恋人という名のグレードダウン
私なりの意見を小説にしてみました。
「よ!久しぶり有名人!」
彼女は軽くからかうようにそう言った
「なんだよそれ笑 あんたも有名人だろ笑」
俺も軽くそして愛があるようにそう返す
俺と彼女は大学の同期だった
サークルとゼミが一緒だった
俺は1年留年してたから歳は俺の方が年上だった
SNSで誰でも有名になれるこの時代
俺たちもその1人だった
彼女はシンガーソングライターとして結構な知名度を誇っていた
有難いことに俺もトップと言われるようなYouTuberに上り詰めていた。
彼女は大学時代から天才と言われていた
大学ではかなりの有名人だった
俺はそんな彼女に大きな尊敬と少しの嫉妬があった。
でも仲は良かった
お互いの恋愛事情も学業の話も沢山した
彼女が失恋して泣いてるところも沢山見てきた
彼女のファンの子には申し訳ないが彼女のことは可能な限り理解している
彼女と出会って約10年。
産まれた赤ちゃんがもう高学年になるころである
「コラボ動画撮ったら?!せっかく2人とも有名人になったんだしさ」
そう大学時代の友人が言ってきた
「そうするかー」
そんな軽い気持ちだった
約1時間。2人で呑んで
大学時代のこと、売れてからのこと、ただくだらないことを語っていた。
すぐに急上昇に乗ったその動画は俺たちの関係性と仲の良さを皆さんに知ってもらういい機会だった。
「この2人絡み合ったんだ!」
「1番理想の男女の友情の形」
「ちょっと待って我得なんだけど」
「え、この関係性エモくね?」
「素で喋れる異性の親友って感じで、心底憧れる」
コメント欄を眺めて少しニヤける
すぐに100万再生され200万再生まで時間の問題だろうというところまで来ていた
「この2人絶対付き合ってて草」
「まじで好きだった時期あったんだろな」
「え、元カノ?」
「好きな人を見る目してるやん笑」
「もう付き合っちゃえよ笑」
「数年後に結婚発表されたらまじ喜ぶわ」
ん?思ってた反応と違うな
そう直感的に思った
まぁ有名税かそう割り切って2人が付き合ってるくだりを笑いに消化していく
一応売れた実績があるし結構な有名大学出身だ
立ち回りの仕方はわかっている
「2人の仕事のオファーがすごい量来てますよ!」
マネージャーが楽屋でそう言ってきた
「そうだな、カプ厨に好き放題されるのはやだから慎重に仕事選んでいこうか」
そう笑い混じりにでもどこか強気に話す
「あのさあの子と付き合ってんの?笑」
先輩がからかうようにでもどこか真面目にそう聞いてくる
「付き合ってないですよ。ほんとにただの友達です」
そう少し無愛想にそう返す
「ふーん」
不貞腐れるように去っていった先輩の背中を見つめて少し幻滅する
「対談の仕事が来てますよ?しかも地上波!」
そうマネージャーからのいつもの言葉を
「どんな対談?」
っと慣れた手つきでさばいていく
「恋人と友達の優劣が大枠の対談ですね。3人で対談するっぽくて対談相手は…あー今朝ドラ出てる女優さんか今注目されている人ですよ!
あと一人はえーと…」
恋人と友達か
対談相手の女優なんて気になることもなく
「受けるよその仕事」
そう力強く言った
「大学のメンツで呑んでるけど来る?」
そんなLINEが目に入り
「行く!どこで呑んでんの?」
っと気楽に返す
やはり大学の同期はとてつもなく居心地がいい
ハイボールを口に運びながらそう再認識していた
「じゃあ明日よろしくね」
そんな時に彼女が言ってきた
「明日?なんのことだ?」
「いや対談の仕事!明日でしょ?」
「ん?ちょっと待って!明日の対談って
もしかして!?」
「だから明日は私とあんたとあのー朝ドラに出てる女優さんの…」
「まじで!?」
「マジで!台本見てないの?」
「今日の夜見ればいいかーとか思ってた…」
「もーというわけで明日!よろしくね」
「おーまかせろー」
家に帰りカバンを無造作に放り投げる
机の上に山積みになっている書類から明日の台本を抜き出す
「えーっと出演者は…まじじゃん笑」
ベットに寝転び台本をペラペラとめくりながら目を通す
恋人と友達どっちの方が大切ですか?
そんな質問に真剣に考える
でも答えは決まっていることを知っていた
「初めまして!今日はよろしくお願いします」
ADさんの少し焦るような声とフロアDの真剣な声が飛び交うスタジオで彼女のそんな声が聞こえた。
「よろしくお願いします!今日めっちゃ楽しみにしてました!」
俺も今日対談するという女優さんに笑顔で挨拶する
「よろしくお願いします!お2人は仲がいいんですよね?」
そうふと聞いてきた
「そうなんですよ!大学の同期でもう10年くらいの付き合い?」
「そうだな18歳の時から知ってるからなー」
ごく普通にごく自然に会話が進む
「いいなー異性のこんな仲のいい友達!」
ふらっとした会話。
この会話が俺の力をいい具合に抜いてくれた
「じゃあはじめまーす」
対談が始まって30分
「恋人と友達どっちの方が大切ですか?」
そんな質問が飛んできた
彼女と目が合う
彼女は俺が今から言うことがわかっているような優しい笑顔を見せた
「俺は、友達の方が大切です。
恋人は別れたり結婚したり形が変わっていくものだけど友達は一生隣にいてずっとずっと友達であることは変わらないから」
俺の紡ぐ言葉は途切れることを知らなかった
「俺は恋人が友達に嫉妬することがこれまでに沢山あった」
俺は彼女の方に少し目を向けた
「でも友達の方が大切だから友達を優先してきた。今だから言えるけどこの考え方もこの決断も何も後悔はしていない」
俺の熱くなりすぎた主張に女優さんは少し身を引いたが彼女は強い眼差しを俺に向けて頷いている
俺は彼女の方を見て話を続けた。
「例えば俺とあんたはさ付き合ってるとか正直好きでしょとかいっぱい言われてきたでもさ俺はこれまで恋人できたことももちろんあるけどその恋人よりもあなたの方を優先したし大切だと思って過ごしてきた。だって友達だもん
だから付き合ってるとか言ってるカプ厨にいつもムカついてた。
恋人とかいう変なグレードダウンすんなよって」
最後に少し自信がなくなって少し弱気にはなったけど言いたいことは言った
すると彼女が強く同情してでもどこか優しさを纏いながら言った
「わかる!私もさ恋人よりも友達の方が大切だからさ、でもここの優劣というかそういうのはさ人によるから恋人より友達の方が大切だ!優先するんだ!っていうのが納得できないんだろうね
世論というか全体で見たら友達よりも恋人だろって言う人の方が多いだろうしね」
彼女の文章能力とか俯瞰で見ている目はいつも尊敬するそう心のどこかで感じていた
隣で俺たちの言葉を聞いていた女優さんが口を開いた
「私は友達よりも恋人の方が優先順位が高いです。というかそれが当たり前と思ってたというか学生時代も周りがみんなそんな感じだったし…でもおふたりの話を聞いて人によって優先順位がきっと違うくてだからこそ恋愛とか人間関係って難しいんだなと改めて思ったというかなんて言うか
ただお二人の考え方とかお二人の友情の形とかすごく素敵だなって思って
きっと見てるみなさんもどっちかに共感するかもしれないしどっちかはありえないでしょって思うかもしれない。第3の意見が出てくるかもしれない。でもきっと否定するんじゃなくて尊重できたらもっともっと生きやすいのかなって思ったり」
きっと言いたいこととかを必死にまとめて自分の意見をしっかり話してくれたそんな強い気持ちが伝わってきた
「俺も人それぞれ優先順位があってそれで色んな考えがあるそれでいいと思う」
その意見あってるよっと言うように言葉を付け足す
すると彼女も笑顔で話した
「いろんな意見があって色んな考え方があるからこそ人に自分の意見を押し付けてはダメってことだね」
綺麗にまとめた彼女の言葉をきいて
プロデューサーが合図を出した
収録が終了したようだ
「ありがとうございました!」
そんな言葉と共に今日という日が終わっていった
Twitter、今はXかそんなくだらないソーシャルメディアをフラフラと巡回する
「あ、あの対談今日放送されたのか」
何を呟いても何を言っても何をしてもネットニュースになるこの時代
あの対談もさっそくネットニュースになっていた
【恋人よりも友達の方が大事! 賛否の声】
ネットニュースが目に入るも見ても得ることはないだろうと判断し受け流していく
番組の公式アカウントを検索して引用リツイートする
「3人で恋人と友達の優先順位について語りました✌('ω')✌
TVerで配信されてるらしいので見逃した方とかもう一度見たい方は是非!」
そんな投稿をしてアプリを閉じる
「インスターインスター」
ちょっとテンションが高いのか鼻歌を歌いながらブルーライトを浴びる
Instagramを開いて収録の合間に撮ったオフショットを公開する
「みんなー今日の対談見たー?
収録の合間のオフショット公開!
めっちゃ楽しい収録でしたー!
TVerでも配信中らしいよ(*^^*)」
ふらふらと画面を操作して彼女や女優さんが投稿したものもいいねとRTしていく
「エゴサするかー」
最近は過激なコメントや意見が多すぎてしなくなっていたエゴサーチをふとしてみる
番組名を検索欄に打つ
「意外とみんな共感してくれてるじゃん」
少し顔が緩んだ
「あ、でもアンチはいるよなー笑」
何を言っても何をしても批判され粗を探されるこのネット社会
ネット社会だからこそ救われた人も人生楽しくなった人もきっといるからそれがいいか悪いかは断言できない
だとしてもこのアンチという存在。最近はファンチなんて言葉もできてるらしいそんなヤツらを正当化しようとは思わない。
そういうもんだと割り切りたい。
でも時々悲しくそして虚しくなる
どんなに批判コメントが来ても流す自分をどんなにアンチがきても挫けない有名人を
きっとテレビに出てる人、インフルエンサーは心が特別強いわけじゃない
中にはメンタル強いひともいるだろうけど画面の中の人も泣いてる瞬間がある
でもそう思わせない
慣れてしまったんだきっと
こういうもんだと割り切ってしまったんだ
アンチに慣れるって思ったよりも重くただただ重いそんな出来事なんだろう
そうときどき深く世間を俯瞰で見てしまう
今を生きる若者にただ願う
いじめやアンチが入り乱れる世界に慣れてはいけない
これが平常運転だと思ってはいけない
そんなネットに投稿したらアンチの餌になるようなことを考えてみる
番組が放送されてから3ヶ月。
いつもの日常は変わらない。
少し減ったが相変わらずカプ厨は俺らを付き合ってるだなんだと言っている。
普段は何も思わないがこの日は少しメンタルのネジがぐらぐらしていたようで
ふと文字を起こす
「まだ俺らのことを付き合ってるとか言ってんの?笑
俺は恋人より友達の方が大事って言ったろ?
変なグレードダウンすんな!笑」
投稿という文字を押す前に少し冷静になり
文字を消した
「こんなことを呟いてもアンチの溜まり場になるだけか笑」
そう思う
LINEの通知が鳴る
「今日飲みいこー」
彼女からだった
「行く!」
そう端的に返しスマホの電源を強く落としカメラを起動する
「おしっ!撮影するかー」
このネット社会。
そして多様性の時代。
いつもスタートは手探りのようだ。
読んで頂きありがとうございます!
どこかで共感してくださると嬉しいです!