につけた技量を盗むことが出来れば、俺自身の強化にもなる。


 良い事づくしじゃないか。

何でもっと早く気がつかなかった。


 まあ、リブが今日まで言い出さなかったし、俺もアンデッドの考えなんか興味なかったし、気付きようは無かったろうけど。


 リブの顔が、驚きから歓喜の表情に変わっていく。


「あ……あぁ、分かった!私に教えられる事は、全て貴様に叩き込んでやる!」


「なら、契約成立だな」


 俺はリブに手を差し出した。


「リブ・リザレーヌ。アンタの死体、俺が故郷まで送り届けてやるよ」


「よろしく頼む。ネクロ・グレイブス」


 互いの本名を呼び合い、契約成立の握手を交わす。


 ここから先は、長い旅になりそうだ。

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