堕ちた行先
「奏司、どうしたのじゃ」
「助けて。父さんが…」
御子姫は、一気に心臓がばくばくと波打つのが感じられた。
奏司は御子姫の手を取ると引っ張って行こうとする。御子姫は車へ振り返る。運転手はハザードランプを点灯させると、車を降りて駆け寄った。
「どうされました」
「おじさん、助けて、父さんが死にそうなんだ」
御子姫は衝撃のあまり、咄嗟に動けなかった。運転手の男は子供と一緒にビルへ入っていく。御子姫もやっとの思いでついていく。
奏司が部屋のドアを開けると、ムッとした空気と臭いがした。部屋の奥に人が倒れていた。
「すごい熱です！」
奏司が泣きながら御子姫へ訴えた。
「母さんに言っても、病院へ連れてってくれないんだ。もう一週間近くなるんだ。このままだと死んじゃう！」
運転手の男は、倒れている男が失踪した奏家総代だと気がついているようだった。担ぎ上げるとボロボロの靴を履かせて、奏司とともに部屋を出た。
後部座席に寝かせると、奏司も一緒に乗せて、車を出した。御子姫は助手席から振り向くと、奏司にどうしたのか聞いた。
「父さん、もうずっと病気なんだ。心の病気だって、母さん…病院連れてったって治らないって。熱出ても、薬買うお金なんかないって」
御子姫は運転手へ指示すると、車に設置してある電話で話していた。
「輪響紋衆が入院する総合病院へ連れていこう。この熱はおかしい」
御子姫は響家本家へ電話をかけ、剛拳に病院へ来るよう伝えた。
「奏司、父親はいつから熱が出ているんじゃ。食事は、水は飲ませられるか」
「熱はもう一週間くらい経つ。冷やしても下がらないから、薬買って飲ませないと死んじゃうって言ったのに…ご飯は食べてない、水だけ…」
「奏司、母親に叩かれとったな。体の痣もか」
奏司は母洋巳のことを聞かれると黙ってしまった。
病院へ到着すると、救急医療班が診察治療にあたった。奨弥は流行性感冒と診断された。高熱が続くことによる脳への損傷が危険だとされ、集中治療室への入院となった。奏司もまた、打撲等全身に見受けられることに加え、栄養状態が良くないとのことだった。
「どうじゃ、父親が入院している間だけでも、病院におらぬか」
「母さんが…父さんもいなくなって、俺までいないとなにするか…」
そこへ剛拳がやってきた。御子姫と一緒に医師からの説明をきくと、かなり深刻な病状であることが判明した。
「お子さんに、少し聞きたいことがあるんですが」
「まだ何かあるんですか」
「なんらかの違法性の高い薬物使用が疑われる形跡がありまして…」
御子姫は絶句した。剛拳も驚きを隠せないでいた。
「あの、心の病気だとか言ってましたけど、子供にきくなんてどうして…」
「お子さん、虐待されている形跡がありましたので」
「先生、ここは輪響紋衆の病院ですよね、ある意味ここは特別な治外法権に準じた場所です。もし奏家総代に薬物使用疑惑があるなら、まず先に調べて下さい。
結果によっては、妻である私が、いえ頭領であり総代代理でもある私がどう判断するか決めます。それまでは、ここに総代が入院していること自体極秘に願います」
「奏司はどうしましょうか」
「虐待されておるかもしれんのに返せるか、本人が帰ると言っても返すな」
「洋巳には私から…」
「いや、いい。私が行く」
美琴は居間で、一生懸命に掃除をする娘を見ていた。娘を呼ぶと、二人分のお茶の用意をさせ、一緒にお休みしましょうと座らせた。娘は、街で買ってきた洋菓子を美味しいと言って、満面の笑みでほおばっていた。
その様子を、複雑な思いで美琴は見つめていた。一通り食べ終えた頃、美琴はおもむろに話し始めようとすると、先に娘の方が口を開いた。
「申し訳ありません。でも、私…」
娘は、親から言われたことを美琴に話した。自分は多額の前給金で、このお屋敷で働くことになった。そこには、屋敷の主人である将隆の性的な欲のために扱われることも、暗黙の了解として含まれていた。
「ま、まあ…なんてことを。ごめんなさい、そんな辛いことを…」
「いえ、奥様。これは、当たり前のことで…奏家の末筋で、それも女に生まれたら、だいたいみんな同じようなものです」
娘は、覚悟して来たと言った。それでもまだ、将隆はやさしい方だとまで言った。
「私は、奏家の血筋なので、奏家の者同士では子ができません。奥様には、その点だけは、安心していただけます。お気に召さないのは重々わかっています」
娘は泣きながら、どうか屋敷に置いてもらえるよう、美琴に何度も頭を下げた。その姿に、美琴はひどく胸を痛めた。この悪習はなんとかならないものだろうか。
御子姫は知っているのだろうか。いや、もし知っていたとしたら、あの方ならきっと何か策を講じることだろう。
奏家の闇は深かった。
奏家の女は神守となって街に出たところで、働き口は限られていた。街の神守衆の多くは男達だった。それでもまだ、奏家の中でもそれなりの家の女は街で上の学校へ行き勉強し、看護師、保育士や教師などをして働いていた。
しかし上の学校へやれるほど裕福ではない家は、同じ奏家の裕福な家へ働きに出すことが当たり前となっていた。そこで少なからず、性的な奉公も含まれ、その後本家へと移る。本家では、集まった輪紋衆の若者達の衣食住の世話をするようになる。もちろん、性的な世話も含まれていた。
同じ奏家でも格の差、貧富の差は、目には見えないがしっかりと存在した。
格下の末端末筋の者達は、男なら戦で武勇を上げれば認められる機会を得る。しかし女には輪紋も出なければ力もない。奏家では長い年月の間に、完全なる男尊女卑の構図ができあがっていた。そこへ家の格の差が大きくのしかかる。生まれた家、生まれた性別、それが一生を決めてしまうといっても過言ではなかった。
洋巳は仕事に出かけている間に、奨弥と奏司がいなくなってしまったことに腹を立てていた。確かに高熱を出して、水も飲めないほどぐったりしていた。だが、もう薬を買う金は残っていなかった。
そういえば学校から何度も連絡が来ていた。かといって学校に連絡すると面倒なことになるかもしれない。奏司までいなくなって、奏司の養育費が入らないと困ることになる。
洋巳がイライラしているところへ、客として将隆がやってきた。
「いらっしゃぁい！あらぁ、珍しいわねぇ。その節は、どぉも。なに飲まれますぅ」
「いつものでかまわん」
洋巳はキープボトルを取ると、セットを一式用意した。
「私もいただいていいかしら、なんかイライラすることがあってぇ」
将隆は鼻で笑うと、薬の入った袋を洋巳にちらっと見せた。
「あ…まさか。ソレって」
「イライラしてるのは、コレのせいじゃないのか」
洋巳は素知らぬ顔をして、水割りを２杯作ると将隆と乾杯した。
「ねぇ、奨弥の居所ご存じない？」
「さあな、聞いてはみてやるが。それより、薬はやるから、ちょっと頼まれてくれないか」
「えぇー、タダより怖いものないじゃない」
「いや、簡単だ。おまえ、もう『奏司はいらない』っていつも言ってるだろ。本当になんとかしてくれるとありがたいんだがな、御子姫に渡す前に」
将隆はカプセルが何粒も入った袋をカウンターに置いた。
「コレはやるよ。その気になったらやればいい」
洋巳はたまらず、袋からカプセルを出すと水割りで一粒飲んだ。
「コイツは新薬らしい。バツグンに効いて気持ちいいらしいぞ」
将隆はポケットから小瓶を出すと、数錠カウンターに出して洋巳に勧めた。
「どっちも合法のヤツでしょ」
将隆は頷いた。今のところはな、と付け加えた。
洋巳の目つきが徐々に変わってきた。洋巳は店を閉めると将隆の隣に座って、水割りをもう１杯飲んでいた。洋巳の豊満な胸をさわりながら、やはり熟れた体はいいなとブラジャーをずり上げ洋巳の片方の乳房をあらわにした。
「もうこんなにビンビンに乳首が立っとるぞ。気持ちいいだろう」
将隆は強めに乳首をいじると、洋巳からはあああっ！と吐息がもれた。
将隆はズボンを脱ぐとイスにかけた。洋巳はハアハア…と体の芯がうずくように、あそこがヒクヒクしてきた。テーブルに仰向けになると、大股を広げて自分で感じるところをこすり始めた。
「あああーっ！もぅ、ダメぇ…あそこのなかが、なかが変なのおぉっ！むずむずするぅーっ！ああ、ああ、おねがい、はやくイれてぇーっ！ああああっ！ああっ！」
入れる前から腰を振って、あそこからはツヤツヤと汁があふれ出ていた。
将隆はニヤニヤとそのザマを見て、己の物がそそり立つのを待っていた。
テラテラとしながらひくつくのを指で何度もイカせながら、吸いついてきたところで一物を入れた。
「おうおう、どんどんのみこんでいく。よほど飢えておったようだ」
「ひゃああああっーっっ！ああああああ、あぅあぅあああああーっ！いくぅっ！いいいーっ！イク、イクイクイクーッ！！アア、アアアァァーーッ！！」
店中に洋巳の喘ぎ声が響きわたっていた。薬の影響も手伝ってなにを叫んでいるのかわからなかった。
洋巳の初めての性交は、御子姫の祝言の夜、媚薬の香で完全に飛んでいた。乱交の真ん中で、一際喘いでイキまくっていたのだ。その記憶があるからか、それからの洋巳の性行為は異常なほど貪欲なものであった。
それが高じて、性的なしびれるような高揚感を求め続けるうち、正常な性行為ではもう絶頂感が得られなくなっていた。元々の性依存が暴走し、薬さえあれば誰とでも行為に及ぶようになっていた。
