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ケガレのようなもの

奏司は朝早く異形の里を去った。スーツに着替え袖からチラッと見える、手首の捕縛した跡が痛々しかった。

奏司は里にいる間に御子姫に話したかったことの一つ、洋巳に面会に行った。奏司は仮釈放の間、自分が面倒をみることを話した。


「戦人の里か…なつかしい。私なんかが住んでも問題ないの?」

「何言ってるの。俺と一緒に暮らそうよ。新しく家を建てるから」

「そうね、家か…剛拳は元気かしら」

「剛拳?母さん、剛拳のこと知ってるの?」

洋巳は穏やかな表情をして、里にいた頃の話をした。


剛拳と対だったこともあること、剛拳が健在で今、対がいないのなら、できれば剛拳と一緒に暮らしたいと。

「今思い出すと、剛拳と一緒だった時が一番幸せだった…」

「母さんが神守となって街に出る前のこと聞くの、初めてだね」

「そうかな…里ではいろいろあってね。母さんね、実は…異形の子を産んでしまって、赤ん坊は取り上げられちゃってね」


淡々と話す洋巳だけど、子供の話になると涙ぐんだりした。

「異形の子を?剛拳と?」

「剛拳の子ではないんだけど、一緒に育てようって言ってくれて」

「でもね、生まれてきたら、鬼の子だったの」

「鬼!?」

「アハハ…信じやしないよね」


鬼の子と聞いて、奏司は動揺した。剛拳が父親代わりに育てているのは、豪鬼だ。

まさか、豪鬼を産んだのが母洋巳なら、兄弟ではないか。


洋巳は、もう父奨弥への未練はないと言った。

「離れて落ち着いて考えたらね、なんか母さんいいように利用されていたんじゃないかって思うのよ」

「里には父さんもいるけど、大丈夫?」

洋巳は力なく笑った。結婚して籍を入れてくれるという約束だったが、もう終わったことだと。今思えば、最初から結婚する気などなかっただろうと言った。


「奏司がいてくれたら十分。だいたい狂ってるよね、最初から御子姫に渡すために子供を作るなんて。本当に奏司には取り返しのつかない重荷を背負わせちゃってさ」

この話になると、いつも洋巳は泣いて謝るばかりだった。

「奏司が母さんを心配して、こうして来てくれてるだけで嬉しいよ」

最後に洋巳は、剛拳に会いたいと繰り返した。


奏司は、面会を終えると、その間中抑えていた感情が一気に込み上げてきた。


ーー豪鬼が兄弟!?


御子姫は知っていたはずだ。剛拳も。誰も言わずにいたのだ。

自分と姿形もよく似た、本当の兄弟みたいだと里の人達は言っていた。

考えても仕方のないことは考えない。まだ、他に考えないといけないことは山ほどある。

だが、なぜ黙っていたのか、奏司には言いようのないわだかまりが残った。



奏司は響家本家へ寄った。

留守を預かる双子が心配そうな顔をして出てきた。

「ちょっと必要なものがあるんだ、御子姫の部屋、入っていい?」

「姫様は過労で倒れられたとか…大丈夫ですか」

「うん、しばらく帰らないで、向こうで静養したいって」


「実は姫様は毎日飲む薬があるんですが…お届けしていただけますか」

「それは初耳だけど、どこか悪いの?」

「いえ…あの…実は排卵を止める薬なんです。妊娠しないようにするための」

「え…?どうして…」


「あの、私達、響家の戦人は皆、戦を退く厄年まで、薬を飲んで妊娠しないよう制御するよう申しつかっております」

これもまた初めて聞かされた話だった。だから、この里には、若者ばかりなのに子供がいないのだ。奏司がずっと抱いていた違和感は、若い男女の対が里中にいて一緒に暮らしているのに、子供の姿が見当たらないことだった。


療養用の浴衣など、あった方が良さそうなものを双子に準備させ、その間に少し風呂に入りたいというと準備してくれた。

奏司がやっとくつろいで湯船につかっていると、響家の下働きの女が入ってきた。

「なんかよう?出てって」

「お背中流したりはいらないですか?」


「これって御子姫知ってんの?」

女は奏司の剣幕な様子に驚いて、慌てて着替えの浴衣を置いて出て行こうとした。

「ちょっと待って、聞きたいことがある」

奏司は御子姫が許すとも思えない、風呂場への女の出入りを怪しんだ。

「誰かに頼まれたの?正直に話してくれたら御子姫には言わないから」


奏司は想像していた通りの答えが返ってきて虫唾(むしず)が走った。性的なことはされていないと言っていたが、祝い事などあって奏家の男達が来て風呂を使う時は、背中を流したりは当たり前だったという。

「昔の風習はもう必要ないから、今後一切そういうことはしなくていいよ」

女は一礼して出て行った。


奏司は夜は奏家本家に泊まることにした。父奨弥の部屋へ行き、戸を叩くと世話を任せている女が出てきた。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

女を呼び出すと、奏司は客間で女と二人で話をした。

「ちょっと言い難いことなんだけど、この前父さんの部屋で裸だったじゃん。まさかとは思うけど、父さんってヤレるの?」

女は少しためらいながら、頷いた。


「まさか、意識障害あって、ほとんど動けないんだよ?」

「いえ…ほんの時々ですが、意識がぼんやりと戻られます。立派にお勃ちになって、まぐわうこともできます」

「マジか…」

奏司は考えもしなかったことが起きていた。これはどう考えればいいのだろう。一刻も早く、奨弥の父に会い、禁術の秘密を聞かなければならない。


その日、奏司は本家の自室に泊まった。大学も休んだままなので、早く復学しなければと考えていた。

真夜中、奏司は違和感で飛び起きた。すると若い女が裸で、奏司の一物を懸命にしゃぶっていた。

「誰の差し金だっ!」

奏司は裸の女の腕を後ろへ締め上げると、部屋の明かりをつけ顔をよく見た。


「誰に命令された、言えっ!」

「すみません!もうしません!許して下さい!」

「次は、殺すぞ」

奏司はそのまま女を部屋の外へ叩き出した。



奏司は荷物をまとめるとホテルへと居室を移した。

家の建築には取り掛かっているので、なるべく早くできあがるよう賃金ははずむと言って頼んだ。


異形の里へ向かい、里長の家に行くと豪鬼が出てきた。ふと、母洋巳の話を思い出す。同じ歳くらいだと思っていたが、兄なのだろう。

「そうし、だいじょぶ?げんき、ない」

奏司は豪鬼に御子姫に荷物を渡すようお願いした。剛拳を探して、向こうの家へ行くと畳を取り出して汚れたところを洗っていた。


剛拳に話を切り出そうとした時だった。豪鬼が慌てて奏司を呼びにきた。

「そうし、ひめ、よんでる。おこってる」

奏司が豪鬼と一緒に戻ると、御子姫が起きてきて駆けつけた奏司へ平手打ちした。

「これはなんじゃ!そんなに子ができたら困るのか!」

奏司が持ってきた荷物には、双子から預かった薬の包みが入っていたが、中身は奏司は聞いてはいなかった。


「俺は(となえ)から預かってきただけだから…」

「これじゃ!そなた話したのか!でなけりゃ、どうしてこの薬まで入っておるんじゃ!」

御子姫は、奏司に向かって薬の箱を投げつけた。緊急避妊薬だった。

「俺は何も言ってない。急いでたから間違えたんだろ」

そう言って奏司は薬の箱を御子姫に投げ返した。


「体は俺でもあんなヤツの子供なんて、考えただけで吐き気がする!俺は子供なんかいらないっ!!」

二人の激しいやり取りに里長も黙って見ているほかなかった。

「俺はそんなに信用されてないのかっ!わかったよ!」

奏司はすぐに車を呼び戻すと、もう来ないと言い残して去っていった。


翌日、御子姫は唱から電話をもらう。いつもの薬だけでなく、薬を間違えて入れてしまったようだと確認の電話だった。


奏司は大学近くのホテルに長期滞在することにした。

しばらく経った頃、ホテルのロビーで奏司は二十代後半くらいの男性に呼び止められた。その男性は神守(かもり)(げん)と名乗った。(ケガレ)の研究をしている、常世(とこよ)の眼を持つ者であった。


(かなで)奏司(そうし)さん、あなた(ケガレ)のことで困っていませんか」

奏司は、初対面なのにいきなり何を言い出すのかと身構えた。

「御子姫殿はお元気ですか。その後、アカメはどうですか」

「ああ、もしかして、特別な眼を持っている(ケガレ)に詳しい方ですか?ごめんなさい、ちょっといろいろあって神経質になっていて…」


眴は奏司の眼を覗き込むように見つめていた。

「そうでしょうね。あなたの中に(ケガレ)のような影が見えるので、大変でしょうね」

「えっ?見えるんですか!?」

「もちろん、そのための眼ですから」

奏司はもっと詳しい話を聞くために、(げん)をホテルの自室に招いた。


「奏司さんの体の中に、(ケガレ)ではないのですが、非常に近いものが巣食ってきています」

「どうしたらいい?なんとかなる?」

「眼の中を覗かせてもらってもいいですか」

奏司は促されるままベッドに仰向けに横たわった。眴は覆いかぶさるように、左眼を奏司の眼に近づけてきた。今にも唇が触れそうなくらい近くまで寄ると、クスッと笑った。


「奏司さん、私が怖いですか」

「あなたは男でしょ?」

「世の中には、あなたのような少年を好きな男もいるんですよ」

奏司は何を言っているのか理解できず、ただいつの間にか身動きができずにいた。

「よし、捕らえた。私を信じて動かないでいて下さいね」

眴は奏司のベルトに手をかけると、ズボンを脱がし始めた。


「なにするんだ…」

奏司は眴に唇で口を塞がれた。

「ひとまず口は閉じていて下さい」

眴は奏司の下半身を露わにすると、今度はお尻を突き上げさせた。そんな恥ずかしい格好をさせられ徐々に一物が少しだけぴくぴくし始めた。


眴は自分の指を舐めまわしたっぷり唾をつけると、奏司の肛門へゆっくりと滑り込ませた。

「う…っ!」

半勃ちの一物を眴の指先が(しご)き始める。そうして、眴は指で肛門周りをゆっくりゆるめながら、内側から硬くなった前立腺辺りを刺激する。

口を開けるなと言われても、今まで味わったことのない感触に声が漏れてしまう。それよりも一物をしごかれて、前と後ろから快感の波が押し寄せてくる。

「うっ!あっああっ!」

とうとう我慢できずに、奏司は眴の手のひらの中でイッてしまった。と同時に、眴が肛門からドス黒いヌメッとした塊を取り出した。


奏司はそれを目にする前に、あの独特な生臭さを感じた。びたんっびたんっとのたうちまわる黒い塊に眴はどうすることもできずにいた。

「取り出すことはできるんですが…」

奏司は輪紋を繰り出すと祓いの唱え詞を増幅させ瞬時に祓った。

「お見事です」

眴は奏司の精液まみれの手を嬉しそうにペロッと舐めた。

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