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【この残酷な世界で俺は生きている】  作者: 半分死体
チャプター9「魔王軍」
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82話「嵐前」





 私は魔王城にて少し早歩きで廊下を歩いていた、理由は言わなくても分かる通り焦っているからだ。


 (勇者……っ!)


 半月以上行方不明だった勇者達が突如戦線に現れたと思ったら大軍の下級魔族と上級魔族を一気に倒し、危うく魔族領まで攻めいられるところだったのだ。


勇者の捜索を行っていた、私たちは仕事の不甲斐なさから勇者をここまで来させてしまった責任追及、が飛んでくるわけじゃないけど。それでも上級魔族達の悪口の対象にはなっている。

それが個人的に一番嫌だ、自分の不甲斐なさもそうだし、なによりあんなただ前線で式ができる程度のポンコツに自分の悪口を言われることに腹が立つ。


思わず、持っていた書類の端を握力で粉微塵にしてしまいそうだ。


 (報告をまとめて、対勇者用の魔獣をペルソドに依頼して、今回の被害範囲の具合を整頓化……それからっ!)


 半月間何もしてないわけじゃない。ただこの瞬間の忙しさは最高潮に達していた。そんな時、会いたくない人物と出会ってしまった。


 「あ、!!」


 「──っ!(クランクイン……ッ)」


曲がった先にいたクランクインとの距離は少し離れていた。ただ彼女の悪戯な視線を感じた私は本っ当に関わりたくないので元の道を逆戻りした。あのチャランポランに生きているだけの上級魔族はきっと、なんか言ってくるでしょうが、今の私はきっと彼女に何か言われた瞬間爆発しかねない。魔王軍の貴重な能力持ちをここで粉砕しないように、戦略的撤退を───!


 「やっほぉっ!!パルワルド!」


 「ッ!」


何も考えていないような態度で肩をポンっと叩かれ、怒りが有頂天に達しかける。ただ、黒魔術を飛ばすことはなく私は、落ち着いて、落ち着いて!深呼吸。なんとかため息だけで誤魔化す。


 「……クランクイン、こんなところで何を?」


 「うえ!あー、えっとお………散歩。」


 「そう、ですかッ。ちょっと忙しいので黙っててもらっても!」


 「ぁっ、うぇーん。その、パルワルド怒ってる?」


 「──怒ってませんがッ?」


 「いや、怒──っ」


 「怒ってませんがッッ?」


 「あ、はい。ごめんなさい。」


私の怒りが伝わってくれたのか、流石に空気の読めないクランクインも空気を読んでくれる。いつもこのようにマトモならこちらも死ぬほど苦労することはないのですが、、なんでこんな正確な人物を魔王軍は処分しないのか。いえ、処分できないのですね。能力持ちは使えようが使えなかろうが、使えるようにする。真面目な魔族がバカを見るハイパーブラックな職場がここでしたね。


 「それでは、用がないようでしたら。そこをどいて私に道を譲ってくれます?これからやることが山のようにあるので。」


 「あー!どうぞどうぞ!!」


 「どうも。」


早歩きでヒールでカツカツと床を傷つける勢いで私はその場所から去ろうとしてクランクインがきた道を歩いて言うとした時。


 「あっ!パルワルドそっちはダメッ!!!」


 [────〜〜〜〜〜luaaaaa………!!]


 「ッくぅ!!!」


耳を突き刺し、鼓膜を破壊するような歌声が外から聞こえてくる。建物全体が揺れて魔族将軍の私ですら立っていられないほどの眩暈と頭痛、気分の悪さを感じる。


 「ッああああっ!!ぐぅぅッ!!!」


 「パルワルド───っ!!」


すかさず、クランクインが得意なワープによって私だけをその危険地帯となっていた廊下から遠ざけてくれた。持っていた書類は一人でに意思があるかのようにブルブルと震えたのち、蒸発するかのような音を立てて、消え散った。


 「パルワルド、大丈夫ッ?!」


 「──はぁ、ハァ。大丈夫ですっっ、」


息を整えて、再生能力に集中して、体の不調を一気に治す。すぐに立ち上がれるようになった私の心はこれまでにない恐怖に近い、不愉快さに溢れていて先ほどの全てにイラついていた心なんてものはどこかに消えていた。


 「それより、今のはッ」


 「……失歌姫。パルワルドも聞いてるでしょ、あれが僕たち魔族の今の切り札。崩壊の歌、無秩序の歌姫、僕とペルソドがウチムラと魔王様の要望で完成させた。いや、させてちゃった終末兵器。」


 「……報告で聞いています。大魔族の勇者を退けたほどと、なるほど、納得です。ですが──これは、危険すぎる。」


 「だよね、、って作った僕が言うのはなんだけど。……もう立てる?」


 「はい。」


クランクインに肩を持ち上げられる形で私は立ち上がる。本来ならここから製作者であるクランクインとペルソドを問いただしたいところでしたが、今はそんな気力すら湧かない。あの歌声はひどく綺麗手間はあるものの、その不愉快さ、気分の悪さは今まで感じたもののそれとは大違い。まるで精神を丸ごと落とすかのような歌。


 「っ、あんな野蛮な兵器にご執心のウチムラは、何を考えているのですか。」


 「……多分。愛なんじゃないかな?」


 「愛?だとしたら、相当歪んでいますよ。首を切られて魔族に陵辱された勇者、その遺体を使って生きていた頃とそっくりなだけのアンデットを作って、自分だけの言いなりにさせて、愛を語るだなんて。魔族の私から見ても頭のネジが外れていると言わざる負えません。」


 「……それ、本人の聞こえているところで───言ってもしょうがないよね。僕たちができることは、関わらないことだけだし。」


 「………なんで、私の同僚は精神がマトモじゃない人ばかりなんですか──っ。」


 「それはもう、、魔族だし。」


 「───なんで、、、なんで魔族の中で!私だけ!マトモで!頑張って!いるんですかッ!!!」






<──|||──>






 靁を連れて、城まで撤退してきた俺たちはカテナに魔族を追い返したこと、そして魔族に追い返されたことを話した。人魔戦線を超えて魔族領にまで侵入できたのは今回の攻撃が初だったため、最終決戦が近づいていると感じると共に、あの失歌姫に対してどういう対策をとるべきか、城に集結した貴族も含めて話し合うことにした。


 (なんで、この人達まで。戦闘のプロじゃないだろ。──でも、カテナが読んだってことは何か理由があるんだよな。)


ここにいるのは夏、俺、貴族達、そして国王代理となっているカテナだ。靁は、、


 「ねぇ、天馬。靁は大丈夫なの?」


 「あぁ、ただ身体中の血管がかなり壊滅的になったらしくてまた再生にちょっと時間がかかるそうだって………。」


 「そう、、、」


夏が小声で聞いてくる。俺はその話を聞きながら貴族達が俺たちに向ける視線について自己分析してた。まぁ大体が


 (なぜ、王殺しの勇者をここにとか考えてんだろうな。態度と小声でバレバレだ。)


そもそも失歌姫も含めた対策に戦いのイロハも知らないこいつらがここにいる方が変だと思うんだが。。。


 「全員静粛に。代理国王、カテナ様から話があります。」


 「………」


 (カテナ。)


カテナの服装は本物のお姫様のようだった。ただその顔は煌びやか感じとか一切なくて、なんと言う曇った感じというか、真っ直ぐのような感じだった。前ちょろっと貴族達がカテナの服装について、本人の前でとても熱弁していたことが印象的だったが、今この場所においてそんなバカみたいな行動に乗り出す奴はいない。その顔はからは凛々しさより、世界の残酷に立ち向かう決意の塊を感じる。


 「まず、本日は招集にお集まりいただいたこと、誠に感謝いたします。国王たる父が死んだことにより一時的ですが国を任されることとなりました。混乱している方も、今はどうか此度は私の話を聞いてください。」


 『…………。』


 「さて、本題に入りましょう。………本日私が貴方達貴族をお呼びしたのは他でもありません。私は人魔戦線、及びこの戦争の終結を早期にさせるため。───王族が保有する魔術秘宝を解放しようと考えています。」


 『────!』


貴族達が一斉にザワザワと話し始めた。その顔は信じられないと言った顔がほとんど、今の言葉に対して、そしてカテナに対して、そしてなぜか自分たちに対して、俺はそのカテナが言った魔術秘宝ってのがよくわらないから、夏に聞いてみる。


 「………詳しくは知らないけど、確か王族が保有する。権威の象徴とも言える、極大な魔術宝具だったはずよ。なんでも、人が行使できる魔術の範囲とは桁違いの特性があるとか、ないとか。」


 「それを解放するって、まずいんじゃないのか?」


 「まずいも何も、とんでもないわよ!今カテナが言っているのは、王家はこれでおしまいですって言っているようなものよッ!」


 「な、なんで!」


 「王族の権威の象徴を戦いのために使うんだもの!!それに、その魔術宝具がどれだけの代物か知らないけど、きっと秘匿性が無くなれば安い模造品が大量に作られることになるわ。得体の知れない、ってだけでも権威の高さが働いているんだから!例えば、国を滅ぼす邪剣が、ただのヒノキノ棒だったら、権威もクソもないでしょ!」


 「──なんで、そんな!」


 「…………私たちに、戦争を終わらせてほしいため。魔術秘宝を解放するのは、多分私たちのためだけよっ!」


 「カテナ様ッ!!!」


俺と夏との小声話がとある貴族の台パンによって遮られる。


 「ご再考を!!」


 「…………」


 「魔術秘宝は、国の……そして王族の象徴!それを手放し、戦いに使うだけではなく!この勇者達に与えるなど、私は反対です!!貴方のお父様を殺した人達ですよッ!!」


 「……そうだ、この者たちは!王族殺しだ!」


 「このような者たちのために、慈悲を与えるなどと!何を考えているのです!」


 「いや、そんなことよりも戦いが終わる前に、断罪すべきだ!」


貴族達はだんだんと口裏をあわせるように、言葉に当てられてその考えはエスカレートしていく。ますます俺たちの立場がなくなっていく中、俺は発言しようと席を立とうとするも、夏に止められる。


 「ここは、カテナに任せたら。きっと──勝算なしの彼女じゃないわ。」


 「………うん。」


夏の言葉に頷き、俺は貴族達の罵詈雑言を聞きながら、カテナの次のアクションを待った。


 「………皆様のお気持ちはよくわかりました。皆様は、魔術秘宝の解放に反対ということですね。」


 「その通りです!」


 「───では、なぜ私が貴方達をここに呼んだか、理解していますか?」


 「………それは、どういう?」


 「私が、"貴方達が魔術秘宝の解放に賛成する"と思ってここに呼んだと思っているのですか?」


 『!!』


カテナの一声に、貴族達は顔色を変えた。まるで弱みを握られたいじめっ子のようにその焦りは明確だ。これからカテナの一方的な逆転劇が始まる、それを誰しも予感していた。


 「……今一度お話ししましょう。前任である、私の父、国王はこの国の民を虐げていました。聖騎士制度を作り上げ、平和ではなく圧政で民達から人を食糧を奪い、全てを人魔戦線の維持と戦力に費やしました。中には、まだたった数週間訓練した程度の人までもが駆り出されていました、被人道的な魔術を扱い、自分に従わせる駒をつくり、民までもを自分を守るための道具と仕立て上げた。そんな、民を苦しませた者を果たしてこの国の頂点に据えるべきかどうかは、火を見るより明らかだったはずです。」


 「ですが!貴方達は国王がこのような暴虐に出た時、何をしていましたか!!見もせず、聞きもせず、動きもせず、ただただ恐怖から進言もせず貴方達は国王と同じように民達を虐げてきたではありませんか!!」


 「何が、忠誠なる臣下ですか!本当の臣下であるのなら、自らの命と引き換えに、貴族として民を守るために国王と相打ちを覚悟する者です!ですが貴方達はそれを行わなかった、そればかりか今度は自分たち無実の被害者だと誇張し、民達と同じ立場だと驕った。貴方達のような者は国王と同じただ民を苦しませるだけの存在と何が違うのでしょうか!!」


 「私は、そんな貴方達に理解してもらおうとここに呼んだのではありません。その今まで積み重ねてきた罪の生産をここでしてもらうために呼んだのです。───何もしなかった貴方達。かたや自らの罪と向き合い戦い、民を救ってなお、この戦いを終わらせるために血を滲ませ続ける勇者様方。どちらがこの場において正しいのは明白です!!」


 「この言葉を聞いても、まだ自分が罪なき者だと思えるのなら!この私の首を打ち取り、自身が臆病者ではないということを証明なさい!」


 『!!』


 「それができないというのなら、潔く私に従い、今後自身の罪と向き合い続け、贖罪に身を捧げなさい!!」


カテナの言葉によって貴族たちは沈黙した。なぜ、貴族達をここに呼んだか俺には全く理解できなかったが、それはカテナの最大限の温情であるということを今知った。彼女は前王と違い、恐怖政治をしているんじゃない。真に人々を導くために、たとえそれがどんな酷いことを行っていた人だったとしても、全てを救うつもりでここに呼んだ。


貴族達が国王に従い民を苦しめたっていう罪が消えなくても、だからそれでおしまいにしない。


 彼女らしい優しさの言葉だった。


 『…………。』


貴族達はしゃべろうともせず、俯いている。どうやらもうクイーンカテナに逆らうものも苦言を呈するものもいないようだった。


 「………沈黙は、承認ということでよろしいですね。──貴方達貴族は、民を苦しめました、この事実に変わりはありません。本来ならば処罰を今すぐにでも下すところ、ですが今は人類が心から団結する時、貴方達が貴族の端くれだという自覚があるのなら、せめてその最後の時まで自分の役割を全うしなさい。」


 「……承知いたしました。カテナ様。」


 「………お見苦しいところをお見せいたしました。」


貴族達はカテナの言葉にまっすぐに従って、椅子から降り、地面に膝をついて忠誠を誓った。その光景はカテナが掴み取ったある種の勝利だった。


 「勇者様、」


 「は、はい!」


 「ご案内します。魔術秘宝のところに。」


こうして俺たちはカテナの協力によって魔術秘宝がある場所へと迎えられ、そこの中から戦いに必要だと思われる道具を一つ残らず手にし、大戦に向けての準備を整えた。




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