90話「終局の城」
走って、走って、そして魔王城の門前に辿り着く。遠かった、ひたすらに遠かった魔王城までの道のりは、こんなにもあっさりしていた。ただここまで辿り着くのにいったいどれだけの犠牲を要したのかはもう語るまでもない。
「………天馬。」
門前には天馬がいた。魔王城をずっと見ている。その心境がどんなものか俺には計り知れないが、今は声をかけるべきなんだろう。伝えることがある。
「天馬、、」
「──!靁……っ」
俺だけがいることに天馬は、どこか動揺を隠せないような顔を一瞬して、目を逸らした。天馬もわかっている、今までの俺だったらここで会話を止めていただろうだが。
「天馬。。」
「……」
「夏は、音風としっかりお別れができた。」
「………そう、、か。」
「それと、お前のこと───」
ここで息が止まった。俺はこの言葉を果たして天馬に言うべきなんだろうか、言っちゃいけないべきなんだろうか。だって俺は彼女じゃない、彼女の遺言を届ける資格、それが俺にあるのか。
「────いや、なんでもない。」
「……悪い、靁。俺、しっかりしないと!」
「……そうだな。」
天馬は首を振ってまた魔王城を見る。禍々しい雰囲気と城にしては似つかわしくない静けさがここから先にある決戦を連想させる。それこそ嵐の前の静かだ。
「行くぞ。」
「あぁ。」
一歩踏み出す天馬に俺はついて行く。残っているのは俺と天馬、だが俺はこんな予感がしていた。
(戻って来れるのはただ一人だ。)




