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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター9「魔王軍」
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88話「撃落の聖歌」





 「そう、覚悟ができたんだ。ならここが君たちを殺すよ。オトカゼさん、遠慮なく歌って、君が僕の望むままに。」


 「……l.l.l──lllluuuaaaaaaaaaa─────っ!!」


それは絶望の歌で、それは破滅の歌だった。全ての生物に死を強制する歌。大地ですらこの時は死を受け入れてしまっていたと思う。なぜなら、この歌を聞かずにいること、この歌に逆らうこと、それ自体がどれほどの苦痛を伴うことか。


 「ぅ、ああああああっ!!!」


魔術秘宝が許容できないレベルの歌声。頭、腕、胸、脚、どれをとっても激痛と死を強制するような感覚が伝わってくる。気が狂ったように歌うカナデ、それを聞いて気が狂ったように叫ぶ私、先ほどまでの決意が確かに具炊けていく感覚がする。もう行きたくないと叫びたくなる。


 「───夏……っ!!ぅぐッ」


 「────、こ…れが、彼女の叫びだよ。彼女の絶望、彼女の恐怖が伝わってくるだろ!!」


 「ショウジ、お前ッ、道連れにして死ぬ気かっ……っ!」


 「まさか、こうして立っているじゃないか。だって僕は大魔族になった。ライ、ユキシマライぃ、お前をここで撃ち殺すためにぃぃぃぃっ!!!!」


 「ショウジ──!ウチムラショウジッ!!」


二人は互いの武器を構えて、肉体が悲鳴を上げている中無理矢理にでも戦いを始める。二人とも大魔族の回復能力をフルに生かして、こんな生物が生存を許さないような絶対極地で戦い続けている。正直頭がおかしい!


勇者である、私は無理だ。これに耐えられない、耐えたとしても一歩前に踏み出せない。踏み出して、彼女に近づいたら死ぬ。いやだ、死ぬのは、もうアイツの顔も見られないなんて!


 (いやだ、いやだ!いやだ、いやだ、いやだ!いやだ!いやだぁぁぁァッ!!!!)


何度も同じ言葉を繰り返す。体全身がもうダメだと動かなくなっていくのを感じる。それにまた絶望する。決意が砕け、砕け、くだけ、さらに壊れていく。


自分という大切な存在がこの世から消える感触。それをゆっくりと味わいながら、意識は落ちていく。もうそこには痛みを感じる暇さえないただただ、ここが大っ嫌いな私がいた。


 (…………。、)


すぐに叫び出す私。その中でただただ意識だけが宙に浮かされていた。私の周りはまるで荒波に飲まれるかのような激動に包まれているのに、ポカンと浮かんだそれは不干渉を貫き始めている。なんだろう、本当になんなんだろう。これは。


 (…………で、も。)


私はこれがなんかなのか知っているはずだ。それは辛いこと。とても辛いこと、だから絶対にやっちゃいけないはずなのに。


 (でも、、っ)


不干渉を貫くそれがゆっくりと激動へと踏み込む、先に触れればそれは痛みと恐怖と絶望の嵐、とてもじゃないが耐え切れたものじゃない。こんなもの耐えるのが人としておかしい。


そうだ、この先にあるのは死だ。この体が本当の意味で全てを蝕まれた時、私の意識と命は今度こそ尽きる。


 (でも───っ!)


だから、、


 (でも────ッ決めたことは、曲げない!)


 「───あっ、アアアアあああッッッ!!!」


私は叫んで叫んで叫んで、前に進んだ。たとえそれが無謀でもたとえそれがバカな行いでも、自分は言ったんだ。決めたんだ。あの子を本当の意味でもう終わらせるって、だから!だから!だから!だから!!


 走る。走る。走る。一歩彼女に近づくたびに全身の血管がはち切れて、骨にヒビが入っていく。彼女との距離は近い。だからこそ、近づけば近づくほど私の体はどんどん醜く使い物にならなくなっていく。


一歩進んで、体の皮が膨れ破裂した。


一歩進んで、肺に血が溜まって呼吸ができなくなった。


一歩進んで、体のあらゆる骨が砕け散った。


一歩進んで、私の筋肉がありえないほど膨張して弾け飛んだ。


一歩進んで、持っていた魔術秘宝がその限界に耐え切れなく粉々になった。


一歩進んで、視力が悪い方の目が押しつぶされた。


一歩進んで、進んで、進んで、そして最後に残ったものは、人としてギリギリの形を保ってくれた肉体と、彼女を殺すための自分の腕と握られた細剣だけだった。


もう力なんて入れられない。筋肉はもう機能してない、血管も、神経も何もかもが彼女の歌によって壊滅させられた。それでも私は叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで─────。


そしてやっとその全てを失った顔に辿り着いた。


 「─────────」


言葉なんてなかった。だって声なんてもう出せないから、出せないほど叫んだし出せないほど痛い。でも、自分の手でやるなら最後に貴方に言っておきたいことがあった。


 「さよなら、奏。ゆっくり、休んで。」


言葉にすると彼女はもう死んでるのに驚いた顔をしていた。私の細い剣が彼女の心臓に突き刺さる。彼女の歌は、止まった。はず、もう私の耳には彼女の声は届かない。


だから最後の、その瞬間はよくわかる。


彼女がほんの少し笑って、私にこう言ったみたい


 「さよなら、夏ちゃん……っ!」



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