09話「死が栄える時」
「───ナリタ様!ウチムラ様!起きてください!!」
次に目が覚めたのは人の声だった。俺と正治を焦りながらも助けたいっという思いが伝わってくる声だった。いつもの訓練のために起こされるような余裕のある感じは伝わってこなかった。そのせいか、異様に目覚めが良かった。
「な、何があったんだ……?」
「襲撃です!魔族の!!」
「………!魔族の!?」
「魔族が王城めがけて大軍勢で攻撃を仕掛けてきています、お二人はすぐにでもここを発つか、応戦してください!!」
息を切らした状態で兵士の一人が俺たちにことを伝える。だがその顔色の悪さから事態の深刻さを理解した俺はすぐに身支度を始めた。正治とのアイコンタクトですぐに結論は出た、俺はここで勇者みんなを守って救わなきゃいけない、だって自分のために誰かを見捨てるなんてそんなのは勇者じゃないと思ったから。
俺は兵士の人たちから、応戦するにあたってどうせればいいか聞いた。その後正治と話し合って、城に攻めてくる魔族達に効率よく対応するために場所を分けて対応することを決定した。
去り際に奏と夏にも同じ風に言ってくれってお願いしたから、なんとか四ブロックは守れると信じた。
(────靁は。)
あの兵士の人は靁について何も言っていなかった。いや俺の考えすぎだと思う、だってあいつは俺よりも遥かに賢いしすごいやつだからこの状況もなんとかできると信じた。
「人間の城は脆いナ、ギャハハハッ!!ア?」
「──────。」
魔族が石の壁を突き破って侵入してくる。俺は神兵武装を展開して、使い慣れた剣を両手で構えて覚悟を決める。ここから先は模擬戦じゃなくて本当の命の取り合い、でも俺が勇者で魔王ってやつを打ち倒せるだけの力があるならっ!
「勇者、天馬行くぞッ!!」
剣を力強く握り、魔族を一刀両断にする。この時の俺の頭にあったのは入ってきた虫を叩き潰すこととほとんど変わらなかったと思う。魔族は俺たちの敵で得体の知れない化け物で、倒さなきゃいけない存在だから、戦争とかちょっとわかんないけど、俺は勇者としてみんなを守ることだけ考えればいい。
それだけを思ってただひたすらに、魔族を斬りながら敵が多いところに突っ込んでいく、普通の兵士の人たちは俺たちみたいに特別な力がないから、応戦は難しい。だから、俺たちがその分こいつらを倒さなきゃいけない。
「うおおおおぉっっ!!!」
訓練でやったように盾で受けて剣で斬る。硬そうなやつは一刀両断に。そうして倒し続けて時間が経った。城に攻め入ってくる魔族の数は全然減らない、
「なんでだ……?!」
切らしていた息を整えるために、壁に寄っ掛かる。
「────隙あリダ!!!」
「しまった!」
「ボボボォゥッッ!!]
俺に飛びかかろうとした魔族に火球が連続で当たり、一瞬にして燃やし尽くした。この魔術には見覚えがある。
「天馬!」
「夏、奏!!無事だったか!」
二人が走ってこっちに向かってくる。でもどうしてだ、二人はここのエリアの担当じゃないはず。
「話している暇ないから!作戦変更よ!なんかコイツらをまとめているリーダーが中庭あたりにいるって、アンタはそいつをやってきて!!」
夏と奏の目からは真剣さが伝わってきた。でもリーダーなんて倒しても、本当にここが収まるのか?
「────そっか!!魔族のリーダー格を倒せば一気に相手は混乱する。やった気がする!」
「しっかり勉強してなさいよ!」
夏のツッコミが俺に炸裂する。でも城がまた大きく揺れる音で俺はいつものように冗談を軽く言える時間はなかった。
「そういうわけだから!こっちは私たちに任せて、冗談でも……死ぬんじゃないわよ!!」
「───わかった!!」
夏と奏と別れた俺は魔族を道中斬りながら、中庭の方へと急いで向かった。リーダーを倒せばこの混乱もこの戦いも一旦終えられる。そしたら、みんなが危険にならずに済む。そう信じて。
「ついた──────……」
ただ俺がそこで見た光景は思っていたのと違った。今までとは違う、格が違う魔族が人間の兵士たちを残らず虐殺した後、そして俺たちに訓練をつけていた兵士長がズタボロの状態で膝をつき力尽きている。そして魔族はその首に剣を置き
[ザン─────ッッ!!]
兵士長の首は地面に落ちて転がって、体はそのまま切断場所から血を流して、死んだ。
「存外、弱かったな。」
そう言う魔族は今まであった魔族とは明確に違った。今までは怪物みたいな顔をしていたのに、コイツだけは人間と同じような顔つき、人間のような髪、そして女性のような肉体。───そして2本の角が生えている。
多分コイツがリーダーだ。コイツが、兵士長を今俺の目の前で殺して、こんな地獄みたいな襲撃を引き起こした張本人
「…………っうおォォォォォォォォォォッ!!!!」
剣に目一杯の力を込めて全身で飛びかかってリーダーと思われる魔族に向けて大きく一太刀振るう。
[ドォンッ!!!]
中庭の土が丸ごとひっくり返るほどの衝撃が響くも、すでに魔族はその攻撃を回避した後だった。
「遅いッ!!」
「─────っ!!」
二刀流の魔族の剣が顔を明確に狙って連続攻撃を仕掛けてくる。今まで戦ったどの魔族よりも強くて、どの魔族よりも早い。訓練で習った攻撃を最も簡単に見切られて、毎回危ない橋を渡ってるような感覚が痺れる手から伝わる。
「────お前が勇者だな!人類の切り札もこんな程度かッ!」
「何が───お前達にわかんだよ!!」
心臓が激しく鳴り止まない中でも常に自分を追いつけて、二刀流でのガードを力任せに打ち破って、ガードと攻撃を繰り返す!
「ほう、あの巨体な人間より遥かに良いな。」
「っ!!お前達なんで………。こんなことをするんだ!!ここには戦う人以外にもいるっていうのに!」
俺の渾身の攻撃が威力を半減されながらも的確にガードされる。そしてその魔族は俺に向かってこう言った。
「なんで、か。人間の勇者、わかっていないようだな。これは戦争だぞ……?」
「──────わかってない……っ?!」
「そうだ────!」
先ほどまでが手加減だったのか、魔族の攻撃がより一層激しくなる。捌ききれていた剣がだんだんと目で追えなくなって、隙をつかれて剣が体を掠め続ける。鋭い冷やされた鉄の感触がだんだんと集中力を削っていく。
「最初に仕掛けてきたのは──貴様達だ!」
投擲された剣を打ち上げた隙に接近され、鋭い連続回転攻撃がガードを着実に壊していく。
「我々が自分たちとは違う種族だというだけで!────お前達は今までの歴史で争いを続けてきた!!」
「そして、今日!ここで!我々魔族がお前達人類を勝者の座から───引きずり下ろすッ!!」
二刀流の曲がるような剣撃で、ガードを崩され握られていた剣が宙をまう。そして最終段がくることを危険察知した身体が咄嗟に攻撃に向けて盾を突き出すも、今まで感じたことのない遥かに重い斬撃の前に俺は体を吹き飛ばされ、地面に倒されてしまう。
「─────────ぐ、ぁッ」
もう動けない。もう戦えない。体に力が入らず意識が朦朧とする、体全身に痛みが走る。少し経てば動けるかも知れない、ただ今は恐怖と痛みに体がいうことを聞かない。
「よく持ったな。哀れな勇者、ここで私がお前を殺すことでその地獄から解放してやるっ!!」
「─────。」
俺は死を覚悟した。あぁ、くそ何もできなかった。ただ手加減されて、討ち果たされて、意気揚々に昨日まで誰かを守るって言ったのに、これじゃ誰も守れねぇ。くそ、めちゃくちゃ悔しい。悔しいっ!!
そして俺は目を閉じた。
<──|||──>
[ドゴォォンッッッ!!!!]
殺し、殺し、殺し尽くした。目の前に広がるものを全て。そして今脳を掴んで尋問した魔族から聞き出した場所に辿り着いた。邪魔な壁は蹴りによって一瞬に粉々にしてやった。
中庭にたどり着くと、目の前には天馬が無様にも倒されていた。息はあるが、これでは戦えない。訓練を積んでいた勇者も所詮はこんなところだったのかっと落胆する。
「貴様────誰だ……?」
目の前の二刀使いの魔族が剣を構え俺と戦うつもりになる。最初から顔が険しいのは俺の本性に気づいているのか、それとも服についた無数の魔族共の血に恐れ警戒しているのか、それとも、
「────あぁ、コイツか。」
二つの意味で理解する。おそらくこの目の前にいるちょっと違う魔族がリーダーでそいつが俺を警戒しているのは、今頭を鷲掴みにしてボロ雑巾のようになった魔族の姿、コイツらからすれば同胞の姿に許せないとかいう感情を抱いているからか、
「……………死ね。」
死ね、死ね。死ね。お前達にはその感情を抱く権利はない。捻り潰してやる、縊り殺してやる。ぶち殺してやる。
「─────!」
俺は手に持っていた魔族を目の前の"敵"めがけて放り投げる。その隙に一気に近づいて首を取りに行く。
さぁ、戦争の始まりだ。
<──|||──>
(……………何が起こっているんだ?)
途切れていた意識を戻し、俺は瞑っていた目を開き、そして目の前の戦いあう二人の姿を見る。
一人はさっき俺を打ち倒した魔族、もう一人が大きな鎌を携えて全身黒ずくめの、
(───靁………?)
その姿は俺が知っている知り合いの姿とは大きくかけ離れていた。大鎌を振り回しながら、魔族のガードや相殺を悉く潰していく。目で追えないほどのスピードに俺は唖然とした。
そしてその刈り取る者っと評しても良いほどの殺人的な動きに俺の頭は終始混乱していた。
「─────がぁッ!!!」
魔族に向けて大きな蹴りを入れ、吹き飛ばす靁。そして反撃に出ようとする魔族の剣の隙間を掻い潜り、一閃。
[バシュンッッッ!!!!]
「──────あああああぁぁぁぁっっッ!!!!」
魔族の片腕を何の躊躇もなく切り落とした。でもまだ倒れない、もう片方の手で剣を靁へと突き立てようとする魔族、でもそれでも靁にとってはどうでも良いようで、アイツはその剣を手で掴んだ後、粉々に粉砕した。
その瞬間だった。魔族の目から戦意が完全に消失したのは。
俺は靁の勝ちを確信した時、すでに何とか立ち上がれる状態だった。そして体を起こして少しずつ魔族に勝った靁のところへとボロボロの体を引きずって向かった。
<──|||──>
「────ここまで、か。」
目の前の魔族の目にはもう戦う力は残されていない。コイツの攻撃、コイツの反撃、コイツの防御はすでに全て打ち滅ぼした。最後の剣も片腕も切断した残るは。
「…………ごめんね、お母さん、負けちゃ────」
[バシュ────ッン!!!!]
「─────。───。」
目の前のヤツの首が落ち、胴体は切断面から血を吹き出し、無気力に地面へと倒れ、血海を作り出し始める。
「なん、で───」
天馬が口にする。俺は自然と天馬の方へと首を傾ける。もう目の前に転がっているのは死体だ、俺が望んでいた結末はすでに叶っている。
────風が吹く。身に羽織っていた服が音を立てて揺れ、顔についた返り血がやけに鮮明に感じる、でもなんでだ、不思議と……
「────っなんで、、なんでッ殺したんだ靁!アイツはもう戦えなかったのにっっ!!」
「なんで……?」
そして俺は思ったことを素直に口にした。
「天馬、これは戦争なんだよ。」
そこに俺の心は無かった。