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魂の祓い

「うっ、うわあああぁぁっっ!!」


奏司は叫びながら起きた。冷や汗が止まらない。

そして、吐き気が襲ってきた。奏司は飛び起きて、洗面台に走っていった。

嗚咽とともに、空の胃からは胃液しか上がってこない。腹の底から、もうこれ以上吐くものなどないのに、こみ上げる吐き気と胃がひっくり返るほどの嗚咽が続く。


悪夢だった。

まるで、自分と御子姫がからんで離れられないような、激しい性交。目に焼きつけろと言わんばかりに、延々と見せつけられた気がした。

豪鬼は奏司とそっくりな姿形をしていた。ただ豪鬼の方が若干一回り大きくがっしりしていた。御子姫と豪鬼の、組んず解れつの姿。


快感に身をよじり声を上げ続ける御子姫を、美しいと思っていた時もあった。

「おいで、奏司…」


「うっ…!!」

吐き気がまた襲ってくる。

おぞましい、しかし、美しい。抗いようのない、圧倒的な何か。

洗面所に座り込んでいる奏司は、目の焦点も合わず、肩で激しく息をしていた。


「大丈夫ですか」

いつもの発作のようだった。心的外傷と言えば聞こえはいいが、結局長い間、(ケガレ)のようなものに全身巣喰われ、少なからず父奨弥とつながっていた間に魂をも(ケガレ)そのものの影響を受けてしまったのだろう。


もし、もしも祓いができるとしたら、祓いの力が最も強いのは御子姫しかいない。その御子姫に異常なまでに拒絶を示すのは、御子姫の力に対してだとすれば理にかなっている。


本当に奏司を救い、この状況をなんとかできるのは、御子姫以外にはないだろう。

今はこの程度で済んでいるが、この先、この状態で、常世(とこよ)(ケガレ)を祓いに行っていたら、いずれ魂の穢れが進み、病んでしまう。

魂の腐食が始まっているのだ。でなければ、これだけの力を持つ者が、たとえ心的外傷だとして、短期間にここまで悪化するわけがない。


眴は奏司には内緒で、御子姫に会うことにした。

「眴が来たと?珍しいこともあるものじゃ。応接に通しておけ。着替えてすぐ行く」

御子姫は毎度、豪鬼への異形であるが故の、気に取り込まれてしまう(ケガレ)を祓うので、戦に出た後は休んでいることが多かった。


「何用じゃ」

応接に入るなり、御子姫は眴に用件を尋ねた。

「お疲れのご様子のところ、ご相談がありまして」

「奏司のことじゃろう」

「はい、魂の腐食が起きているのではと思いまして」

「魂か…」


御子姫は、眴から今までの一部始終を聞いた。大体のことは奏司と里長から聞かされていた。奏司は、一度だけだが奨弥の魂と魂とで対峙したことがある、眴はその時のことを御子姫に話した。

「奨弥の魂と己の魂とで対峙しやりあったというのか」

「はい、御子姫殿のことで、手を出したら始末すると」


眴が考えるには、その時すでに(ケガレ)となりかけていた、奨弥の魂に触れ(ケガレ)をもらってしまったのではないかというものだった。

「しかし、魂か…」

「御子姫殿の(みそぎ)場で、深く眠らせて、唱詞で祓えませんか」

「あの詞はとても強い。人に向けて発するものではない」

「奏司殿が使い物にならなければ、この先の戦は困難になります」


「しかし…」

「奏司殿がどれほど御子姫殿に心を囚われているかご存じないから」

「奏司は私よりそなたの方が大切なのはわかっておる」

「そんな上部(うわべ)のことはどうでもいいのです。

あの方は生まれた時から御子姫殿のものです、そういう運命(さだめ)の元にお生まれになったことはよくご承知のはず。それだからこそ、やらなければ、やってもらわねばなりません」


眴は御子姫に詰め寄って、きっぱりと言い切った。

「このままでは、御子姫殿はまた(つい)を失われることになりますよ。それも大変優秀な」

御子姫は眴を睨みつけたが、眴は引こうとしなかった。

「嫌な言い方をするな。祓うには豪鬼の輪紋の力が必要じゃ」


「はい、私も立ち会います。よろしければ洋巳殿も。二人の母御ですから。触媒として立ち会っていただきましょう」

御子姫は、顔色ひとつ変えず、淡々と話を進めていく眴に興味が沸いた。

「どうしてそうまで奏司のことに必死になる」


「輪響紋衆すべての未来のためです。御子姫殿と奏司殿には必ず子を授かっていただかねばなりませんので。それも健やかな」

「おもしろいことを言う」


御子姫は、眴の相談を引き受けることにした。三日後全員精進潔斎してくるように言った。最後に御子姫は眴を呼び止めると、しんがり船を追うアカメについてどういう見解を持つか聞いた。

「確実に船を沈める機会を狙っているのでしょう。アカメではなく別の(ケガレ)によって。しんがり船だけを狙っていると考えるのは危険です」



(となえ)言葉(ことは)は誕生日が来て本厄に入った。

通常、厄に入ると祓う力が半減するので、戦に出る回数を減らしていく。しかし御子姫と双子だけは他の者よりも段違いに力が強いため、厄であっても戦に出ていた。

最近の(ケガレ)は手強くなっていて、少し様相がおかしい。


「なあ、言葉。近頃の(ケガレ)、おかしい思わへん?」

「大きゅうなって、うちらの力の方が弱なってるんかも知らん」

「やっぱ、そうやんな。なんか、怖ない?」

唱と言葉が話しながら夕飯の準備をしていると、駆成(かいせい)がやってきた。

「運ぶものあったら持ってくよ。それと、兄さんが久しぶりに飲もうって」


「えっ…どうする?うちはええよ。唱は?」

「うん、ほかの人やったら嫌やけど、言葉やったらかまへん」

「今日のおかずやったら、ワインでもええんちゃう」

駆成(かいせい)が料理や食器をワゴンに乗せると、リビングまで運んでいった。


「双子やし、一緒なんちゃうんって言うた時の、覚えてはる?」

「「うんうん、あれ、おかしかったなあ、ごついなんやかや言わはって」

二人はちゃちゃっとつまみを作ってワインと持ってリビングへ向かった。

駿英が言葉が持ってきたワイン一式持って、テーブルへ置くと早速ワインを開けた。

「言葉ちゃん、こっちこっち」


「大丈夫?うん、駿英さん、やらしいから、あとで駆成(かいせい)めっちゃスゴいん」

こそっと言葉(ことは)が漏らしたことに、唱も思い当たる節があり笑ってしまった。

唱がお盆をテーブルの端に置くと、駆成(かいせい)が皿を取って真ん中へ置く。

「合鴨と水菜の、これ好きなんだ」

にこっと唱に笑いかけると、駿英が乾杯を急かした。


唱の対は駿英、言葉の対は駆成(かいせい)である。唱と言葉は双子で外見はよく似ているが、性格は真逆と言っていい。駿英と駆成(かいせい)は三つ違いの兄弟で、駿英が兄で二十二になる。皆お互いに(つい)となり祝言を挙げて二年が過ぎていた。その前からの付き合いがあるから仲はもっと親密だった。


双子は対同士、四人で大きな屋敷の一階二階で住み分けていた。時々こうして四人で集まって食事をしたり飲んだりしていた。そうこうするうちに駿英が思いついた遊びが兄弟で相手を取り替えるというものだった。結局双子も他所の誰ともわからない女とではないので、唱は渋々承知した。言葉は案外あっけらかんとしていた。駆成(かいせい)は兄の言い出したことなので、仕方なく承諾した。


今にして思えば、唱にとって時々のこの交代は良い結果をもたらした。駆成(かいせい)はやさしく気を遣ってくれるので、唱はみんなの輪についていけてほっとしていた。言葉にすれば、駿英はおもしろく刺激的だった。お互いに時々のこうした遊びは絶対に外へ漏れることのない、退屈な日常をおもしろくする、ただの遊びだった。


駿英がワインを一口、口に含むと隣にいる言葉(ことは)に口づけた。口移しでワインを飲ませると、自分も一口飲んだ。

「どお?口移しで飲むと美味しいでしょ、ドキドキして」

駿英は言葉の腰に手を回すと、もう一度ワインを口移しで飲ませた。

その様子を見つめる唱に、駆成(かいせい)は視線を遮るように、隣から覆いかぶさるように口づけをした。


「口移しで飲ませてあげる」

駆成(かいせい)はワインを口に含むと、唱を抱きしめて口づけした。少しずつ口の中へとワインが流れてくる。唱はごくりと飲み干すと、自ら駆成(かいせい)に口づけた。二人は駿英たちに見せつけるように、長く濃い口づけをした。


駿英と言葉はワインを飲みながら、料理を食べていた。二人はオモチャの話をしていた。

「俺の指テクとどっちがいい?」

駿英は着物の裾から手を入れると、ショーツの上から言葉の割れ目を刺激し始めた。

「そんなんわからへんわあ、駿英さん上手やさかい」

「したくなってきたでしょ」

「それは駿英さんの方と違う?」


音葉はくすくす笑いながら、ワインの入ったグラスを持って駿英にワインを飲ませると、口づけをしてワインを飲ませてもらった。

駿英と言葉を見ている唱に、駆成(かいせい)が着物の脇の八つ口から手を入れ、乳首を指で転がし始めた。

一瞬、唱はびくんとしたが、されるがままに身を任せながら、ワインを一口飲んだ。


「声が漏れちゃいそうやん」

「そっと俺だけに聞かせてよ」

駆成(かいせい)は唱を抱きしめ肩越しに、テーブルの向こう側に座っている言葉を見つめた。言葉は駿英に指で割れ目をいじられて、今にも声が出そうな顔をしていた。

四人でリビングにいる時の約束は、一物は入れないほかは何をしてもいい。したくなったらそれぞれ部屋に行く。


「ショーツ脱がせていい?俺、直接舐めたいなあ」

「あかん、もうすぐイってしまいそうやわ」

駿英は言葉のショーツを脱がせると、ソファに寝かせて着物の裾をまくり股を広げて舐め始めた。


「はん、ぁん…あん、ああん…」

言葉の声は、いつもより艶めかしく駆成(かいせい)には聞こえた。唱はずっと乳首を弄ばれながら言葉の声を聞いていると、自分もあそこがうずいてきた。

駆成は唱の帯を少しゆるめると、着物の襟を開け乳房を出すと乳首を舌で転がしながら吸った。そして、先程まで乳首をいじっていた手で、唱の割れ目の中にある芯をこするように指を奥へと忍ばせていった。


「あ、あかん…」

「ダメなの?違うでしょ、もっと奥がいいんでしょ?」

駆成の指が芯をこすりながら、(なか)の感じるところを突いていく。

「あああっ!あん!い、いいっ!」

「このままでいい?」

唱は首を横に振ると、切なそうに絞り出すような声で、イキたい…とお願いした。


テーブルの向こうの言葉は駿英にとろとろにされ、何度もイク、イク…と言いながら腰を振っていた。

唱は指で何度もこすられて潮を吹いていた。ぷっくり膨らんだ芯をこすられ、唱も腰を振っていた。

「こんなん、はじめて…おねがい、入れてほしい…」

唱と駆成はリビングを出て部屋へ行った。それを見た駿英と言葉も部屋のベッドで続きをすることにした。


二つの部屋からは、喘ぐ声が廊下へ漏れていた。そうしてお互いに事が終ると、今度は元々の(つい)で抱き合った。

どんなことをされたのか、どれほど気持ちよかったのか、想像するだけでじんじんと燃え上がり、いつもより何倍も激しくまぐわうのだった。



御子姫のところへ、眴が奏司を連れて訪れた。そこには、豪鬼を連れた剛拳と洋巳が待っていた。

「みんな…」

水垢離(みずごり)は終わっとろうな」

全員がそれぞれに白晒しの浴衣に着替えると、御子姫から離れへと入っていった。十二畳ほどの広さの(みそぎ)の部屋が狭く感じられる。


神棚の前の布団に、奏司は仰向けに寝かされた。眴が奏司の浴衣をはだけさせる。

奏司が眴を見つめる。祓いの手順は前以て打ち合わせされていた。

眴は奏司と嫌というほど話し合った。奏司はこれ以上避けては通れぬ、試練の祓いだった。眴が奏司に薬を飲ませてから、ゆっくりと一物を勃たせる。

「大丈夫ですから。これは祓いのためです」


眴は奏司の眼を見つめながら、強い薬によって眠りに誘っていく。御子姫は浴衣を脱ぎ捨てると、奏司の勃った一物を内に入れた。

「豪鬼、輪紋を二つ、大きく斜めに、奏司を囲うように」

御子姫は響紋を繰り出していく。人に向けて輪響紋の術など使ったこともなければ唱詞もない。


御子姫は祓詞をゆっくりと唱えつつ、魂の行方を追っていた。(ケガレ)に触れてしまったかのような、奏司の魂。



高天原(たかあまはら)神留(かむづ)まり()


神漏岐(かむろぎ) 神漏美(かむろみ)命以(みこともち)


皇親神伊邪那岐乃大神(すめみおやかむいざなぎのおおかみ)


筑紫(つくし)日向(ひむか)(たちばな)の 小門(おど)阿波岐原(あはぎはら)


禊祓(みそぎはら)(たま)ふ時に 生坐(あれま)せる 祓戸(はらへど)大神等(おほかみたち)


諸々の禍事罪穢(まがことつみけがれ)を (はら)(たま)ひ (きよ)(たま)ふと 


(まを)(こと)(よし)


天津神(あまつかみ) 地津神(くにつかみ) 八百万神等共(やおよろずのかみたちとも)


()こし()せと (かしこ)(かしこ)みも(まを)



はらえたまえ、きよめたまえ、かむながら守りたまえ、さきわえたまえ」



ーー白い、どこまでも白い、空間に一箇所だけ常世の闇のような、ケガレか…?


「どうか、私に、奏司をお返し下され、常世の神よ」


吐普加美依身多女(トホカミエミタメ)


御子姫は唱詞を発した。

「それじゃ、祓えないよ」

小さな子供が御子姫に近寄り手を添えると、輪紋と響紋を繰り出した。

輪紋に吸い込まれた響紋が輪紋から出てくると二つは溶け合うように絡み合って一つになった。

吐普加美依身多女(トホカミエミタメ)

輪紋と響紋が一つになった光が闇を祓い、ただ白いだけの空間となった。


ーー誰じゃ


「…さん、を…」

声が遠ざかり聞こえなくなってしまった。現れた子供には輪紋と響紋と二つが刻み込まれていた。

御子姫は意識を失った。

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