87話「其の望みは」
「行くわよ。靁。」
天馬をしっかりと見送った私は隣にいる靁に声をかける。目の前にいるのは元々味方だった二人。でも今私の前にいるのは敵の二人。
これはきっと、私たちのツケが回ってきたんだと思う。ここまで味方を失っても幸福にやってきたツケ、それが回ってきたんだと。
「夏、お前も行っても良かったはずだ。」
「言ったでしょう。なら責任くらい取らないと、言い出しっぺの法則ってアンタ知ってる?」
「………昔からそういうところは変に律儀だな。一度行ったことは絶対に曲げない。」
「えぇ。そうよ、それが雨宮夏だから。」
昔はそう。いうのを躊躇うことなんて山ほどあった。言ったらその通りにしないと行けないから、言わなければいくらでも、思うだけならいくらでもタダだからでも、最近そんなんじゃアイツの隣にいられないって思った。だから私は、思っていたことを包み隠さずいうことにした。それが、どんな結果を招いても。
「……………。」
戦いが始まりそうな刹那。脳によぎったのは一つこの言葉、お守りよりも劣悪で正直後悔するような言葉、でもあれを聞かなかったら私はもしかしたらここには立ってないのかもしれない。
"汝はその手で後悔と残滓を払拭したのち、全てを嵐に託し息絶えるだろう"
あの時、クリンタルが私に向けて言い放った予言。靁と天馬にも言っていて内容を聞きたかったけど、聞いたら効力がなくなるって言ってたから、やめておいた。でもそっか、、なんだが勇者としての直感かもしれないけど。
(予言なんてお守りか忠告程度だってアイツは言ってたけど、あぁ今わかった。私はきっと、ここで。。)
「……雨宮夏。君はとても不幸だよ。」
正治の言葉に私は目の前の現実と向き合い直した。もう後悔はない。だから、あとはその残滓をなくすだけ。
「不幸?それはアンタが決めることじゃないわ、ショウジ。私の幸福、私の不幸は私が決める。誰かに頼ってばかりで依存しまくってるアンタにはちっともわからないでしょうけどね?」
「……依存。そう見えて、僕はここで誰よりも幸福だよ?」
「バカね。幸福っていうのは、何も幸せの絶頂じゃないの。幸福っていうのは時に辛いこと、時に嬉しいこと、時に虚無なこと。それら丸ごとひっくるめての幸福なの。その過程がどれだけ辛くてもね、人は全員幸福であるのよ、でもね……アンタは人じゃなくなった。人の道から外れた、なら、アンタに幸福はやってこない!自分で捨てたものに執着するなんて、見ていられないわね!!」
「───そっか。もう言葉は不要、そう言いたいんだね。」
(何にもわかってないわね、やっぱり。)
「じゃあ、望み通り。僕の望み通りやってあげるよ。君たちは彼女の歌によって死ぬんだ。彼女の歌が世界を包み込んで、そして僕だけの世界になるんだ。」
[───luaaaaaaaaa!!!!]
戦いの気配がしてらすぐに魔術秘宝を使う。おかげであの声をまともに受けずになんとか耐えることができる。もう戦いは始まっている。私の目標はただ一つ、
(奏。ごめんなさい、貴方をこの手で……っ!)
「夏。ショウジはまかせろ、ここで確実に因果を断つ。」
「───言ってくれるじゃない、前みたいに油断して体吹っ飛ばすんじゃないわよ!」




