戦の鬼
五年大戦も終わりが見えてきた頃、その後のアカメを本格的に祓っていくため戦略会議が行われた。
そこで御子姫は対を二人にし、大砲が確実に連弾できる体制を築くことを話した。
「決定ではなく相談じゃ。私は異形の大船で采配を振るう。そこへ二人の若い輪紋衆を率いて乗船する。異形衆の大砲で風穴開けたところへ私が確実に連弾する。
唱と言葉は、私が連弾すると隙が生じる、それに備えて臨機応変によく見て仕掛けてほしい。一の船大将は唱の対、二の船大将は言葉の対じゃ」
「二人というと、もしや奏司と豪鬼ですか!?」
「そうじゃ。他に誰がおる」
剛拳の表情が険しくなった。
「豪鬼は鬼です。常世の穢の気にどこまで影響受けるかわかりませんぞ」
「だから、豪鬼には無理強いはせぬ。奏司が里からいなくなって、よもや豪鬼の考えが及んだ時じゃ」
鬼と聞いて、会議の席がどよめく。やはり、異形に対する、知らない者への畏怖は、たとえ輪紋響紋衆とて同じであった。
「私も異形じゃ。この先の戦のことを考えた時、豪鬼ほどの逸材を放っておくのは勿体ない。責任は私が持つ」
御子姫は剛拳の方を向いて、その表情に思わず笑みがこぼれた。すっかり父親の顔になっている。
「奏司のことは、皆知っていると思うが、元総代の子じゃ。街で育っておる、その後は異形の里で豪鬼と一緒におる。元服を里で済ませた後に、こちらへ来て祝言じゃ」
祝言は三日三晩、双子の対と一緒に執り行う。三日の間に、ずっと空席だった総代の祝儀もある。双子の祝言の祝宴もある。また新たに対になった者たちも、里から親たちを呼んで祝えるようにした。
祝言という名の大戦の慰労会のようなものだった。
御子姫は会議の後に、剛拳と腹を割って話し合っていた。
「豪鬼は異形の里で今まで通り、剛拳殿と暮らす。私も戦以外の時は忙しいゆえ、奏司も総代として連れ回さねばならぬ。それを見て不安がらぬようしてやりたい」
「二人を対にするということは、豪鬼とも契りを交わされるということですか」
「ゆくゆくは、そうする。豪鬼が精神的にどこまで成長するか見ておるところじゃ」
確かに、奏司と一緒になってからの豪鬼には目に見張る成長ぶりが伺える。だが、精神面は推し測りかねていた。
「その精神面を見届ける役目ですか」
「何を言うておられる。私は、豪鬼は養い親と私たち二人で育てたと思うておる。あれほどの見事な輪紋は見たことがない」
そう言ったところで、御子姫はため息を吐いた。
「結局、私は戦のことしか頭にない。戦の鬼なのじゃな」
「豪鬼のことは、剛拳殿にお任せします。私は、親ではないゆえ、戦頭領の目でしか、最後はそういう目でしか見ておらぬ。
それゆえ、もう一つ頼まれてはくれまいか。奏司の相談相手になってほしい。
奨弥殿がおかしくなったのも、そのような目でしか見ることができなんだ私のせいなのじゃろう」
「そこまでお考えにならずとも…」
御子姫は悲しそうに笑った。
「己の性分はわかっておる」
どう誤魔化そうと、穢を祓うために生まれてきた戦神だ、鬼神なのだ。
あともう一度、十日間戦へ出れば大戦は終わる。そうしたら、まずは元服式だ。異形の里へ到着すると、里長の家から二人が長と一緒に出てきた。
「おかえり。俺、十六になったよ」
「そうか!」
御子姫が嬉しそうに笑うので、豪鬼までが俺もと言っている。豪鬼は、奏司の真似をして、なんでも俺もと言う。
「そうか、豪鬼もか、お祝いをしないといかんのう」
いつも通り、食事を済ませ落ち着いた頃、御子姫は養い親に手伝ってもらいながら、戦装束を仕立てるために採寸を始めた。
「戦装束ってことは、もう穢倒しに行けるの?」
「倒すんじゃのうて、祓う、じゃ」
先に奏司を採寸していると、豪鬼がその様子をじっと見つめている。
「これは元服式で着るよう作るだけじゃ、戦に行けるのとは別じゃ」
「なあんだ、つまんないの」
剛拳が厳しい顔をして、二人に話しかける。
「戦に行くということは、いつ穢にやられるかわからんということだぞ」
「わかってる、だから行くんだ!御子姫を守るために」
「これ、じっとしとらんか」
奏司が動き回るので採寸が進まない。御子姫はイラッとして、竹の物差しで足をパシッと叩いた。
「おとなしゅうしとらんと、元服式で丸坊主にするぞ」
「うわっ、やべーっ!」
「やべーっ!」
豪鬼も指差して笑っている。
「剛拳と一緒になっちゃうよ」
「なぁに、笑っちょる!」
少し前なら、剛拳も子供の戯言にここまで真剣にはならなかっただろう。それだけ、常世が荒れ始めたということだった。
「ああ、そうじゃ、明日里中の者を集めてアカメのことを話さないかんかった」
「船の修繕はもう済んでおります」
異形衆の大船は船体の補強をしていた。順次、祓詞が書かれた和紙を貼り塗装をし強化していく。戦船は代々受け継がれてきた山から、戦船になるための御神木が育てられている。修繕ひとつ取っても、しきたりに則って儀式を経て行われる。
輪紋響紋衆自体が、穢を祓う力を持っている異形である。
その中でも、御子姫のように変幻する者、豪鬼のように妖力を持つ者、剛力であったり、気枯れに強かったり、特別な力を持って生まれてきた者たちを異形と呼んだ。
もちろん持って生まれた力に応じ姿形も違って生まれた者もいるが、そんなことは些細なことであった。いかにして穢を祓うことができるのか、それ自体が重要なことなのだ。
アカメの話をすると、皆ざわついた。大砲と聞いて、どの対が繰り出せるか確認が始まった。さすがである八対にもなった。
「すごいな、さすが異形衆、見事じゃ。これで私のを合わせて十対じゃ。休みながら一時間で、何回繰り出せるか。最初は一時間で引き揚げる」
「ということは、姫様は我等の船に乗りなさるのか」
「そのつもりじゃ」
うおおおおっ!!と、里中に響き渡らんばかりの力のこもった声がした。
双子の対が暮らす屋敷の工事が終わり、注文していた調度品などが運び込まれていく。屋敷のお披露目も済んで、やっと戦が終わったら帰る自分の家ができた。
「あともう少しで大戦も終わるね、そしたら祝言かあ」
「あのね、言葉はもう契りって…」
「うん、もう大戦に入る前に契ったよ」
思いがけない返答に、唱は声もなくじっと言葉を見つめた。
「もしかして…やっぱり、まだなん」
唱は、恥ずかしそうに頷いた。
「どうしたらいいか、わからへんねん…」
言葉は唱にずけずけと根掘り葉掘り進展状況を聞いた。
「ええっ!まだ口づけもしてへんの。付きおうて、もう結構経つやん。うわぁ、信じられへん」
「駿英さんは待っててくれはるって」
「そんなん、口先だけに決まってはるやん!唱、勇気出さなあかんて。駿英さん、もう二十歳やし、ようまあ…耐えてはるわ」
「今夜、うちら出陣やし、唱は二休でしょ。今夜からここ住むし、美味しい夕餉作って待ってたら」
「うん…」
言葉は緊張する唱をぎゅっと抱きしめた。
「案外、平気よ。そんな言うほど痛くないって。ギュッてしてたら終わってた」
「ギュッてしてたらって…なに?」
「目を閉じてぎゅうって抱きついてたら、契り終わってた。なんだか心が近くなった気ぃしたよ」
唱は今まで褒められた料理を作って、駿英の帰りを待っていた。どれだけ待っても帰ってこないので、テーブルに料理を置いたまま、ソファで眠ってしまった。
しばらくするとガヤガヤと声が聞こえてきた。
「おい、ダメじゃないか。待ちくたびれてこんなとこで寝ちゃってるよ」
「あ…ホントだ悪いことしたな」
「なあ、さわると嫌がるって、もう誰かに無理やりヤられてんじゃね?本家の飯炊きみたいにさ」
「それはないと思うよ、いいとこのお嬢様だし。力はあるし、頭いいし、戦の対としてはこれ以上望みようがないよ」
「けど正直どうよ」
「どうもないさ、大戦後の一の船の主将になったし、祝言ももう決まってるし、あとはお嬢様次第だよ。俺はもうどうしたらいいか、正直お手上げかな」
どうやら数人、酒でも飲んできたようだ。同じように中二日休みになったのだろう。唱は自分のことが話題になっているのがわかって、どうしたらいいかわからないまま、会話を聞いていた。
「みんな戦人になるって決めた時点で割り切ってるからな。ていうか、おまえだって好きなやついたじゃん」
「うん、お互い話し合って別れた。力量的に釣り合わなかったし、いずれこうなるとわかってたし。みんな一度や二度はあるじゃん」
「厳しいっていうか、案外容赦ないよな」
「ああ、御子姫ってさ、口ではいいこと言うけど、結構戦のことになるとキツいよな。冷徹というか。好き合ってる同士の対なんているのかよ」
「御子姫自身、対に逃げられてるじゃん」
「もうそのくらいにしろよ。結局、俺たちは穢を祓う道具なんだって」
酒が入って言いたい放題の仲間達に、駿英は大きなため息を吐いた。
「もう祝言挙げたら無理やりやって、ダメだったらダメってことでいいんじゃないか。おまえ、優しすぎるのもよくないぜ」
「どうせ、御子姫も無理だって判断するに決まってるさ。どこのお嬢様だか知んねえけど。そんな甘ちゃん」
「そんなふうに言うなよ、かわいそうだろ。本人必死なんだから」
駿英は、そのままソファに寝てしまっている唱に、寝室から毛布を持ってきてかけてやった。
「いつも俺からなんだよな。今日だって、待ってるって言ってくれたらすぐに帰ってきたのに」
「戦の時はグイグイくるじゃん。意外と一発ヤったらグイグイくるかもよ」
「頼むから、放っておいてくれ、そんなひどいこと言うなよ」
駿英はいい加減帰るよう皆に促した。ガヤガヤと部屋を出て行く音がして、しばらくすると玄関が閉まるのが聞こえた。
唱はあまりのひどい言われように、自分のことだけでなく、駿英までが自分のせいで言われ続けていたのを聞き、申し訳なく泣けてきた。
駿英が部屋に戻ってくると、唱はソファに座り顔を覆って泣いていた。
「どうしたの、もしかして聞いてたの?みんな酒入ってるから、口が悪くなってただけだから。気にしなくていいよ」
駿英は隣に座るとやさしく抱きしめ、涙の溢れてくる目元に口づけた。
唱がハッとして照英の方を向いた。照英はやさしく唇を包み込むように口づけをした。唱は目を閉じて駿英の口づけを受け入れた。
「やっと口づけできたね、嬉しいよ」
「ごめんなさい…うちのせいであんなん…言われてはるなんて…」
「気にしないで、俺は何言われても頑張ってる唱をいじらしく思うよ」
唱、と呼ばれて、なんだかくすぐったいような、気持ちが揺れた気がした。
寝室へ入ると、ベッドサイドのランプを点けると、駿英は部屋の明かりを消した。
「このランプ、唱が選んだんだよね。とても綺麗に見えるよ」
駿英は、もう一度唱に口づけた。唱はされるがままに身を任せた。あれほど怖がっていた心がどこかへ消えていく。帯を解かれ肌襦袢だけになる。駿英も上着を脱いでシャツ一枚になると、唱の脚に口づけた。
唱のあそこをやさしく丁寧にさわっていく。くぃっ、くぃっとさわっていくうちに唱から吐息が漏れてくる。駿英は股の間に顔をうずめると、舌で舐めたり吸ったりした。
「あ…あぁ、そんなとこ舐めたら…汚い…」
「唱の体に汚いところなんてないよ」
駿英はあそこに指を入れると、ぷっくりとしてきたのを内から押し上げた。そして内側を指でこすりながら舐めてやった。
「あ、ああ、あん…」
「気持ちいい?もっとよくしてあげる」
「はぁん…あぁぁん…い、い…ん、あん、ん…ああっ、あっ!あぁっ!あ、い、い、あ、あああっ!」
あそこの内)なか)を指でこすられて、下半身がしびれるように気持ちがいい。唱は、脚をひくひくさせながら、腰をよがっていた。
何度も同じように、指と舌でイかされているうちに、駿英が耳元で囁いた。
「それがイくってことだよ、気持ちいいでしょ…」
何度目かにひくひくしてきたところ、十分濡れたのを確かめて駿英はゆっくり入れていった。
「は…はあ…あ…ああぁぁぁ…」
「唱…これが契るってことだよ」
駿英は唱に口づけた。髪を撫でながら、何度も口づけた。




