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常世の眼

結局、直接御子姫と話し合うほか、(らち)が明かないので、奏司は一人、異形の里へ向かっていた。

里長には前以て連絡は入れておいた。里の入り口で待っていてくれたのは、豪鬼と剛拳だった。豪鬼は喜んで飛びついてきた。車のトランクを開けてもらうと、いつも通りにクーラーボックスを担いで持っていった。


奏司は里長の家へ挨拶に行った。里長とは将大の話になった。

「今回は将大殿も、ご高齢に関わらず思い切った事をなさっていらっしゃいますな」

奏司は静かに頷いた。確かに、七十過ぎには過酷な精進潔斎だと思った。

「御子姫は、会えそう?」

「お待ちでございます」


あれからどれほど経っただろうか、御子姫はまだ布団を敷いたまま養生している様子だった。それほど体調が良くないのか。奏司が声をかけようとしたところだった。

「ようもまあ、今頃のうのうと、やって来れたものよ」

それくらい言えるのなら元気だろうと、奏司は近づいて傍に座ろうとした。

「元気そうで…」

「寄るな!」


御子姫の奏司を見る目つきは、里を後にした日と変わらず、何か汚いものを見るようなものだった。

仕方がないので、なるべく顔を合わせずに済むよう、奏司は隣の間の離れたところに座った。座った途端に、御子姫がきつい口調で責め始めた。


「里に家を建てておるそうじゃな。私になんの相談もなしにか、よくそのようなことができたものじゃ」

「相談するつもりだったよ。間が悪かったんだ、あんなことがあって」

「私のせいにするのか!」


「そうじゃなくて。話す機会がなかっただけで、悪かったと思ってるよ、勝手に進めて。でも話ができる状態じゃなかったし。もう時間もなかったし」

「うるさい!結局、私のせいじゃろ!」

「じゃあ、どうしろって言うんだよ」


御子姫は黙った。そう言われたところで、返す言葉が見当たらない。

「本当はあの日、ゆっくり話す予定だったんだ。母さんの身元引受人になった。もうすぐ、刑務所から出てくる。一緒に暮らすつもりだ」

「なんじゃとっ!!あの、洋巳とかっ!!」


「俺の母さんだ。わかってるじゃないか。そりゃ、殺されそうになったのは覚えてるよ、けど…」

「それで家を建てておるのか。呆れたわ。里に住まわせるのは許さぬ」

「わかったよ。だけど、剛拳にはとっても会いたがっているんだ。剛拳と会わせるくらいいいだろ。それに豪鬼も」


「なんじゃと、今なんと言った。豪鬼と会わせるじゃとっ!?」

「ああ、鬼の子だからって、生まれてすぐ取り上げて里に預けたんだろ。豪鬼も大きくなったんだから、一回くらい会わせて…」

「ならぬ!だめじゃ、だめじゃ!」

御子姫は何を言っても、ことごとく許さぬの一点張りだった。


「あのさ、母さんも刑務所入って、しっかり罪も償って、それに病気にもなってるし、俺しかいない…」

「病気なら病院へ入院させておけばいいじゃろ」

ムカッとした奏司は、思わず触れずにいた父奨弥のことを口にしていた。

「父さんみたいにか、それで本家に置きっぱなしにして、人任せにして、どうなったよ」

御子姫はあの事を思い出させられて、声にならない悲鳴をあげた。


「自業自得なんだよ、なんでもすぐに人任せにするから」

「やめてーっ!!」

御子姫の切り裂くような声に、遠く離れた里の奥の家から豪鬼と剛拳が走ってきた。

奏司は落ち着いた様子で、二人に説明した。

「ちょっと言い争いになっただけだよ」

里長が戻ってきて、奏司に少し外すよう促すと、御子姫を一生懸命なだめていた。


奏司は豪鬼と剛拳に連れられて、家の方へ向かった。

「何を話されていたんですか」

「母さんのことだよ、もうすぐ出てくるんだ。一緒に暮らすことにした。そしたら、ダメだって、病院へ入院させておけって、ヒドくね?」

奏司は平静を装っていたが、相当頭に来ているようだった。


「それで余計なこと言って。でもたった一言、父さんみたいにかって。それであんな声出されたら、もうムリかな」

「それだけ、心の傷が深いということです」

「仕事もできないくらい?」

剛拳は頷くと、困り果てた顔をしていた。


「里へもまだ戻れません。響家本家へも、奨弥殿の記憶が残る場所ですので、無理なようです」

「そうだろうね。俺のことも凄い目で見てたよ。穢れたものでも見るような」

奏司は仕事を代わってやってもいいが、どうせ後から文句を言われてやり直すことになるだろうから、最初から任せたいと言い切った。

「俺もそんなに暇じゃないんだ。また来るよ」


豪鬼が強引に腕を引っ張って、ごはん、ごはん!と奏司を引き止めた。豪鬼が抱きついて離れないので、あきらめてご飯を食べてから帰る約束をした。

奏司は何か困ったことがないか、剛拳に聞いたが特に…と返ってきた。

ご飯を食べながら、豪鬼がチェスをやりたがった。まだ奏司とはほとんどやっていない。夕方に車が来るまでなら、と食後に相手をすることにした。


すると、チェスをしながら、ナイトの駒を持って豪鬼が妙なことを言ってきた。

「ごうき、ひめ、いっしょ、ケガレ、たおす。ごうき、ついなる」

「豪鬼、(つい)って言った?」

「ごうき、ひめ、ついなる。ひめ、いった。ついなる、たたかう」

奏司は立ち上がると、里長の家へ走った。


戸を開けるなり、奏司は奥の間の御子姫に聞こえるように大声で怒鳴った。

「御子姫ぇーっっ!!」

里長が止めるのも振り切って、奥の間まで行くと御子姫に食ってかかった。

「おまえ、豪鬼をなんだと思ってるんだっ!!

おまえは戦のことになると、やり方が鬼なんだよっ!!

何が戦頭領だよ、頭領ってのはそんなもんじゃないっ!!

人を戦の道具にしか見ることできないんなら、おまえもアイツと同じだっっ!!」


「アイツじゃと…」

「名前が聞きたいかーっ!!」

ひっ…と顔を伏せる御子姫に、奏司は釘を刺した。

「おまえ、豪鬼になんかしたら、ブッ殺すぞ、いいなっっ!!」

いくら御子姫でも、自分のあずかり知らぬところで、豪鬼に何かあったらと考えると、奏司にはそれこそ許し難かった。



奏司は自宅マンションに帰ると、誰もいないと思っていたところ、眴がいてくれたことが嬉しかった。

「泊まってくるかと思っていました、何かあったんですか」

奏司は怒りが収まらず、御子姫との間に起きたことを、延々と話していた。眴はそのマシンガントークを口をはさまず聞いていた。


「奏司さんは、御子姫殿のことになると本当に真剣ですね。それだけ、御子姫殿は奏司さんの心を捕まえているということでしょうか」

「そんなふうに取らないでくれる?俺はとにかく、もう何もかもが嫌で話してるんだから」

「そういう時は普通は無視するものですよ。いつも心を占めているのが御子姫殿なんです。だから怒りもするし、こんなにたくさん話したりするんじゃないですか」


奏司は思いもかけないことを言われ、一瞬動揺した。そう言われてみれば、初めて会ったあの時から、いつも心の中には御子姫への想いがあった。それは父奨弥のものだとずっと思っていた。

「俺は…」

眴の言う通り、これだけ離れていても、良い感情も悪い感情も、好きな想いも嫌いな想いも、どんな時も絶えず心を占めていたのは御子姫のことだった。


「ねえ、眴。俺は眴に会いたくて一生懸命帰ってきたんだよ。どうしてそんなこと言うの」

「そうですか、それは光栄ですね」

奏司はむくれた顔をして、ソファに座る眴の脚に頭を乗せて寝転んだ。

「俺はこうしているのが心地いい」

奏司は手をのばして、眴の顔に触れた。眴はその手を取って、指を軽く噛んだ。


「奏司さんは、こうして今、私に甘えているように、御子姫殿に甘えていたはずです。急に立場を逆にして、大人になり急がなくてもいいのではないですか?」

「だって、俺が守ってやらないと、御子姫は戦以外何もできないから」

「本当にそうでしょうか、響家の女はそんなにヤワではありませんよ。奏司さんは、大人ぶって甘やかしたから、こうして苦しくなって、私に甘えているのでしょう?」

「もういいよ…」


「これは、ちょっと言いすぎました、すみません」

泣きそうな奏司のおでこに、眴はやさしくキスをした。

「そこじゃやだ」

眴は微笑んで、奏司の唇をやさしく包み込んだ。


しばらく、奏司が欲しがるまま、眴は幾度もキスをしてやっていた。

「はい、そろそろ湯に浸かって疲れを取って寝て下さい」

眴はそう言うと、湯船に湯を張りにいった。

「眴、一緒に入ろうよ」

「いえ、私は…ちょっと…やめなさい」


風呂場から出て行こうとする眴を、奏司は強引に服を脱がせようとした。服に湯がかかり、濡れたブラウスシャツからは透けてところどころ痣のようなものが浮かび上がった。

「眴、それ…」

「だから、やめるよう言ったんです。見苦しいものを…」


「見せて、それって紋でしょ」

「お見せできるようなものではありません」

「いいから、見せてよ。なんで隠すの」

「恥ずかしいからですよ」

「そうやって、俺にも隠すわけ!?」

眴はため息をつきながら、困った人ですね…と濡れたシャツを脱いだ。響紋が茶や赤く、ところどころにまだらに入っていた。


「もう、いいですか」

「だから、一緒に入ろうよって言ってるじゃん」

「…あの、いい加減に…」

「そうやってずっと隠し続けるの?俺にまで?」

眴は、いつもと変わらない真剣な眼差しに、根負けして服を全部脱いで入ってきた。


白い体には、ケロイドのように響紋が浮かび上がっていた。通常、紋は黒くくっきりと体に刻み込まれるように出る。眴のそれは不完全で、まるで何かの傷痕のように見えた。

「醜いでしょう」

「そんなこと…」

「これが、私が常世(とこよ)の眼と引き換えに得たものです」


「それなら、余計に恥ずかしがることなんかないよ、眴の力がなかったら、俺は(モドキ)に巣食われたままだ」

奏司は、眴の胸に浮かんだ紋に口づけた。ところどころ浮かんだ紋に口づけながら、奏司は眴の一物を口に含み、根元をしごき始めた。

「はあ…まったく…物覚えのいい子ですね…」


眴は体が冷えてきたので、奏司に一緒に湯船に入るよう誘った。眴は先に入り、後から入ってきた奏司を抱きとめた。そして、勃ってきていた奏司の一物を、やさしくゆっくりしごき始めた。

「私のを舐めながら勃っていたでしょう?」

奏司は体を傾けて、眴に口を開け舌を差し出した。眴は唇で包み込み舌を吸った。奏司からは吐息が漏れ、舌をからませていた。


眴は、奏司に立ち上がって浴槽の淵に手をかけるよう言った。お尻を自分に向けさせると、お尻の穴の周りを舐め始めた。奏司は片手で腰を抑えられ、片手で一物をしごかれていた。眴のとがった舌先が肛門を刺激する。

「あっ!あ…あぁ…」

喘ぐ声が反響する。自分の声を聞いているだけで、不思議とゾクゾクする。


肛門周りから袋の裏筋を舐められて、奏司の一物は腹につくくらい硬くそそり経った。袋もキュッと硬くなっていく。肛門周りを舐めながら、眴はゆっくり指を入れてほぐしていく。

「はぁ…はっ、はあぁ!あ、はあ…ああっ!」

「「イキそうですか?」


「は、はぁ…入れられるの?」

「そうですね。入れられたいんですか?それなら、今度準備しておきます」

「準備?」

「そうですよ、だから今日はおとなしく、自分がイカされる姿を見ていて下さい」

「はあっ!い、あ、ああっ!」


奏司は頭を下げて、腹の先にそそり勃つ物をしごいている眴の指を、自分がしごかれている姿を見ただけでイキそうになった。

「はっ、はっ、あ、ああぁ、っ…はっ、もぅ!い、いっ…!あっ…!」

自分のイク声だけが風呂場に反響する。

「はっ、ああっ!イクッ!」


精液がビュッ!ビュン!と、しごかれている指の動きに合わせて飛び出てくる。同時に眴は(ケガレ)(モドキ)を取り出すと、風呂の床に投げ捨てた。

「祓って下さい、奏司さん?」

「あ…」

眴は奏司にシャワーで水を浴びせた。


奏司は(モドキ)を祓うと、そのまま風呂の床に水を流し続けた。自分も水を浴び、二人一緒に湯船から出て水垢離(みずごり)をした。

「大丈夫ですか?のぼせましたか?」

「ちょっとね、気持ちよすぎて」

二人は体を拭きながら眴の部屋へ行くと、裸のまま抱き合って眠った。

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