奏家の闇
御子姫は街へ行く時には、必ず決まった神守衆の車に乗って出かけた。とある建物の前で車を止めると、男が助手席に乗り込んできた。車は適当に街の中を走っている、その間に要件を済ませる。男が御子姫に渡した封筒の中には、奏将隆の隠し財産の概要、神守衆の中でも政財界に太いつながりを持つ者たちの資料が入っていた。
「礼じゃ。引き続きよろしく頼みます」
「お引き合わせの段取りは…」
「任せる」
御子姫は表の仕事を将隆から奪い取る準備を着々と進めていた。
街へ出ると必ず寄る和菓子屋で、最中と金平糖を買う。その包みの中へ、受け取った封筒など入れてしまう。本家へ戻ったら真っ先に双子が来て包みを御子姫の部屋へと持っていく。
「将隆殿から何度も連絡が…」
心配そうな代理の顔を見て、にっこりと御子姫は笑いかけた。
「大丈夫じゃ、なにもかも順調に進んでおる」
待たせておいた車に乗って、御子姫はまた街へ出かけていった。
先日とは違う料亭へ車を着ける。
先に政府側の大臣秘書官と関係省庁の者が来ていた。御子姫は到着するなり遅れたことを詫びたが、実は先に御子姫との間で今回の話はすでについていた。御子姫との交渉の方が実があり、さらに経費も妥当なようであった。将隆はどれだけ私腹を肥やしているのか。
ただ、先日の会合ではまだ出ていない話があるようだった。
「ご存知かと思いますが、新型の流行性感冒が蔓延してきておりまして…」
「存じておりますが、隣国からの新型冠状病だとか。まだ治療薬がないというのは本当ですか」
そのようなものが里へ入ったら大変なことになる。しばらくは面倒なことになりそうだと、御子姫は薄々勘付いていた。
「新型冠状感染症の方はまだ抑えられておりまして。流行性感冒の方が、高熱を発して頭をやられてしまうようで…こちらは治療薬がありますので万が一の時はすぐさま病院の方へ」
「ありがとうございます。承知いたしました。穢につきましては、今のところ大きな変異はございません」
お互いに目配せをしながら話が終わると、将隆はやれやれという様子だった。
先の穢との大戦の一番の原因は大国との戦争だった。実際の戦争は五年ほどだったが、穢との大戦は十年余にわたり、多大なる犠牲を出した。
それから二十年近くが経ち、ついこの前のイタチ掃討の十年で戦える体制を築くことができた。これからという時に、今度は流行病である。
「お互い、気をつけねばなりませんね」
御子姫はそう言うと、お先にと頭を下げて立ち上がろうとした。それを将隆は後ろから抱きつき、押し倒した。御子姫は振り払おうとしたが、齢七十八とも思えぬ力で押さえつけられた。
「叔父上、二匹目の泥鰌はおりませんよ」
御子姫は鼈甲の簪を抜くと、将隆の顔に向けた。
「京の老舗の逸品じゃったな、勿体無いわ」
御子姫は白髪で首を巻くと締め上げた。将隆を払いのけ、乱れた着物のまま部屋を出ると女将を呼んだ。
「女将、客はようよう選んだ方がいいぞ」
御子姫にいいように逃げられた将隆は、腹を立てながら屋敷に帰っていった。途中思い立ち、息子の将吾宅へ寄ることにした。帆波は二歳の息子と居間にいた。インターフォン越しに義父将隆が映った。
ふと、以前のことが思い出される。
一人目の将真が三歳の頃、まだ義父母と同居していた時のことだった。ちょうど同じように、誰もが出かけていて子供と二人きりで屋敷にいた。突然、将隆が帰宅したかと思うと、寝室で将真を寝かせていたところへ入ってきた。
「やめて下さい!いやっ、いやあっ!!」
物凄い力で押さえつけられ、下着を剥ぎ取られた。スカートも脱がされて、下半身あらわな姿で部屋の中を逃げ回った。
「おとなしくしないと子供が起きてくるぞ」
「お願いです!堪忍して下さい!お願い、いやあああ…」
思い出すだけでも恐ろしい。
結局、義母に相談して泣いて謝られた。運良く妊娠することはなかったが、気鬱となり将真と一緒にしばらく里の両親の元で養生した。
時刻を見れば、もうすぐ将真が学校から帰ってくる。あの男なら、将真がいても子供を盾に取り、やりかねない。帆波は義母美琴に静かに連絡をした。
帆波の様子から、美琴はすぐさま駆けつけた。しばらくはおとなしかったのに、またどうして。そういえば今日は会合があるといって出かけた。また会合先で気に食わないことでもあったのだろうか。
将隆は何度かチャイムを押したが出ないので、留守だとあきらめて帰っていった。そこへちょうど入れ違いに、息子の将真が学校から帰ってきた。将真はチャイムを鳴らしたが応答がないので、鍵を開けて入った。おかしいなと思いつつ居間へ行くと、母帆波が昼寝から目覚めた弟を抱きかかえて震えていた。
将隆が屋敷に戻り美琴の出迎えがないので尋ねると、急用ができ出かけたと娘は答えた。将隆はそのまま娘を自室まで引っ張っていき、娘の着物を脱がせて早速あそこを舐め始めた。娘はもう何度も、美琴がいないと、同じようにされていた。そうして、舐められることが、たまらないくらい気持ちが良くなることを覚えてしまった。
「ああん、ああぁぁ…」
「気持ちいい時は、気持ちいいと言うんだぞ。気持ちいいだろ」
「ああーっ、きもち、あひ、いいぃーっ、きもちいぃーっ!」
将隆は娘の内を指を入れこすってやると、娘は思わず腰を振っていた。
「あぅん、あぅん、もれる、もれるう、きもちいーっ!あああーっ!」
「ほうら、指が三本も入っていくぞ、もっと気持ちよくしてやろう」
将隆は、潮を吹いてぐっちょりとした娘のあそこに、満を持して一物を入れてやった。
「ああ、あああああーっっ!あああ、いひい、い、ひいい、あひいっ!」
「おおお、いい締まり具合だ、おおおおお、いいぞお、どうだ、いいだろう」
悲鳴のように喘ぐ娘だが、つばきをたっぷりとつけて股の間をこすってやると、またよがっていた。じきに慣れれば、こちらの方が欲しくてたまらなくなるだろう。
美琴は帆波が落ち着いてきたので、一緒に夕飯を作ると帰っていった。母を心配する将真には、時々昔怖かったことを思い出すからだと話した。別居したからといっても、同じ里の中で暮らしていたのでは、やはり今日のようなことはまた起きるだろう。やはりもっと思い切らねば、と美琴は考えつつ帰宅した。
そっと玄関を開けると、将隆の靴が脱いであった。廊下や階段は電気が点いているのに、どうも様子がおかしい。音を立てないよう途中まで階段を上っていくと、一番奥の将隆の部屋から声が聞こえてくる。
そういうことかとすぐに勘付いた美琴は、玄関へ戻ると扉を閉める音を立てて、ただいまと言うと娘の名を呼んだ。
翌日、美琴は素知らぬ顔で、将隆が出かける支度を手伝っていた。洋服箪笥を開けると、かかっている背広から微かに覚えのある香の匂いがした。将隆が出かけた後、再度確認すると匂いのした背広に長い白髪が付いていた。急いで片付けたのだろう、気がつかずそのままだったようだ。その白髪を取ると、美琴は懐紙に挟んで部屋へ持って帰り大切に保管した。
御子姫はすでに響家奏家双方へ、流行性感冒に対しての注意喚起と感染予防の対策を行っていた。新型の予防薬があるというので、神守の病院から里まで出向いてもらい、戦に出陣する者や世話をする者すべてに予防注射を打つことになった。
さらに、街への外出を極力避けるため許可制にした。厳しい措置を行うにあたり、御子姫はまだ巷ではほとんど話題には上がっていなかった、新型冠状感染症についても説明した。
そうこうする中、御子姫にはどうにも胸騒ぎがしてならなかった。用事で街へ出たついでに、予防注射に連れて行こうと奏司の元を訪ねた。学校へ迎えに行くと、もう一週間近く来ていないという。御子姫は、前々からよくあることだと担任から聞かされ驚いた。
とりあえず最新の住所まで行くと、古い雑居ビルのような場所で、以前の暮らしぶりとはあまりにかけ離れていた。
御子姫は車の中から唖然として眺めていると、ビルから親子が言い争いながら出てくるのが見えた。洋巳と奏司だった。洋巳は腕を振り払い、それでも追いかける奏司を引っ叩くとさっさと行ってしまった。
御子姫はあまりのことに、洋巳がいなくなるのを見計らい車から降りると、泣きながら戻ってくる奏司を呼び止めた。
「助けて」
奏司は御子姫にすがりついた。




