御子姫の帰還
幾度となく、御子姫の元へは響家本家へ戻るよう連絡が来ていた。御子姫はそれをすべて無視していた。
剛拳と豪鬼は、自分たちが動けば戻る気になるかもしれないと、戦人の里に引っ越すことに決めた。養い親たちは寂しくなると泣いていた。
屋敷の方では、洋巳と奏司が到着を今か今かと待っていた。戦人の里は壁で囲われた中にあった。門を開けてもらうと、久しぶりに剛拳の顔を見て門番は嬉しそうに挨拶をした。門番は奏司が建てた新しい家をよく知っていて、壁沿いにまっすぐどん突きだと教えてくれた。
到着すると、さらにもう一回り壁に囲われた門のところで奏司が出迎えていた。
屋敷の入り口まで車を回すと、洋巳が出てきた。豪鬼は大きな家になかなか入ろうとしなかった。しかし、家の奥から料理の匂いがしてくるのに気がついて、ごはん?と聞くと荷物を運び始めた。
洋巳は座敷の机へ焼肉の準備を整えて待っていた。
「長旅お疲れ様。まずはお腹いっぱいご飯食べてね。奏司もしばらくいるから」
剛拳は食事をしながら、造船所の隣接地に建設中の建物のことを聞いて驚いた。
「もしや、もう実行に移されていたとは驚きです」
「御子姫待ってたら何も進まないからね」
座卓の上には七輪が置かれ、豪鬼が嬉しそうに肉を焼いて食べていた。他にも洋巳が作った料理が並び、剛拳は美味しそうにビールを飲んでいた。
奏司は図面を出してきて、新しく建設中の運動施設にはプールもあり、トレーニングジムも作ったことを話した。一番は何より、豪鬼の大好きな相撲の練習施設と土俵まで作ったことが自慢だった。
奏家の近くの空き家の住居は、一階部分は改築して飲食店風に、奏家の男たちがいつでも気軽に食事が取れるように整えた。それぞれには奏家の女たちが、何人か二階に住んで暮らしていけるようにした。
「奏家本家まで大改築されてらっしゃるようで驚きました」
「風呂と禊場が狭いと聞いてたから増設した。鍛錬場は体育館を使ってもらうようにして。一応板間は残してあるけど。穢の研究室を作ったんだ」
「御子姫殿が戻られたら卒倒されますぞ」
「そうだね、この前自分がいない間に好き放題している件も、併せて謝罪したと言うつもりだから」
次々と穢、特にアカメを祓うための対策が講じられていた。今、引退した者の中から戦強者を選び出し、大砲の特訓に入ろうとしていた。
そして、御子姫の構想として伝え聞いた、大砲二連、奏司と豪鬼との。それをなんとか現実のものにできないか考えていた。豪鬼は俺となら組んで、御子姫の連弾ができるだろう。
外部からやってきた車が駐車場に止まる音がする。眴が遅れてやってきた。戦の件で御子姫の返答待ちの書類を、一纏めにして持ってきた。とにかく至急案件だ。
「響家本家まで持っていけばよかったのに」
「すみません、響家は苦手でして。帰りに寄りますので、よろしくお願いします」
「食後に豪鬼とチェスやる約束してて。終わってからじゃないと…」
「泊まっていくんじゃないの?」
「誰が第二の新婚家庭に泊まってくんだよ」
「奏司殿!」
剛拳が真っ赤な顔で奏司を見ている。そこへパーンと軽くトレイで奏司は頭を叩かれた。
「奏司、いい加減にしなさいよ!」
「しなさい」
豪鬼まで笑って真似をする。
「本当に、豪鬼と剛拳が母さんと一緒に住んでくれて嬉しいよ」
「いやいや、よく考えたら洋巳殿には助かっておりますよ」
「…殿、なんだ」
「豪鬼はなんて言うかわかるよな」
「そうし、母さん」
「豪鬼も母さんだよ」
「ごうき、母さん」
「そうそう、母さんだよ」
奏司が豪鬼に教えていると、洋巳がぽろぽろ涙を流している。
「母さん、なく、ダメ」
「いいんだよ、嬉しいから泣いてるの」
困った豪鬼は剛拳の方を向くと、剛拳まで泣いていた。
「豪鬼、チェスでもしよっか」
喜んでチェス盤を持ってきて勝負が始まる。食事を終えると、眴が観戦にやってきた。
「おや、奏司さん、押されてますね、チェックメイトじゃないですか」
「あーっ!言っちゃダメだって!」
「もいっかい」
豪鬼が嬉しそうに駒を並び替える。
ほんの少し前、失意のうちに一人ホテル住まいだった頃には、思いもかけなかった光景に、奏司は嬉しくてたまらなかった。御子姫が帰ってきても、これが続くよう自分が努力しなければと思っていた。
その御子姫は、帰ってくるのを随分とごねているようだった。
電話があり、双子が対も揃って、祝いの品を持って来るという。何やら相談事もある様子だった。
「この度はおめでとうございます」
二本縛りにした日本酒を持ってきて、どうやら男連中は飲む様子だった。
食事は済ませているので、久しぶりに剛拳と酒が飲みたいと。座卓を囲んだ。
唱と言葉は、お茶菓子とお茶が出されていた。
眴から預かって、至急案件を、奏司は唱に渡した。
二人は奏司を見るなり深々と頭を下げて詫びた。
「どうして、二人が謝るの、やったの御子姫じゃん」
「実は私供は、母から姫様のお目付役を仰せつかってまして…」
どうやら、双子の母は、御子姫を育てた祖母の妹の家系で、祖母が病気で亡くなってからはずっと御子姫を支える家筋になっているようだった。
「うちの母、まあえらい怖いんです。姫様のこんじょわるなとことか、よう知ってはって、今回もえらい怒ってはって…」
「母は、奏司さんのことえらい気に入ってはって。年下の婿はんをまあえげつないいちびり方して、って激オコなんです」
双子はキャラキャラ笑いながら、二人揃って大きなため息を吐いた。御子姫至急案件も、本当なら自分たちでサッサと済ませたい様子だった。
「明日、母がこっちへ出て来はるんです。そのまんま、一緒に異形の里へ行きますの。姫様、ごっつう叱られはると思います」
「あっそう、なに?ラスボス登場みたいな?」
「笑いごとちゃいますけど、ほんま難儀なことなりそうで…」
「あっそう、俺、挨拶しに行った方がよくない?」
唱と言葉は顔を見合わせて、どうするか話し合ってから、その方がいいかもということになった。
駿英と駆成は新しくできる運動施設について、剛拳と話が盛り上がっていた。
「奏司さん、俺筋トレマニアの仲間多いんで、マシンのこと聞いてもらっていいですか」
「それならいっそ、駿英さんに任せてもいい?図面見て、お願いするよ」
「こっちの広い方はどうするんですか?」
「まだ全然決めてない。なんかいい案があったら駆成さん出してよ。一応、トランポリン入れようとは思ってて。戦の時に飛び上がったりするじゃん。そういうのを練習できたらいいなと」
「了解です、俺も仲間に聞いてみます」
豪鬼が眠たそうにしているので、今日はこの辺でとお開きになった。
さて、双子の母、御子姫から見れば叔母であるが、御子姫は叔母が何より苦手であった。一番の後ろ盾ではあるが、とにかく口煩い人物であった。
突然、その叔母が双子と共に、異形の里から動こうとしない御子姫を諌めにやってきた。
「姫様、お久しゅうございます。どないですか、聞いた話より、まあえらいお元気そうで、よろしおすなあ」
御子姫は双子の方を見た。二人は最後の手段とばかりに知らん顔していた。叔母は書類袋を御子姫に渡すと中を見るように言った。
「なんですか、これは。ようまあこないぎょうさんとためはって。せんぐりお願いしても放してはるそうやないですか」
確かに、双子ではできない決済ばかりが残っている。言い訳のしようもない。
「見かねて代わりにしてくれはった奏司はんに、聞くところえろうえげつないいちびり方しはったそうやないですか。ほんましゃっちもない」
叔母は御子姫にはっきりと命令した。
「お早う、帰りよし。まだ駄々こねはるんなら、うちはもう、かなんさかい。金輪際…」
御子姫は苦虫を噛み潰したような表情をして、黙って叔母に従った。
双子は荷物をまとめて後からすぐ追うのでと、二人を先に待っていた車に乗せた。一緒の車の中で、御子姫は戦人の里に着くまで延々と説教され続けた。
奏司と眴は用事があるということで、街へ出ていた。総代の仕事もあれば、何より奏司は学生だった。
二人は別々に行動し、昼過ぎにマンションで落ち合う予定にしていた。
先にマンションに帰った奏司は電話がつながらないよう切っておいた。あの様子だと、今日中に御子姫は本家へ連れられ戻ってくるかもしれない。
今日だけは奏司は誰にも邪魔されたくなかった。
本気で抱いてくれと、そう眴にねだっていた。どういう意味かわかって言っているのかと言われた。
奏司は大学の課題をやりながら、ぼんやりと外を眺めていた。この部屋を気に入っていた。一人で考えを巡らせるには、広さや外の景色がちょうどよかった。
玄関のドアを開ける音が聞こえた。
「おや、早かったですね」
眴はいろいろ荷物を持って帰ってきた。キッチンへ行くと買って来たものを冷蔵庫へ入れていた。
「それなに?晩ご飯?なんにも思い浮かばなかった」
眴は風呂に行くとバスローブを用意したり湯を張ったりしていた。無言でそれを見つめているだけの奏司に、眴はソファの隣に腰かけた。
眴は奏司の方を見ながらネクタイを緩めると、顎に手をのばし口づけた。
「どうかしましたか?」
奏司は口づけに応じると、しばらく眴に身をあずけた。
「ここで二人で暮らせたらいいのに」
「上着をかけて来ますよ」
眴は脱ぎっぱなしの奏司の上着とネクタイを持つと、部屋に入っていった。
昼下がりの日差しは、気がつくと陰の角度を変えていた。
「お昼は食べましたか?」
奏司は首を振った。
「お風呂に入ってゆっくりしましょう。いろいろ食べる物も買ってきたので」
奏司は立ち上がると、眴の肩に腕をのばすと長い口づけを交わした。
「眼帯取って。眴のこっち側の黒い目が好き」
瞳の奥を覗き込む、吸い込まれそうな黒い眼差しを知っているのは、多分自分だけ。奏司はそう思いたかった。
「ズボンも脱いで下さい。片付けてきますから。シャツはかごに入れて下さいね」
そういえば…と奏司は思った。風呂で湯をかけて以来、眴は濡れても肌が透けて見えないよう濃い色合いのシャツを着るようになった。
「入りますよ」
ただもう、奏司には肌を見せることをためらうことはなくなっていた。
髪を洗う眴に、奏司は自分以外にも常世の眼を見せたことがあるか聞いた。
「聞いてどうするんですか」
髪を洗い終えると、眴は奏司の髪を洗い始めた。
「いいよ、自分でやる」
「そうですか、何か今日はぼーっとされてるので」
シャンプーを取ろうと棚を見ると、見慣れぬボトルが置いてあるのに奏司は気づいた。髪を洗いながら、奏司は、そのボトルが何か聞いた。
「ローションですよ」
「あ…」
「したかったら、いつでも言って下さい」
そんなことをしれっと言われて、奏司はゴシゴシ頭を洗い続けた。クスクスと眴は笑いをこらえながら、奏司の頭にシャワーをかけた。
「想像したでしょう」
奏司の物は勃ちかけていた。
「するつもりがあるなら、先にお尻の穴の中を洗っておいた方がいいですね」
眴はシャワーヘッドを取ると、ぬるま湯を出し奏司にやり方を教え数回繰り返すよう言った。
「えっと、ちょっとタンマ」
「やめておきますか」
「眴は?」
「えっ、私ですか?やったこともない人にいきなり入れられるのは嫌です」
「だって俺」
「女の人のソレとは違うんです、それに…」
眴は奏司の前髪をかきあげると、覆いかぶさるようにキスをした。
「私は抱く方が好きなんです」
眴は奏司を立ち上がらせると、舌をからめとるように、深いキスをした。
もう穢擬を吸い込む心配がないので、眴はゆっくりと深く深く、何度も舌をからませては吸い上げるようにキスをしていた。奏司はそれこそ立っていられないほど頭の芯がクラクラしていた。
眴はローションを取ると手のひらで温めながら、ぬっとりと奏司の一物から袋まで包み込んだ、頭の部分までゆっくりと指で撫で上げ、袋の裏筋をやさしく撫でては、肛門の周りを愛撫してゆく。
奏司は立っているのがやっとになってくると、腹這いに湯船にもたれかかった。
「はあ…は…ああ…」
息遣いが激しくなっていく。袋の裏筋の付け根を刺激されながら、少しずつ指が肛門周りを刺激し、もみしだいてゆく。
「ほら、自分の手でゆっくりしごいてみて下さい、気持ちいいと思いますよ」
奏司は自分で根元をしごいていた。眴の舌が背中をなめ、指は少しずつ肛門の中の方へ入っていく。ちょうど中からと表から刺激され、なんとも言えない、快感なんだろうか、ゾワゾワしたものが背中を伝わっていく。
眴の指先が一物の先の方を刺激する。一箇所だけでなく、何か所も同時に快感が襲ってくる。
「はあ、は、ああ…はっ、はっ、ああぁ…l
眴は自分のものにローションをなじませていくと、ゆっくり頭の部分だけ、奏司の中に入れた。自分の物をしごいていた奏司の指と自分の指をからませると、二つの手で奏司の一物を包み込むようにしごいた。
奏司は湯船の淵にもたれかかったまま、自分の指に舌をからませていた。
「キス…して…」
「もう、入っていきますよ」
眴はゆっくり入れると頭の部分で、中から硬くなった袋の内側を突いて刺激した。
奏司はびくんびくんと体を震わせると、指の時とは違って叫び出したくなりそうな感覚が貫く。
「あ、はあ、ああ、もう、あ…ダメ…もう、もう…」
「イキそうですか?どこがいいですか」
「さっきの、ココですか?」
眴がそう言って突くと、奏司の声が漏れ、体が快感で脱力していくのがわかる。眴は奏司の一物をしごきながら、袋の裏筋を刺激したりしてから、入れた自分の物で何度も中から硬くなった部分を突いた。
「あ、はあっ!ああっ!あっ!あ…っ!」
奏司が自分の手の中でドクンドクンッ!とイク感触が、眴にはたまらなかった。眴はそのまま、自分も根元を、しごいて、奏司の中で奏司を抱きかかえながらイった。
眴は愛しむように何度も何度も、奏司の背中に口づけていた。




